笑動画の人気者たち
立海大付属高校には大きな女子寮がある。
黎明寮。
全国から生徒たちが集まり共同生活を送るこの寮の一階和室。二十四時間誰でも利用可能、テレビやブルーレイデッキが完備されているこの部屋に、女子テニス部レギュラー達が集まっていた。
彼女たちはテニス部として全国から集められた有能な選手たち。全国大会が終わり、代替わり直後である現在、新レギュラーとして選ばれた八人は風呂上りのジャージ姿で一つの部屋に集まりミーティングをしている…
「うわあああああ!落ちたああああ!!」
「はっ、へたくそだね」
「酷い!」
ミーティングをしているわけでなく、持ち込んだゲーム機でレースゲームをしている。
画面の中では赤や緑の服の配管工や恐竜、姫様などがレーシングカーに乗り、コースにバナナの皮を捨てたり甲羅を投げたりしている。
ヘッドセットを着けた八人は、必死に画面内のキャラクターを操作したり騒いだり笑ったり、とにかく自由だ。

この八人には立海大付属高校女子テニス部レギュラーというだけでなく、もう一つ共通点がある。
彼女たちは笑動画に動画を投稿する人気者たちである。
歌ってみた、ゲーム実況、踊ってみた、演じてみたなど、活動は多岐に渡るが、そのどれもが人気動画として有名である。投稿すればすぐにランキング上位に入り、再生数がミリオンを突破した動画も多い。最近はリーダーである鈴蘭発案・企画・監修のミュージカル動画(役者はレギュラーメンバー達)が人気を博していて、続編の制作が決定しているとか。
そんな八人は今、新しいゲーム実況動画の収録真っ最中である。共用の和室で騒いでも文句をつけられることなどがないのは、他の寮生たちが使用中は入らないという暗黙の了解があるからでもあるが、立海女子テニス部レギュラーたちが有名であり、男女問わず人気があるためである。また、和室自体が寮の奥にあり、使う人が少ないのだ。
レギュラー専用部屋と化した和室のテーブルには、一階ロビーの自販機で購入したジュースやスナック菓子が所狭しと並んでいる。動画にはしょっちゅうスナック菓子を食べるパリパリという咀嚼音が入っているのも彼女たちの実況動画の特徴だ。

「よし、こんなもんか」
「いつもありがとう、未悠」
「いえ、これくらいいいですよ、副部長。じゃあ、これ今夜中にアップしときます」
「たのんだぜ!」
「…部長。テンション高いっすね」
収録が終わり、いまだにゲームし続けるメンバーたちを他所に、動画の編集をする未悠。いつも副部長である望が付き添っている。
「もう十二時になるから、そろそろ部屋戻るかぁ」
「そうだね〜。テーブルのお菓子片づけちゃうからね?」
部長兼リーダーの鈴蘭の一声でテキパキと片づけを始めるメンバーたち。散らかっていた部屋はすぐに元通りのきれいな状態に戻った。
「今回の実況は単発で上げるからね〜。次にやりたいソフトをホラー以外、ホラー以外で考えといてね。じゃあお休み〜!」
「二回言ったよ。…おやすみなさーい」
次々に挨拶して和室を去る八人。だが、向かうはエレベーター。行先は同じため、またエレベーターホールまで雑談しながら歩いていく。それぞれの階で次々とメンバーが下りていく。

消灯後の暗い廊下を、テニス部部長鈴蘭と副部長望の二人が歩いていく。
自室に着き、隣同士並んだベッドに入り電気を消した。
「おやすみ、鈴蘭」
「おやすみー」
騒がしかった夜は一気に静かになった。






12/15
<< bkm >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -