ケリ姫現パロ
ラット+ゼル
逃げ水のような【改訂版】 の合間にあった話というイメージ





嵐の前




「ラットさあ、今度はうまくいくといいね」

「なにが?」

ケトルで沸かした湯をコポコポとマグカップに注いでいると、ふいにゼルがそう言った。

俺が顔を上げてゼルを見ると、彼女は友人から貰ったという紅茶の、ウサギのキャラクターか何かが描かれた淡いピンクのパッケージを眺めている。それはゼルには可愛すぎるくらい可愛いかったが、パッケージを開けてしまえば中身はただのなんでもないティーバッグだ。

そのティーバッグだってもう俺がお湯を注いだマグの中に入っていて、湯に漂いながらゆっくりと淡い紅色を抽出させている。
林檎のような桃のような甘たるい香りがたちのぼって、あー、女っぽいなと思った。

「…別に」

ゼルはそう言うと眺めていた可愛らしいパッケージをポイとゴミ箱に捨てた。俺が湯を入れたマグに一つずつ入っているティーバッグも、ちゃぽちゃぽと上げ下げして十分に色を出せばゴミ箱行きだ。

「はい!ラットの」

「サンキュ、」

ゼルが片方のマグを俺に渡してくれ、それぞれマグを持ってキッチンのテーブルに着いた。

こないだジョニーが来た時に置いていってくれたお土産の、なにやら高価そうなビスケット菓子の四角い缶を開ける。客人が来てるわけでもないのに俺たちにしては豪華で上品なティータイムだ。
普段はおやつの時間があっても麦茶でポテチをかじるくらいだ。

「なんか生活水準上がった感あるな〜」

と言いながらゼルがもう小包装の包みを開けてビスケットをかじっている。
あ、俺が先に食いたかったのにと少しだけ恨めしい気持ちを抱きながら、同じように菓子袋を開けて口に放り込んだ。

ザクザクとしたビスケット生地の上に、少しビターなチョコレートがコーティングされている。なんだこれは。アルフォートの5倍くらいうまい。いやアルフォートも俺からしたら十分美味いんだが。

この上品なアルフォート的な菓子は彼の好みの味なのだろうか。ジョニーはここの菓子屋が好きなのか。どんな服でどんな気持ちでどんな時にこの菓子を買ってくれたんだろう。

おれは百貨店の菓子売り場にいるジョニーを想像する。さっぱりとした私服でなんの陰りもなく爽やかにそれを買うジョニー。
会計を済ませ、店員から渡された商品をありがとうございますと笑顔で受け取る、そんなありふれた行動でさえ彼ならサマになるんだろうな〜あーあ…なんて、
ついそんなことを妄想しながらビスケットを味わっていると、ゼルが頬杖をつきながらなんとも言えない目で俺を見ている。

「な、なんだよ」

「別に…」

別にと言いながらジト目がすごい。
揶揄するような彼女の目から逃れるように紅茶を飲むと、熱くて涙が出た。

「うん、この紅茶美味いな〜…ゼルの友達は趣味がいいな〜…」

ぶっちゃけ熱くて味なんかわからなかったし、そもそも俺には紅茶の良し悪しなんてわからないが一応そう言う。ごまかし笑いを貼り付けた俺にゼルがため息をついて、「うまくいかねーだろうなあ」というような顔をしたので、俺は知らないふりをして再びジョニーのくれた菓子をじっくり食って、茶を濁したのだった。


fin.


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