13.甘酸っぱいはずなのに、苦味を感じた。














「わかちゃん、どれが良い?」

「いちご」

「随分可愛いね」

「酸味がないと生地とホイップの甘さに胸焼けする」

「まじ?」



俺チョコバナナ。
と、カウンターに声をかける。



あの後、逃げようとした私だがあっさり捕まって放課後デート状態だ。

臨也お気に入りのクレープ屋さんに寄ったりなんかして、こんなんじゃ私たちが付き合っているみたいじゃないか。




「はい、お金」

「いらないよ、たかだか350円をケチるほど俺の器は小さくないからね」

「受け取らないなら帰る」

「……女の子はそう言うところ黙って受け取るべきだと思うんだけど」

「私みたいな人間に奢りが通じると思ってるの?人間観察に長けている癖に身近な人間の思考は見抜けないってか」

「……分かったよ」



350円きっちり握らせて、店員さんが出してくれたクレープを握る。




「わかちゃん、頑固すぎ」

「その頑固者をデートに誘ったお前が悪いよ、折原」

「はは、正論だ」

「!」




なんだ、なんだこの感じ。やっぱりなんだかすごく優しい。余裕がある。私が高校生だから、背伸びする必要がなかったということなんだろうか。
背伸びをしない臨也は、思わずもたれかかってしまいそうな雰囲気で私の隣に立っている。どうしてだろうか。

私が知らないだけで。
臨也は、こんなにも大きかったんだろうか。



「おいし…」



クレープを頬張ると、甘酸っぱさが口の中に広がって、自然と美味しいと呟いてしまっていた。

それを聞き取っていたのだろう、臨也は私の顔を覗くように顔を傾けて、臨也にしては珍しく純粋な笑みを浮かべていた。
とても、嬉しそうだった。




「放課後デートだね」

「ただクレープ食べてるだけだけどね」

「なんでわかちゃんはそういうこと言うかな」

「は?」



バナナを咀嚼していた臨也は一旦それを飲み込んでから呆れ混じりに笑った。


「わかちゃんは楽しくない?」

「……楽しくないわけじゃ、ないけど、」

「なら、デートでいいだろ?」

「お前は私の男のつもりか、折原この前キチガイって言ったじゃない」

「……」

「!」




――――息を、飲んだ。

何だその表情は。
何だ、それは。

目が、表情が、全て、切ない切ないと訴えかける。



その表情、知ってるんだ。

臨也が私をコンクリートの壁に押し付けた時の、あの縋るような表情。



なんで、今。





「(まさか、)」



まさかまさかまさか。





















14.甘酸っぱいはずなのに、苦味を感じた。





まさか、本当に私のこと、好きなのか。









574/578