平次は後悔していた。

今日を記念日として、彼を家に泊めたことを。

まさかこないなことになるとは――

「予想外や、ボケ」

平次は眼前にて自分を押し倒しかけている新一を睨み付けた。

「まあまあ。今日は大切な日になるんだ、全部俺に任せ――」
「られるかアホ!!」
「ってえ!!」

容赦なく相手をどつく。
そうでもしなければ、自分の頭がどうかしてしまいそうだったから。

ずっと好きで、ずっと近づきたくて、何よりも彼を最優先に考えていた。だからこそ振り回されることもしばしばあったし、そんな風に振り回されるのも悪くないと思う自分がいた。

でも、もとの姿に戻ったのはつい昨夜のことで、殊更速く恋人に、挙げ句バックバージンまで奪われようとしているのだ。振り回すと言う話以前に、会話の波に上手く乗ることができない。

「なあ、服部…」
「う……ッ」

自室で、しかも自分がいつも健全な理由でのみ使用しているベッドに押し倒され、額にキスを落とされる。甘い毒は確実に平次の抵抗力を奪っていって、平次は導かれるままに身体をベッドに沈めた。

「や、優しくせえよ」

言いかけた途端、微笑みと熱が唇を奪った。

*****

「ん、ん…」

怯えきった平次の舌を絡め、口内を犯していく。新一の絶妙な舌使いに酷く驚かされ、また徐々に溺れていく自分を想像して恐怖を覚えた。

「っ、」
「はあ…」

一旦唇を離すと、銀の糸が名残惜しむように二つの唇を繋いでいた。

「どうだ、服部?」

よかったか――そう問われて、平次はずるいと思った。

「何で、そんな余裕そうなんや……」

いつもいつも。冷静んなれ言われても、俺は工藤とは違う。感情派や。俺は、ホームズにはなれへんねや。


――ん?
そこで思い付いた反撃。お色気作戦である。

不敵な笑みを浮かべ、遠心力を活用して体勢を入れ替える。じっと熱を込めた視線を向け、ゆっくりと唇を重ねる。

離れてから改めて見つめると、新一は予想以上に驚いた顔をしていた。

しめた!

平次の目が別の意味で怪しく光った。

上目遣いにして、新一の髪を右手で優しく掬う。あとは鼻にかけた甘い声で――

「工藤…」

フィニーッシュ!!

心の中の平次が叫んだ。


「あ、あれ?」

「……」

反応がない。ちょっとした遊び心のつもりであったが――

ちょっとやりすぎたやろか…

「工藤、すまん、俺――」

予想以上に彼を引かせてしまったことに半ばショックを受けながら、なんとかして弁解しようと声をかけた時。

「おい服部…」

身を翻され、再び背後がマットレスに変わる。あまりの唐突さに声も出せないでいると、

「責任取れよ」

驚くほど低い声で囁かれた。

*****

「ん……っ」

舌が向きを変える度、嫌な音が部屋中を潤す。

「工藤…ふぁ」

柔らかくて、温かくて、表面同士を擦り合わせると、未知なる感覚だけれど気持ちよくて。嫌でも鼻にかかった甘えたみたいな声が洩れる。平次は徐々に強まるくすぐったいような奇妙な感覚に眉を潜めた。

「やっぱ…嫌か?」

恥ずかしいことであるはずなのに妙に真面目な顔つきをされ、平次は自然と首を横に振っていた。こんなときばかり何も言えない臆病な自分は、本当に女々しくて情けないと改めて辟易した。



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