人気者たちの一日(平日)
黎明寮に住む人気者8人の一日の生活を覗いてみた。


朝6時、黎明寮1階の食堂に駆けこんできたのはゆう、七瀬、未悠、彩弓の寝坊組。ほかの4人はすでに朝食を食べ始めている。
「なんで鈴蘭が起きれているのにこの四人はいつもぎりぎりなの?」
「楓、鈴蘭が自力で起きれると思ってる?望が起こしてるからだよ」
楓がそっか、と納得しながら味噌汁を飲む。隣では鈴蘭が「どやぁ」なんて言いながら納豆を超高速でかき混ぜてご飯に乗せ、これまた驚くべきスピードで平らげてしまう。それを睨みながら慌てて食べ始めるゆう。
女子テニス部の場合、朝練は7時から始まり、8時に終了して片づけや着替えをしてホームルームに向かう。だが、寮(学校から徒歩2〜3分圏内)に住まうレギュラー達は6時30分開始だ。早く来れるからという理由もあるが、レギュラーとして練習時間を確保する目的もある。もちろん、一般部員も6時30分から参加可能だ。
そんなわけで、ゆっくり朝ごはんを食べる時間はない。さっさと食べ終わった先行組4人は食器を洗って返却して弁当を受け取り、準備するためそれぞれの部屋に戻っていった。着替えて歯を磨いて髪を整えるのに20分もいらない。4人はすぐに準備し終わり、玄関に集合する。
一方寝坊組の4人は、大慌てで朝ごはんを詰め込む。遅くても25分には寮を出なければ、30分の練習開始には間に合わない。一般部員は7時までに来ればいいのだが、レギュラーは時間厳守だ。早く食べようとしてゆうが魚の骨を喉に刺して大幅タイムロスし、彩弓歯磨き粉をレギュラージャージに落として着替え直して、七瀬がヘアアイロンで額を軽くやけどしたりと、随分カオスな状態だった。
朝練開始3分前、ようやく玄関に集合した4人。もちろん先行組の4人は先に行ってしまったらしい。玄関にある名札は、裏返されて外出を示す赤になっている。
「もうみんな行っちゃってる!!」
「急げ!走ればまだ間に合う!!」
4人は急いで名札を裏返して玄関から飛び出していった。

朝8時、朝練を終えて制服に着替え、部室を出てきた女子テニス部。ぞろぞろと教室に向かう大勢の女子たちの列を飛び出して、教室に向かって全力疾走するレギュラーが2人。鈴蘭と楓である。ただ、楓は強引に腕を引っ張られている。
明らかに嫌そうな表情の楓をD組の教室まで連れてくると、開口一番「英語の予習見せて」。朝練の時になって今日英語の授業があり、予習(というよりもはや課題)をやっていないことに気づいたとか。しかも1限、しかも先生はスパルタ指導で有名な志村先生。完全に死亡フラグが立っている鈴蘭は、同じ志村先生の授業を受けている楓にノートを見せてもらうことで乗り切ろうとしている。今回だけだから、と楓はノートを取り出した。某スピードスターもびっくりな速さでノートに書き写す鈴蘭だが、殴り書きなため、楓には解読不能だった。
2人が教室に駆けこんでいく間、他のレギュラー達はのんびりと歩きながら次の実況について話し合っていた。次はなんのゲームにするか、ゲームソフトの入手方法なども話し合う。ついでに、今までのゲームは、大抵メンバーたちがさりげなくクラスメートに頼んで貸してもらったものや、中古で安く買ったものが主だ。ちなみに購入の場合はメンバーで割り勘する。ただ、今回は無料アプリでできる人狼ゲームにしようという方針が固まっている。ここにはいない部長にあきれながらも、詳しいことは昼休みに全員でという話になり、下駄箱で一度クラス毎ばらばらになり、廊下で解散した。
その後、ぎりぎりで朝練から教室に入ってきた仁王がD組で見たのは、若干苛立ったように教室を去っていく楓と、ノートの殴り書きを消して清書している鈴蘭だった。

2限と3限の間の10分休み、A組の教室に鈴蘭が駆け込んできた。
「え、鈴蘭?」
「お願い望!体育着貸して!!」
「忘れたの?ならレギュラージャージで授業出たら?」
「酷い!そんなこと言わないで!確実に浮くから!」
「(もう十分すぎるくらい浮いてるけどなあ…)冗談だから、はい」
「わあい、いい匂い。いつも嗅いでるけど。やっぱ望最高!大好き!」
「はいはい」
若干変態臭の漂うセリフを残して去っていく鈴蘭。体育教師である吉田先生は遅刻に関してはかなり厳しく、一人でも遅れれば全員でスクワットをさせられる。体育は2クラス合同で行われるため、遅れれば隣のクラスにまで迷惑がかかる。そのために鈴蘭も慌てていたのだろう。
「相変わらず慌ただしかったね、加藤さん」
「幸村君。いつものことだから」
「大変そうだね…」
「…四六時中一緒にいれば嫌でもなれるよ。でも、他の人じゃあの子の面倒は多分見きれないから」
そう言った望の表情は案外嫌そうではなかったため、幸村はこの二人の関係性をどこか微笑ましく思いながら見ていた。
「次古典だよね?」
「そうだよ」
「あ、そうだ。この現代語訳について聞きたいんだけど…」
「ああ、ここなら文法的には…」
古典の予習や文章の解釈について話す二人は教室の一番前の列に隣同士で座っている(座席指定)。古典は習熟度別にクラスを2つのパートに分けているため、ここにいるのは成績が上位のパートの生徒たち。これまたスパルタ指導で有名な林先生が教室に来るまでの教室は、さながら戦前のようにピリピリしている。ほとんどの生徒が必死で友人と答え合わせをしたり、赤シートで単語を覚えている中、リラックスした表情で教えあっているの流石立海テニス部部長と副部長というところか。先生が来て授業が始まったところで全員が話をやめた。

