もえる!地球温暖化計画::P1/2


暖炉の炎に照らされた妖精さんたちが幸せそうな息を吐きました。
幸せの種はそれぞれが手にしたカップ。
もっと正確にいうならカップを満たしたココアです。
両手で持ち上げて口をつける仕草が可愛らしい。

「ここあはやっぱりにんげんさんのてづくりだな」「しみわたるあったかさ」「ほっとちょこもいいが、ここあもなかなか」「ふーふーして」「うまし」「これならなんばいでもいけちゃう」

人形遊び用のカップは妖精さんのサイズにぴったりで重宝しています。
キャラバンで見つけるたびにちょっとずつ集めたコレクション。
集団の訪問にも対応できるようになってきて楽しさも増してきました。
ひとつだけ不満を上げるとすればデザインがバラバラなことですね。
お揃いのセットが欲しいかも。
国連職員の立場を利用してちょっと特注品を……いや、ダメですね。
ちらりと顔を覗かせた欲望を振り払います。
ここはまだ職権濫用する時ではないです。
特権はここぞというときの為に懐で温めておきましょう。
衣装もバラバラな妖精さんたちには統一されたデザインよりこちらの方が似合ってるとも思えますしね。

こうして眺めていると本当に生きた人形のようにも見えてきます。
暖炉前に配置した白木のサイドテーブルの上にファンシーな光景を繰り広げています。
ただ輪になってココアを飲んでいるだけなのに幸せを与えてくれる。
炎の揺らめきもいい演出をしていますね。

これには眠気を誘う効果もあるみたいです。
小さくあくびをかみ殺して肩に掛けたストールを巻き直します。
少し室温が下がってきました。
暖炉の炎は日中の半分以下まで小さく形を変えて残り時間をカウントしています。
薪を継ぎ足すのは我慢です。
先に寝室へ向かったおじいさんに代わって、今晩はわたしが火の始末をする当番。
火の扱いは怖いですから適当なことはできません。
最後まで見届けなくては。
これが燃え尽きたらベッドに行くとしましょう。
その頃までには妖精さんの集会もお開きになっていることでしょう。

「さむいです?」

体を縮こまらせるわたしに妖精さんがやさしい声をかけてくださいました。

「そうですね。ちょっとだけ」

「ふゆだもんね」「あしたも、ゆきだるままーくでしょう」「ゆきあそびびより」「こたつでまるくなるもよし」「じょしゅさんが、くしゃみさんかいれんぞくしてた」「わー、しんきろく」

あまり冬の寒さを問題としない妖精さんたちには実感の湧かないことなのでしょう。
どこか他人事な空気を纏って軽快なトークを繰り広げています。
助手さんの体調がちょっと心配ですね。明日は体が温まるお茶を淹れてあげようと思います。

「にんげんさんは、さむいのがおきらい?」「はやくあったかくならんかな、ゆーてたよ」「さむいとこしがいたいって」「たいへんだ」「こまりごと」「おたすけしたーい」

彼らは里の住人たちの声をよく聞いている。
人間の前に姿を見せなくても物陰などに潜んでいるのです。
妖精さんはいつでもわたしたちの近くにいます。

そして妖精さんにはわたしたち人間の役に立ちたがる習性があります。
自ら進んでこきつかわれ虐げられたがる不思議な生物です。
しかし、彼らがやる気を出すと面倒な問題に発展しやすくなるのも事実。
たいていは悩み事解決を飛び越えて斜め上へ行ってしまう。
そんなときのためにわたしたち調停官がいるんですけどね。
何度となく巻き込まれて来ました。
そして培われた危険察知能力が告げます。目の前でトラブルの芽が発現しようとしていると。
問題発生を阻止できるならしておきたい。ここで止めるのもわたしの役目です。

