※設定でいうとこっちのパラレル こんこん、ノックの音に、「どうぞ」と返事をしたのだが、なかなか中に入ってくる気配がない。ドアのほうを向いて首をかしげていると、やっとドアがスライドして、入ってきたのは――剣城だった。 「ちょ、調子はどうですか!」とつっ立ったまま俺にたずねた剣城はなんだか居心地が悪そうだったけれど、一瞬俺を見て、すぐそらされた瞳には心配そうな光が宿っているような気がして、 「ああ、別に悪くないぞ、元気だ」 笑顔をつくって答えると、剣城はほう、と息をついた。 「そこ、すわれよ」 ベッドのわきに置かれた椅子に腰かけるように言うと、剣城はそっとすわって、ポケットから手をだした。 「わざわざ見舞いに来てくれたのか? ありがとう」 と言うと、剣城はますます俺から顔をそむけて、 「べ、べつに、ほかの奴らも来たみたいだし、一応、です」 しどろもどろに答えてくれた。頬がうっすら赤いのがかわいくて、 「見舞品はないのか?」 からかってみた。 「あ……」 剣城はいま気づいた、というようにポケットに手をつっこみ、「忘れてました」申し訳ないという顔で俺のほうを見て、肩を落とした。 その様子があまりにも可笑しくて、俺は吹き出してしまった。 「……ごめん、その、冗談、だ」 こみ上げてくる笑いをおさえながらそう言うと、剣城は目をおおきく見開いて(剣城の瞳はきれいな色をしている)、仏頂面になってしまった。 「……キャプテン、それは」 病室はしばし沈黙につつまれていたけれど、剣城が若干の不機嫌さをにじませた声を発した。 剣城はサイドテーブルの詩集を見ている。 「ああ、入院中は暇だから読書しようと思ってな」 俺は詩集を手にとって広げた。 「――汽車にのって あいるらんどのような田舎へ行こう」 「……詩、ですか」 「ああ」 剣城は目をぱちぱちまばたかせている。 「退院したら、サッカーもしたいし、何年かぶりに旅行も良いなあ。そうだ、剣城、一緒に行くか!」 我ながら良いアイディアだ。剣城は顔を真っ赤にそめていた。 ※詩は丸山薫作「幼年」内の「汽車にのつて」より引用しました。 |