昼休み、天気がいいということで中庭に集まった女子レギュラー達。屋上に行こうとしたのだが、男子レギュラーに先取されてしまったので今日は中庭の日当りのいいベンチを陣取る。
「お腹空いたあ!!」
いち早く弁当を開ける七瀬に続いて続々と弁当を開けて食べ始める。もちろん同じ寮で作ってもらっている弁当であるため、中身は全員一緒だ。嫌いなものはほかのメンバーの弁当箱に移して食べてもらうのが恒例となっている。そのせいかみすずの弁当のふたに茄子が大量に集まっているし、望の弁当のふたにはトマトが6つも乗っている。
ここでも実況についての話し合いや収録の打合せを行う。たまに笑い声も聞こえることから、話し合いは途中でしょっちゅう脱線していることが窺い知れる。

放課後、やはり賭けは続いている鈴蘭とゆうは三階の教室を飛び出してコートに駆けこむ。勝敗は掃除を如何に早く終わらせるかにあり、今日は不備がありやり直しを命じられている鈴蘭は部活開始ぎりぎりで来た。ゆうは素早く終わらせた後すぐにコートに全力疾走して見事3番コートを死守している。
部活が始まると、レギュラー達を見ようと女子たちがフェンスの周りを囲む。ファンクラブなどはないものの、レギュラー達は男女関係なく人気がある。男子レギュラー(イケメン揃い)が試合をして点を決めれば黄色い声援が飛ぶし、女子レギュラー(美人揃い)が打ち合いを終えて(爽やかに)汗を拭って水分補給する姿にも黄色い声が上がる。未悠がこの状態を「動物園のパンダ」と表現していたし、多少は気が散るのは否めないが、彼女たちも好意で応援に来てくれているということも知っているし、全国大会のセンターコートではこれ以上の人数に見られながら、たった一人若しくは二人でプレーしなければならないからという理由で応援は禁止していない。同じような理由で男子も禁止していないし、丸井はギャラリーの子からしょっちゅう菓子などの差し入れをもらっている。
今日も3面使える女子テニス部は中央のコートでレギュラー同士の超鬼畜乱打を開始した。同時に5球打ち合い、一球でも落としたら負け。部長と副部長はその中でも実力がずば抜けているため、ハンディキャップとして利き手とは逆の手でラケットを握り、さらにパワーリストとパワーアンクルを付けたままでする。負けた方は外周20周というペナルティ付き。勝負がつくたびにギャラリーの歓声は凄まじい。次々に外周(パワーアンクル付き)に行くレギュラー敗者組。ただ、最後である4組目、鈴蘭と望の打ち合いはなかなか決着がつかない。最終的には一球打ち損じた望が外周に出かけて行った。

夕飯は食堂で食べる。窓際で入口に近いテーブルはテニス部レギュラーの定位置としてもはや決まっているため、何の違和感もなくそこに座って食べる。夕食は朝食と違ってゆっくり食べれる。8人はまた嫌いなものはほかの人にあげながら(押しつけながら)食べていく。
風呂は広い大浴場で、8人は大抵一斉に入る。試合の後などはたまにふざけて背中を流しあうこともあるくらいだ。浴槽にゆっくり浸かりながら歌を口ずさんでいたり、脱衣所で着替え終わった後に鈴蘭とゆうによるミュージカル(?)やショートコントが見られるのはもはや黎明寮の名物ともいえるほどになっている。
風呂が終われば自由時間だが、平日は大体皆課題や予習があるため、ここで解散となる(収録は週末に行われることがほとんど)。たまに一階の和室で勉強会を行うこともある。
立海はエスカレーター式で内部進学は然程大変ではないが、その分普段の成績評価が厳しい。進学よりもまず進級できなければ意味がない。このマンモス校では毎年何人かが進級できない人が現れる程だ。レギュラーとして成績も落とすわけにはいかないため、平日は勉強に必死なのだ。
ほとんどのメンバー達は寝るのは日付を跨いでからだ。鈴蘭も望も、12時半になってようやくベッドに入れた。おやすみ、と声を掛け合うとすぐに二人とも眠りに就いてしまった。







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