『あまい恋』::P2/2


「もっと、もっとしてくれよ」
「きみは、あまえんぼさんだなです」

そして沈黙。
部屋が静かだとページをめくる音が妙に大きく聞こえて、悪いことをしている気分になるものです。
無意味に息をひそめてしまう。
自分の部屋なのに若干居心地悪し。
最初にやめさせておくべだったかな、なんて思ったりもして。


「「んっ、ぷはぁっ」」


もうっ!なんでYはこんな作品を好んで読むのですか。
わたしを困らせるのが大好きなYのことです。
この状況を知ったら、さぞやいい顔でほくそ笑んでくれることでしょう。
……ダメです。集中。集中しましょう。


「この、たかぶるきもち、どうしてくれる」
「ぼくだって、おなじきもちさ」
「おまえのここ、まいうー棒みたいに、かちかちになてるです」
「きみの、せいだよ。せきにんとってくれよね」
「わかったよ。ほら、こちにくるです」


まいうー棒とはキャラバン隊に常備されてる定番のお菓子です。
棒状のスナックに様々な味付け粉をまぶしたもので、味の種類は無限大とも言われています。
未だに新味開発が活発に行われているらしいです。
交換物資に余裕があるときなどは、少し多めに入手してストックを置いておく家も珍しくはありません。
子供から大人までもが大好き。
もちろん、わたしもそのひとりです。安価で手に入り手軽に食べられるので重宝しています。
ちなみに、わたしの一押しはサラダ味。
なぜなら野菜を食べた気分になれるから。

「きみのはだは、ぽぷこーんのようにしろいです」
「おまえのはだは、しらたまだんごのように、もちもちするです」

どんな例えですか。
本当にこれは小説にある台詞なのかと疑いたくなる内容です。
変な小説もあるものですね。
まいうー棒みたいになるなども、いまいち意味がわからない。……嘘です。
なんとなく意味するところは察しがついてます。

「きみとふれあうと、まなつのあいすのように、あまくとけちゃうよ」
「ふふふ。もう、とろとろになてるじゃないか」
「きみのも、はちきれそうになってるよ」
「なめて、くれるかい?」
「ちょこっとだけならば」

あー、これはまずくないですかね?
いえ、味がまずいとかではなくて。

「やめろよです。あまり、はげしいの、ぼくのみるくじゅーすがでちゃうよ」
「だすがいいさ、です」
「のみこんで、ぼくのみるくじゅーす」

「ま、待って、待って!」

さすがに見逃せない展開がきました。
現状を確認してみようと振り返ったそこに、あの表紙絵を彷彿とさせる状況ができあがっていたのです。
肌色です。まぎれもない肌色です。
隣に並んで寝て、全身で愛を表現してる最中でした。
頭の位置が逆になってるとは、手の込んだ演技だこと!
妖精さんの裸ってこんななんですねぇ、なんて悠長なことは言ってられません。
まぁ、念のためにチラ見したまいうー棒は異常なしだったので安心しましたが。

寝ころんだ格好のまま動きを止めた妖精さんたち。
わたしの声に驚いて固まってるのだとはわかるのですが、気を遣っている場合じゃありません。
つい荒っぽい声になってしまいます。

「それ以上はノー!です。服を着て!はやくっ」
「「ぴーーーーーーっ」」

動き出してからは、あっというまでした。
袖に腕を通して、ボタンをとめて。帽子をかぶって、手袋にブーツ。
いつもの妖精さんの姿が早送りの映像みたいに出来上がっていく。

怒ったのが効いてるみたいです。
二人、気をつけの姿勢で直立します。

「この本は没収します」
「ええー」「そんなせっしょーなー」
「他にもっと楽しい絵本がありますから、次はそれで遊びましょうね」

とは言っても、朝になるころには興味は別のものに移ってるんでしょうけど。

「はい、演劇はおしまい。今日はとっておきのお菓子がありますよ」

空気を変えるために、ことさら明るい声で告げます。
すると、ほら、妖精さんの表情は輝きに包まれるのです。

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