ねるねるするね?::P1/3


書類整理が本日のわたしのお仕事。
積まれて山となった書類が崩れる前に、掃除も兼ねた大仕事です。

一枚を手に取り内容に目を走らせて置く。
これを何十回と繰り返す、単純で単調で簡単なお仕事。
書かれている内容を判断するのに考える力は必要ありませんでした。
ほとんど無に近い心で手を動かします。
これは里の住人からの嘆願書(無理難題)
同じく叶えられない要望で構成された小山のてっぺんに乗せます。

これらを分類ごとにファイルに納めて、見出しのラベルを書いていくのが助手さんの担当。
元気な文字が踊ります。
『妖精さんのおやつ』
これは最近のおやつレシピですね。
毎日のおやつと感想を記録しています。

「おい、これも頼む」
「はいはい」

指示を出す担当のおじいさんから声がかかりました。
差し出された書類を腕を伸ばして受け取ります。
椅子から立たない横着さに眉をひそめられますが、気づかなかったことにしましょう。

渡された書類はたったの紙切れ一枚。
まずは内容を確認、っと読むまでもありませんでした。
一目で把握できてしまう簡潔な文しか書いてなかったのです

『きょう、おかします』

不穏すぎる一文でした。

「おかっ……!?」

な、なにごと!?
うまく声が出てこない、かわりに目でおじいさんに問いかけます。

「見てわかる通り、妖精さんからお前に宛てた手紙だ」
「いやいや、わたし宛てなんてどこにも書いてないんですけど……それよりこの内容ッ!」

これは確かに妖精さんの言葉でしょう。
簡潔すぎて難解という高度な言語です。

「また何か新しい遊びを思いついたんだろう。様子を見てきなさい」
「かわいい孫を危険かもしれない場所に行かせますか。いけない遊びだったらどうしますか」
「問題ない。助手くんを同行させる」

わたしたちがこうして会話してる間も真面目に仕事を続けていた助手さんが顔を上げました。
指示された仕事に文句ひとつ言うことなくがんばる助手さんですが、やはりデスクワークに退屈していた模様。
瞳に浮かんだ光が外出できる喜びに踊っていました。
おとなしい彼の感情表現のひとつです。
わたしにはわかります。彼、結構テンション上がってますよ。


≡≡≡


まずは妖精さんを探すところからスタートします。
事務所で捕まえられたら良かったんですけど、そう都合よくは行きませんね。
会いたいときに限って現れないのが彼らです。
それに、呼び出しの手紙に集合場所を書き忘れるなんて、とんだうっかりさんです。
いつも気ままに生きている彼らは、こういうことにこだわらない傾向にあります。
約束の場所に行けなくても『まぁいいか』で済ませてしまう。
どうせ待ちぼうけを食らわされた方も、すぐに忘れてしまうんです。
うらみっこなしです。

しかし、わたしはそうはいきません。
一応これでも社会人ですから。
責任もって会いに行き、この手紙の真意を聞き出さなければ。
ですから、なんとしても妖精さんを見つけだすことが重要になります。
いつもの定位置に助手さんを従えて里の広場へ続く道を歩きます。

ひとり見つけて、そこから目的地を聞き出すとしましょう。
その子が知らなくても磁石の役割を果たしてくれるでしょうからね。

「わかりましたね、助手さん」
「……(こくり)」
「第一のミッションは妖精さんの捕獲です」
「……(びしっ)」
指先まで真っ直ぐ伸ばした右手が額に当てられる。
立派な敬礼です。
彼ならきっと任務をやり遂げてくれることでしょう。

街道沿いに生えた雑草をかき分け、人の頭ほどもある石を持ち上げて、さっそく捜索を始めた彼に背を向けて
わたしは逆側へ目を走らせます。
わたしたちの姿を見つけて寄ってくる人影はなし。
「妖精さーん」
返事なし。
どこかに隠れていそうな気配もなし。

ちょっとお誘いの仕掛けを用意してみましょうか
茎の長い植物を一本、根本から折ります。
今の季節によく見かける白い花ですね。名前は知りません。
これを手に持ちゆらゆら揺らします。
猫じゃらしのように。
不規則なリズムをつけて、手元から目をそらしておくのがポイントです。
何気ない風を装い無意識に湧き出る楽しさを演出します。
見つけてしまったらもう無視できない。そんな罠にするのです。

どこかにいる妖精さんの関心をひきます。
彼らなら期待に応えてくれるはず。

ゆっくりのんびり。
丁寧な捜索をする助手さんに歩調をあわせて進みます。
こうしてお散歩するのもたまにはいいものです。
穏やかな日差しの下、頬に風を感じながら一呼吸。


「今!」

ぐぐっと手元に伝わってくる重み。
急に重さ増量した花が待ち人の到来を知らせます。
弧を描き頭を下げまま戻ってこなくなった長い茎の先。
そこにぶら下がる妖精さんが、わたしの声に驚いた様子で固まっていました。
妖精さんひとりゲットです。



「案内よろしくお願いしますね」

みんなが集まっている場所を知っているというので案内を頼みました。

ゆらゆら揺れるのが楽しいんですかね。
この態勢が気に入ったらしく、花から離れようとしません。

「……」
「これ、持ちたいんですか。いいですよ」

助手さんにバトンタッチ。
さっそく揺らして遊び始めました。
ぶら下がったままの妖精さんは前へ後ろへ、前へ後ろへ、まるでブランコでした。
妖精さんの口からは絶えず歓声が上がっています。
わたしが持っていたときよりも大きくなった揺れが妖精さんを喜ばせているようです。
茎が折れてしまうぎりぎりまで挑戦する遊び。
ブランコの反動を利用して飛ぶ遊び方もありますよね。
どれだけ遠くへ飛べるか着地点を競い合うのです。
わたしはそれを遠くから眺めているタイプでした。
「手は放さないでくださいね」
飛び立ったらそのままいなくなってしまう予感がしました。
道案内、失うわけにはいきません。

そんな心配をしましたが、いざ進行を再開してみると杞憂だったと思い知りました。
彼はとても優秀な案内人でした。
引き受けた頼み事を責任もってこなしてくれる、まじめさん。
寄り道はなしです。
遊びながらも忘れず「あっち」「こっち」と教えてくれる。
声に従って道を選び歩いていきます。
「ここ」
到着を告げる声が出たのは一軒の空き家の前。
住人がいなくなってまだ日が浅いらしく、崩壊は最小限で抑えられていました。
屋根と壁がしっかりしていて建物の形を残してる。
強風が吹いたくらいではびくともしなそう。
いくつか修理をすれば使えそうなお宅でした。
不動産情報にインプット。心のメモ帳に刻みます。

ドアを無くして開きっぱなしになった入り口から中を覗いてみると、いました。
大きな作業台のようなものの上に数人の妖精さん。
そわそわと落ち着かない様子で待機しています。

「あら?」
ひとりの妖精さんに目が止まりました。
他とはちょっと違った帽子で目立っています。
ほとんど個体差のない身長の妖精さんたちから飛び出てます。
あの子だけとってもノッポさん。
彼の半分は帽子でできていました。
全体のバランスがおかしくなっていますよ。
しかし自重でへたることなく伸び上がるあの姿、まごうことなきコック長です。
白い円柱形の帽子は高さがあればあるほど偉いんだとか。昔、本で読みました。
真偽のほどはわかりませんが彼がキッチンの首領であることは確かでしょう。
つまりは彼こそがこの集まりの主催者。
この招待状の差出人と思われます。
集団を束ねるリーダーのオーラが輝いています。


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