こねた置場 | ナノ



こねた置場
ろくなもの置いてない。
基本水木たまに他

▽※佐松
暗い室内に浮くように白い、死人のような足を見ていていやになった。だからジャケットを脱いで掛けた。
互いに特になにを言うこともなく、勝手に横に座って、それから煙草が上着にあることを思い出して許可もとらず彼の足の上に手を這わす。少し手間取ったがどうにか取り出すと、嫌がらないのを良いことにカチリ、ライターの火を移す。
響くのは煙を吐く音だけだった。
日が陰り、落ち。闇が迫るなかで僅かにともる煙草の先を松下が見つめている。非難をするわけでも、掛けられた上着を喜ぶわけでもないようだ。

「息をするたびに」
「はい、」
「死んでいくだけで、充分だよ」
じゅ、細い指先が唐突に火をつまむ。流石に少し驚いて消えかけた煙草をひねり潰して松下を見やる。彼は火傷しているだろう指も気にせず、満足そうに煙たい佐藤の唇を噛んだ。
「…危ないことだ」
千切られこそせずとも、余計に不味くなった唇を舐めると、悪びれることもなく「憐れんでやってるんだよ」とだけ返ってきた。


2012/10/28 20:21


▽松下と佐藤
「証拠を消し去ってしまえば、何事もなくなっちまうんだよ」
「なんの話をしているのですか」
「一体どれほどのことが闇のうちに塗りつぶされてしまったんだろうなア、佐藤」
突然の話に一瞬怪訝そうに眉を寄せた佐藤が、一拍考えたふうに首を軽く傾ける。次の返答にはもう涼しい顔をしていた。

「少なくとも、それを見つけることはできないんでしょうがね」
端麗な青年から発せられた答えに、問を投げかけた松下は軽く口の端を上げた。

---
問答


2012/08/23 01:41


▽現ぱろ/松下とゲタ吉
あーあ。不慮の雨にもれた声は雨音と混ざってぽとりと染みていった。
「予報では晴れだったんだけどなあ」
「予報なんて見るんだな」
「うんにゃ、父さんが」
軒下から頭を出して空を見上げていたゲタ吉がひょいと頭を引っ込める。水滴が額に髪を張り付かせてじっとりとしている。
ぱらぱらと軽い音から徐々に勢いづき、数分後には雨に打ち付けられたアスファルトの表面が飽和し小さな水流を認知させるほどだった。
「通り雨にしちゃすごいネ」
煙草の箱の角をトントンと叩く、勘弁してくれと言わんばかりに取り上げると「おれの家なのに」と言わんばかりにがくりと脱力する。
「ちったあ禁煙したらどうだい」
「いやそれは」
「そうすべきじゃわい」
髪に隠れている左の眼窩あたりからぽこりと現れた青年の父親が歓声をあげる
箱を掴んだまま、松下がにやりとした。

「冗談!」
湿気て埃の舞わない畳にばったりと倒れ込むと、いよいよ情けない声を出した。


2012/07/21 21:35


▽佐松
年相応に小さな口を指でなぞる。薄い、しかしそれなりにふくらんだ唇は柔らかい。
「変態が。」悪態を吐いたと同時にその口からチラと見えた白が牙をむいた。がり、と鈍い痛みが口腔の熱と共にじりじりと伝わっていく。
「おや、ためらいのない」
湿った口内では血がどれほど出ているのか分かりかねた。だがわずかに漂う鉄臭さと指を噛んで放さない当の少年が渋い顔をしている。放さないのをいいことに、もっと奥まで指を押し込む。
「素直じゃないからですよ」
このまま一滴残らずやってもいい、そう思った。


2012/04/12 00:51


▽松下と山田
君の放つ言葉に、補足はしないの。だから裏切られちゃうんだよ。

分かっている癖に問い掛けては答えを待っている。
「まったく、分かっていて聞くからなお前は」
「安心したいだけさ」
「そこまで正直なら問題ないだろうに」
横を向けば山田はからからと口先だけで言ってのける、おい、からからと笑うこたあ表現だろうがと思わず返せば にっこりとした。
「言葉足らずなほうがずうっと君らしい」
「促しておいてよく言うよ」
せいぜい、したたかに長生きでもしてくれ。
「なにそれ、皮肉」
「僕が言いたいくらいだよ」


2012/03/26 03:41


▽佐松
自分の熱がこもっていた服は丸めて放り投げられている。黄色の部分もじっとりと水分を含み、恨めしげにひやりと冷めた部屋の隅。
「わざとだろう」
「ええ」
「熱かったんだよ」
「これでも冷ました方でしたが」
否定しない分、素直に見えて余計タチが悪い。髪をぐしゃぐしゃと掴めば冷えた珈琲が手を濡らした。濡れた掌を一瞥すれば掴まれ、佐藤のぬるい頬にあてがわれる。
「火傷なさっていたら責任取りますよ」
「…だから黙って今は好き勝手させろってか」
まだ冷える気温のなか、皮肉にも熱くて脱ぐ羽目になった上半身に密着した、佐藤のシャツに薄茶の水滴が染み付くのを見つめながら、再び温くなってじっとりとした掌の液体だけを意識していた。

「風邪も責任取れよ」
「うつして下されば結構です」
「ばかやろう」


2012/03/20 02:31


▽窓付き/ゆめにっき
体に乗った布団の布同士が擦れる音がやけに響く。他に音はない。無機物だらけの部屋の中、目を閉じれば、自分の鼓動だけが生きている証拠だった。
あの世界では埋もれてしまうくらいに、ざわざわと。
(息づいているのだ。)
レムだったかノンレムだったか、理論だって睡魔の波に流されて、沈んでしまえばゆらりぐらりと関係ない。少なくとも存在していることに変わりはないのだもの。
少なくとも向こうはここよりずっと、
色付いている。

(3、2、1)
(おやすみなさい)


2012/03/20 01:43


▽それとなく佐松
「…払わないんですね」
ソファに転んだ状態で掴まれた膝の肌に伝わる、冷えきった指先とほんのりと温かい掌の温度差に違和感を感じ、自然と眉間に皺が寄る。
「何がしたい」
「許可ですか」
「意図が感じられない」
いつまでも理屈かと言いたげに空いている右手を僕の後頭部に回す、「ありませんよそんなもの」

「ああそうかい」



僕は自由な左足を佐藤の鳩尾目掛けて振り上げた。


2012/02/20 02:33


▽佐松?/現ぱろ
投げ出された手足はだらりとしている。
弱いところだらけだと思った、ぐずぐずと攻め立ててしまえば、反抗もせず呻くだけ、ぞっとした。
「業腹だ」
「それはお前が言うべきではない」
「ただ私だけが人みたいに感じて、腹立たしい」
間に聞こえた声は無視した。
「弱いところしか、ないんだよ」

その言葉が一番、腹立たしかった。

(精神的けんかです)


2011/12/05 03:32


▽山田と埋れ木/現ぱろ
「えらく降るねえ」
ホームの屋根の下から溜息。どちらかというと感嘆に近い。
「何を喜んで言うことなの」
「いやあ」
電車へと乗り込めば雨と空気が混ざって湿ったにおいと、傘が連れてきた水滴たちが床へ点々と。垂れていくだけで染みはしないのだろうけど、視覚的な、錯覚。
「やっぱ、平和だよ」
閉まるドアへ打ち付けられる雨粒を見つめながらもう一度溜息。
「お望みじゃあないのかな」
「まさか」


2011/11/05 12:35


prev | next



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -