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西標識






蛇の道を往く/第三回公式イベント(北明司)


―その日は、やけに外が騒がしく感じた。

永代区の一角、理化学研究所の中の研究室。
北明司は黙々とコンピュータに向かって作業していた。
画面には物理学に基づいた演算式が並び、一目見ただけでは、否素人目では何度見ても内容は到底理解できそうにない。
明司は無機質な画面を見ながら、時折手元に山積みにされた本や書類を漁り眼を落としていた。
かた、かたん、と不規則なリズムでキーボードが叩かれる。
数分ほどそれが続いた頃、明司は部屋中に響き渡る電話の音で頭を上げた。
机上の電話から受話器を取ると、間延びした応答を相手に投げ掛ける。
「もしもし、理化学研究所の北ですけど」
「白野だが」
その声は機嫌が良さそうだったが、相手の声を聞いた瞬間に興醒めした様な声音に変わった。
明司はぶつぶつと不機嫌そうに相手に話しかける。
「何だ白野か。
俺今度の学会のプレゼン準備で忙しいってこの前言わなかったっけ」
「今特区内に椿組の連中が潜入してる」
「はぁ?」
全く彼の言葉に耳を貸さない相手に若干の苛立ちを覚えながら、明司は聞き返した。
相手はそれも気に留めていないようで、先程と変わらず淡々と
「例のハコだよ、この前話したろ。
どうやらアレをぶん取りに来たらしい」
「ああ...そう言えばそんな話をしたような気もするねぇ。
しかしさぁ、セキュリティに問題あるよね公的研究機関なのに。
地元民にアッサリ侵入されるなんて危機管理がなってないっていうかさぁ」
「そういう事は俺じゃなくてお偉方に言ってくれよ」
「上の人たちが分かってないからこんな事態になってんでしょうが。
只でさえこの施設は極秘事項扱ってるんだからさぁ...」
明司は暫くセキュリティの欠陥について説いていたが、相手はそんなことは後回しと言わんばかりに話を切った。
「だったらお前が管理システム構築でもしたらどうだ。
専攻じゃない割に得意だろう」
「もうある」
受話器の向こうから、もう作ったのか?と驚きを顕にした声が聞こえた。
明司は空いている左手で机上の箱に手を伸ばす。
手を突っ込んで暫くすると、目当ての物を親指と人差し指でつまみ上げた。
白いメモリーが、コンピュータの画面が発する光を反射して鈍く光る。
「あるんだよ、管理システムのプログラムは。
一応研究室では試してみたんだけどさぁ、まだ大規模な実機運用はしてないんでね」
「ほう」
電話相手の男はわずかに沈黙したが、すぐに静かな口調で明司に話しかけた。
「それなら、今日試してみたらどうだ?
こんなに他所の連中が紛れてるんだから、試してみるには十分な位理想的だろう」
「奇偶だねぇ、俺もそう思ってたところだよ」
明司はにやり、と口角を上げる。
それは新しい玩具を試す子供の様な笑顔だった。
「なんだか今日は楽しくなりそうだねぇ」
「大した気分の変わり様だな、さっきまでセキュリティに文句言ってた奴には思えない」
「白野みたいにテンション一定の奴のが珍しいでしょ」
明司は見えない電話相手に対してへらへらと笑う。
彼の中のスイッチが入ったのか、普段は重い腰を上げてキャスター付の椅子を膝蹴りして机の下に押し込んだ。
「面白くなりそうだから、教えてくれた白野には一応感謝しとくよ」
「素直に感謝しろ、阿呆」
「悪いけど俺白野より頭いいから。
わざわざお電話どうも、じゃあね」
捲し立てる様な早口で挨拶を告げると、乱雑に電話を切った。
先程とは打って変わって愉快そうに笑みを浮かべた明司は、そのまま不安定なスキップで出入り口のドアへと向かう。
ドアを開けた瞬間白いメモリーが、隙間から溢れ出した光を受けて鈍く光る。
明司はそれを見て、更に笑みを濃くした。





▽完全に出遅れですが北明司イベント参加します。
明司が電話で話してたのは我が家のNECTERモブです。おっさんです。
以下覚え書き

白野正江:しらのまさえ
明司の大学時代の同回生。友人と言うより腐れ縁に近い。
理化学研究所所属。専門は電気電子工学。
過激派。明司に情報を流して過激派に引き入れようとしている。





 





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