「小太郎、小太郎っ、お団子食べたい!」

「小太郎、あの簪可愛くない?」

「小太郎、小太郎、」




小田原城下。
もはや城下ですら有名になってしまった、少女と背の高い男の二人組。正体は勿論陽射と小太郎だ。

基本、少女がねだった物を男が黙って買うという構図は、見慣れた日常風景の一部になっている。



「姫様!」

遠くから声がした。
きっと家臣の誰かだ。
声だけで誰かはわからないけど、多分見つかったら怒られる。
「小太郎、見つからないような場所に連れて行って!」
「………」

小太郎の肩に乗って空を飛ぶ。
一気に眼下の城下街が小さくなった。


「わ、凄い!きれいな眺め!小太郎、もっときれいな場所ある?」

相変わらず返事はないが、方向転換して近くの小高い丘の上に降り立った。


「凄い、凄い!」

活気づく城下街、豊かな自然、青く澄み渡る空。
そこからは全てが一望できた。一つの画面に全てが映る。

「こんな場所があったなんて、また連れてきてよね、小太郎?」

こくりと頷いた。

二人でその場に腰を下ろし、暫くその美しい風景を堪能する。
「…ふぁ、眠い…。帰る時間になったら起こしてね。お休み、小太郎」

隣に座る小太郎の膝で気持ちよさそうに眠る陽射。
小太郎はその美しい髪を数度撫でてまた風景に視線を戻した。


因みに、帰宅した時には既に空は赤く染まっていて、余計にこっぴどく怒られたのは言うまでもない。