物心着いた頃にはいつも隣にあなたがいた。

一番古い記憶の中にも、やっぱりあなたはわたしの傍らにいた。












「姫様、姫様!」

柔らかい日差しが室内までも明るく照らす昼間。
小田原城には今日も侍女や女官達の慌ただしい声が響く。
仕事をしていた武将達も、『またか』と呆れ顔で執務を続行する。


陽射姫。
小田原城の一人娘。
氏政によって蝶よ花よと育てられた深窓の姫は、周囲の予想や期待からはるかにかけ離れた天真爛漫さで人を振り回し、深窓の姫君とは言えないほどの好奇心に満ち溢れる少女。

そんな彼女に、専属の腕の立つ忍びをつけたのが間違いだったのだ。

前述した陽射の性格にますます拍車がかかる。
もちろん、本人に悪気はなく、忍びは基本的無言。
陽射が自覚するのはおそらくだいぶ先の話なのだろう。

侍女達は陽射姫の身に何かあっては大変どころではすまされない話なため、大慌てなのだが、当事者でない武官達は気にする様子もなく鍛錬を続ける。
それだけ、この城に住む者たちにとって陽射姫の『お転婆』は日常茶飯事なのだ。