「あったかく、しますか?」「ちきゅうをあったかく?」「おんだんかー!」
「ダメ」

予想した通りに暴走を始めた会話にNGを突きつけます。
そんなココアにシナモンを振りかけるような気軽さで地球環境を変えられても困ります。
いまここに集まっている人数だけでは無理でも、大勢集まれば環境を変えるくらい朝飯前なのが彼らなのです。
彼らにはそんな程度のことでもわたしたち人間には大問題。
衰退を受け入れた身には大きな変化はいらない。ゆったりまったりいきたいものです。
いくら人類の座を明け渡したからといってもやっていいことには限度がありますよ。

「え?」「なんで?」

なぜ止められるのかわからない、といった様子。
心底不思議そうにこちらの顔を見上げてきます。
人間を助けたいだけで悪気はないんですよね。でもダメなものはダメです。

「温暖化反対」

「あったかいのに?」「ぽかぽか」「ぬくぬく」「なんごくふるーつ、たべれるかもなのに?」

「いいえ、フルーツは輸入が決まっています。温暖化しなくても、いつでも食べられますよ。手始めにマンゴープリンはいかが?」

この一言は効果がありました。
ささーっと温暖化の話題から引いてくれました。
しかし代わりの部分に火がついていました。
妖精さんたちの”やる気”は継続するようです。

「おれいになにかしなきゃ!」「おんだんかいがいで?」「もやすだけなら……?」

暖炉の炎を見つめてひとりの妖精さんが言います。
なにを燃やすつもりですか。
気温のせいだけじゃないひやりとしたものが背中を伝いました。

「たきび?」「きゃんぷふぁいや?」「じょおねつのほのう」「もやして」「もやし……」「もやしっこ」「もやもや」「もやす」「もえる……」「あっ!」

何かを思いついたのかニット帽の妖精さんが立ち上がりました。
他の妖精さんたちの注目を集めて声高に報告します。

「もえるとしあわせって、ぎんいろのにんげんさんがゆってた」

あー……。
この銀色の人間とは間違いなくYのことでしょう。
たしかに彼女は萌えさえあれば幸せに違いない。
ただし腐りきった幸せですが。

「どゆこと?」「さっぱりわからんなー」「じんたいはっか?」

Yの発言は妖精さんたちにも理解不能のようです。
……それでいいと思います。
ですが、Yの発言を耳にしていた妖精さんだけは何のことか把握しているようでした。

「もえるとはつまり、しんでれ!、らしいです」

ニット帽の妖精さん。普段と変わらない表情ながらもドヤ顔でした。
他の人が知らない知識を披露できるって快感ですよね。
ちょっと間違ってるんですけどね。
聞きかじりの知識がさらなる疑問符を発生させていますよ。

「しんで……れ?」「しんでれってなんだ?」「しんでる?」「しんでれら?」「それだ!」「らぬきことばいくない」

「ツンデレですよ。シじゃなくてツ」

我慢できずに口を挟んでしまいました。
勘違いのまま話が進むのはむずむずするものです。
ああ、いまのわたしもドヤ顔になってるんでしょうか。
わたしも本質の理解はしてないんですが……Yの側にいるせいでいらぬ知識が増えてしまって困ります。
本当興味はないんですよ。

「ツンデレとは好きな人に対して真逆の態度をとってしまうことですね。本当は好きなのに『あなたなんて好きじゃないんだからねっ』とか」

「なるほどー」

ひとりの妖精さんがつついと前に出てきました。

「べ、べつに、にんげんさんのことなんて、す…………すきなんだからねっ」

もじもじ、体をくねらせながらの告白です。
とっても直球。ストレート。
本心を隠すつもりはないようです。
デレデレでした。
激しい葛藤があったのでしょうね。
間に挟まれた長い沈黙が迷いの深さを物語っていました。
彼らに嘘はつけない。
特に大好きな人間に嫌いなんてことはね。
可愛い子です。

「なんだかぽかぽかしてきたです?」

むっはーと息を吐き出した妖精さん、心なしか頬が上気しています。


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