「わかちゃん、わかちゃん」
「何?」
「パワーストーン」
「え?」
「ブレスレット、流行ってるよね」
手を引かれて、臨也と入ったのはパワーストーンのショップ。
流行りのパワーストーンブレスレットを見たいらしく、珍しく子どもみたいな目でものを見ていた。臨也が人間以外に目を輝かせるのは珍しい。
アクセサリーはあまり興味がないが、臨也と行動出来るならなんでも良い。
何をするかじゃなくてこの時間が、楽しいのだ。
「知ってる?わかちゃん。パワーストーンには意味あるんだよ」
「
馬鹿にしてんの?」
「嘘だよ」
店頭に並ぶ色鮮やかなパワーストーンを眺めていた臨也は、私を一瞥してゆるゆると目元を緩める。
恥ずかしいからやめてほしい、その顔。
“幸せで仕方ない”って顔してる。
「わかちゃん、こっち来て」
「どうしたの?」
「わかちゃんのセンスに任せるよ、どれが良い?」
ずらりとディスプレイされたブレスレット。
女向けから男向けまで様々だが、少しばかり女向けの方が多いかもしれない。
どれが良い、って言うのは多分、臨也に似合うものを選べってことだろうか?
昔から私のセンスは臨也の好みらしく、気に入られていたのを思い出す。
「……」
す、と臨也の手を取って手首を見る。血管が浮き出た、細いけど男の手首。
白いなあ、私より肌が白いかもしれない。私はそんなに白い方じゃないけど、それでも臨也は白い。
ディスプレイのブレスレットと、手首と、臨也を繰り返し見返す。一つ一つ、丁寧に。
顔を見るたびに笑いかけられるのは恥ずかしいったらないが、選べと言われた手前、下手なものを選びたくない。
男物だけでなく女物まできっちり見たものの、
「……」
「わかちゃん?」
「駄目」
「え?」
駄目だ。
「気に入らない」
ディスプレイじゃ、気に入らない。
手首を掴んだままビーズのエリアに異動。
「わか、ちゃん…?」
「…」
ビーズの入った容器を一個ずつ掴んで手首に合わせる。
……ああ、やっぱり黒が似合うなこの男は。
「いっこ好きな色選んで」
「え…赤、ルビー…?」
「………」
赤と、黒と、
「じゃあ、これとこれとこれ」
「! 買ってくる」
「ん」
選んだのは、色で言うと黒、赤、白。
ピンクにしようかと思ったけどやめた。代わりに赤を選んだから、問題ない。
似合わない色じゃない。無難に走ったところもあるけど、“意味”を考えたら、充分だろう。
「お待たせ」
「ううん」
「わかちゃん、手出して」
「?」
「右手」
言われるがままに右手を差し出すと、冷たい感触が手首に当たる。
「それは、俺からね」
私が選んだものとは別の、パワーストーンのブレスレットだった。
22.組み合わせは黒とピンクと白。
「……ん」
――――目が覚めると、嬉しいような悲しいような。
複雑だった。
掛け布団を抱き締めて寝返りを打つ。視界の隅で髪が波打った。
夢にしては願望が詰め込まれ過ぎてる。
嬉しいけど、現実はこうじゃない。
そもそも、連絡すらとっていないのに買い物なんて都合の良いことできるはずもない。
宮里と臨也が接触してから、2週間が経ったある日の夢の話。
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