「寒いなー…」
並盛町にあるここ、並盛中学校の生徒である山本武(14)は、怪訝な顔で一人ぽつりと呟いた。
「おっかしーな……みんな来ねーのかな?」
今日は練習があるって言ってたのに、と続けると、長く吐いた息が曇った空の中を龍のように駆け巡った。
今日は12月の下旬。教育機関に必ずある、俗にいう【冬休み】の真っ只中であった。そのため大抵の部活は休暇を楽しんでいるところだが、春に試合を控えている―――否、控えてしまっている野球部は、こうして何度か練習する日を作っていたのであった。
せっかくの長期休暇なのだ。ましてや中学生の男子なのだ。遊び盛りの彼らがこんな日に素直に部活へ来るだろうか。そんな物好きは、きっと山本くらいしかいない。
「まいったなぁ」
対して困ってもいないのに、山本は頭を掻きながらそんな言葉を口にした。
*****
「やあ」
ふと背後からした声に振り返る。タイミングが良いのか悪いのか、そこには並中の風紀委員長、雲雀恭弥が立っていた。
「ヒバリ!」
「長期休暇中に学校に来るなんて珍しいね」
「ああ、本当は部活だったんだけど―――誰も来ねーから帰ろうと思ってたんだ」
「ふうん」
全く興味が無いといった様子で空を仰いでいる。先程まで沈黙で不機嫌を訴えていた空は、今では無言に飽きてぐずり始めている。
「どうせ暇なら来たら?」
「え……?」
それは、思いがけない言葉だった。熱でもあるのかと思ったくらいだ。
「なにさ、来ないのかい?」
俺の心情を察したのか、雲雀はいかにも不機嫌そうな顔で口を開いた。俺は彼の表情から熱がないことを確認して、意気揚々と答えた。
「もちろん、行くぜ!」
- 125 -
≪ ≫