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西標識






辞書に翳る思惑/第三回公式イベント(北明司)


「あれ、先客がいたみたいだねぇ」
カメラルームの鉄扉を開けると、壁に所狭しと並ぶ画面の真下で小さな人影が動くのが見える。
ドアを閉めて壁に凭れている明司の元に近付く人物は少女の様に小柄で、派手な色の着物姿が眼に飛び込む。
「北明司、何か用でしょうか」
「あ、おじさんの名前覚えてくれてるんだ古式ちゃん。
なんだか嬉しいねぇ」
「本職、データベースですから」
へらへらと笑う明司に対し、古式と呼ばれた少女はあくまで会話を機械的、事務的にこなす。
明司も彼女の卒のなさ、素っ気なさには慣れているのか、あまり気に留めてはいない。
古式は突如踵を返すと、先程自分がいた机まで戻って何かの紙束を手に取る。
中身はなんだろねぇ、と思いながら明司は壁に並んだ電気仕掛けの箱を眺めていた。
「先程怪しい研究員リストアップしました。
活用してください」
戻ってきた古式が明司に渡した紙には、聞き覚えのない名前や一部の穏健派の名前が連ねられていて、幾つかの人物には似顔絵まで書いてある。
「これはまた随分と手が込んでるねぇ。
ありがと古式ちゃん、有効に使わしてもらうからさ」
へらへらと笑っていた口元を更に歪めて、明司はばさばさと顔前で紙の束を振って見せた。
明司はそのまま壁に凭れた格好でぺらぺらとページを捲る。
古式は机に戻って自らの作業に戻ろうとしていた。
しかし全く出ていく気配のない明司に痺れを切らしたのか、書類から顔を上げて問いかけた。
「北明司、行かなくてよいのですか」
「どこに?」
「確保に、です」
明司は暫くきょとんとした表情をしていたが、くすりと笑いを溢す。
「いやぁ、おじさんじゃ体力ないし足手まといになっちゃうでしょ」
くすくすと笑いを溢す明司を、古式はよく分からないと言いたげな顔で見ている。
「うーん、でも此処にいたら古式ちゃんの邪魔しちゃうよねぇ。
じゃあそろそろ俺も行こうかな」
「何処にです」
「まぁ、管理室あたりにでも篭ってるかなぁ。
ちょっと、試したいことがあってね」
それじゃあ気を付けるんだよ、とだけ言って、明司は腑に落ちないという顔をしている古式を残して再びドアを開ける。
廊下を歩いていく明司の足元では、ぺたぺたとサンダルがアンニュイな音を響かせる。
白いタイル張りの廊下が窓から入る夏の日差しを反射して、建物の無機質さを引き立てていた。






八式シギ様宅 荒神古式さん
お借りしています。

頑張ったらちょっと短めになった。
次からおっさんの本領発揮。





 





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