親愛なるフォロワーと盛り上がったジョニ→ゼル→←ラト→ジョニでの現代パロ散文。
ジョニー25歳、公務員。ラット21歳、焼き鳥屋の屋台で働いています。
ゼルは19歳。大学生。今回は女の子設定のゼル。

※ラットとゼルは同居しています。

ゼル視点。


逃げ水のような【改訂版】




やばいな、と思った次の瞬間には、もう手遅れだった。



** 1 **


ジョニーは俺の同居人の、ラットの店に来る客だった。彼は同僚に誘われて、たまにラットの勤める焼き鳥の屋台に来ていたらしいのだけど、ある日、その同僚に言われるがまま飲み続けたせいで酔いつぶれてしまったそうだ。それを見かねたラットが、ジョニーをわざわざうちまで連れ帰ってきたのが始まりだった。

ラットがジョニーを連れて来た時、俺はびっくりして、「それ誰?!」と大声で聞いた。
だってその時のジョニーは、それなりにガタイのいいラットよりもさらに一回りでかくて、ぐったりとうなだれているその髪も着崩れたスーツも黒々としていて、行き倒れの悪魔か死神か何かみたいに見えたのだった。

俺が動揺していると、ラットは何故か少し顔を赤くして、あーと、とかえーと、とか口籠っていたけど、最終的に、「店の客・・・」と言った。

「生きてんの?!」と叫んだ俺の声で目を覚ましたらしいジョニーは、苦しそうに少しうめいて、顔を上げた。俺と視線がかち合った時、とても驚いたような顔をして、「夢かな・・・」と言った。まあ目が覚めていきなり知らない女が立ってたら夢かと思うよな。
それからジョニーはまた目をつむって、頭を振って「気持ち悪い・・・」とうめいた。
生きててほっとしたけど、その言葉に俺とラットはあわてて布団を用意し、彼を寝かせ、介抱することになった。

次の日、目が覚めたジョニーはとても申し訳なさそうに俺達にお礼を言った。幸いその日は週末で、ジョニーは仕事が休みだったらしい。というか、それを見越して飲ませられていた部分もあったんだと思うけど、まあとにかく酔いが醒めて目が覚めて、赤の他人の布団で目が覚めてしまったらばつが悪いだろう。

なんとお礼を言っていいかわからない、申し訳ない・・・と恐縮しているジョニーに、ラットは明るく、「俺がしたくてしたことだから、気にしないでくれ!」と言った。いや俺はびっくりしたし困ったんだけど?!と内心思ったけど、まあ黙っておいた。

それでジョニーを家に帰すのかと思ったら、ラットのおせっかいはまだ続いて、彼に朝ごはんを作って食べさせて、俺とラットがルームシェアしていることだとか、お互いの年齢だとかを話して、「実は、あんたを飲ませすぎた同僚、昔からうちの常連で、割と見知った仲なんで!だからホントに気にしないでくれ!」なんて妙にうれしそうに、そんな世間話をして、最後にお店の残り物だけど!と焼き鳥の詰め合わせをお土産としてジョニーに渡したりしていた。

ジョニーはラットの親切すぎる行為に驚いていたみたいだったけど、そのジョニーの同僚とラットが友達みたいなもんだ、という話を聞いて、少し納得したような顔をしていた(因みに俺はその同僚のことは知らない。ラットから少し聞いたことはあったけど)。

まあなんだかんだそれがきっかけで、ジョニーはラットの店に来るだけでなく、うちにも遊びに来るようになった。というより、ラットがほとんど無理やり「また来てくれ!」と言ったので、2回目にうちに来たときは菓子折りを持って謝りに来てくれた。そんなのいいのに。

ちょっとハチャメチャだけど、つまりそういういきさつで俺とラットとジョニーは仲良くなったのだった。


** 2 **


「ラットさあ、ジョニーのこと好きだろ。」

ジョニーが遊びに来るようになってから、何度目かのことだった。
その日、世間話もそこそこに、ジョニーは明日仕事が早いから、いつもより早い時間に帰ると言った。もう帰るのかよ、夕飯食ってけよ、とラットが引き留めたけど、ジョニーはありがとう、また今度ね。と爽やかに去って行ってしまった。

ラットがはあ、とため息をついて、ジョニーがうちに来るときにいつも買って置いていく、高価そうなお菓子の箱を寂しげに眺めているので、俺はついに核心をついてやった。

そしたらラットは面白いくらいにびくっとして、明らかに動揺した様子で俺を振り返った。

「な、な、な、なにをおっしゃるか・・・?!」

「分かりやすすぎだろ・・・つーかジョニーってドンピシャお前好みじゃん」

「はい?!」

「ラット面食いだもんなあ」

「ぐぬぅっ」

そう、ジョニーはどこからどう見ても、あまり男に興味がない俺から見たとしても、とんでもないレベルのイケメンだった。加えて高身長、高学歴、高収入ではないにしても安定した収入を持った(公務員だと言っていた)、好青年。それがジョニーだった。

「いや、連れてきたときからそうかな〜とは思ってたけど、それにしてもわっかりやすいよなあ」

「いやいやいやいや!!!だって!!!あれは!!!仕方ないだろ?!?!」

「へえ、認めるんだ」

「うっ」

俺はため息を吐いた。ラットは惚れやすい。面食いだし。ちょっと好みの男がいるとすぐ惚れてしまう。そして告白してはフラれている。もし成功したとしてもすぐダメになる。さらに悪ければ、都合のいいセフレとして利用されてしまう、そう言ったタイプの、お人よしだった。

ラットはゲイだった。若い男と女が一つ屋根の下、恋人でもないのにルームシェアして平和に暮らしているのは、そういう理由だった。つまり安全牌と言ったところだ。

「別にいいけど巻き込むなよな〜」

「まっ巻き込んでねーよ・・・」

「ジョニーノンケっぽいじゃん」

「そんなのわかんないだろ!」

「だってジョニーって俺のことを見る目がなんか」

「やめて!」

「嘘だよバーカ」

「・・・やっぱノンケかなぁ。脈ないかなぁ・・・」

「とりあえずもうちょっと様子見たら?」

ヒトゴトかよ、と言うラットに、ヒトゴトだよ、と返事しつつ、正直俺はジョニーにもうあまり家に来て欲しくないと思っていた。
嘘だと言ったけど、実際にジョニーはたまに、たいていは二人の会話に入りきらず、クッキーをかじったりお茶を飲んだり、スマホをいじったりしている俺のことを、じっと見ている時があった。その目は、なんていうか、俺だって今まで何人かの男に好かれた経験はあるんだけど、やっぱり、そういった類の視線に近いように思えて、居心地が悪かった。

ラットがトイレに立ったり電話で席を外したりしている時は、もちろん俺もジョニーと二人で適当に会話をしたけど、いつも、ジョニーは途中で何か言いたげな顔をしていた。

俺の予想だけど、たぶん、「二人は付き合ってるの?」とか、「どういう関係なの?」とか。そういう事を、聞きたがっているように見えた。

でも、ジョニーは聞かなかったし、俺も言わなかったし、そうこうしている間に、すぐにラットが戻ってきたからだった。



** 3 **


「もしよかったら、俺と付き合ってほしい」

そして、その状況はなんとも最悪だった。
その日はジョニーが来ていたんだけど、俺はそのことを知らなかった。というのも、その日は土曜日で、俺が面倒にも土曜に履修してしまった大学の授業から帰って昼寝していた時に、ジョニーが遊びに来て、それと入れ替わるみたいにラットが出て行ってしまったらしい。

ラットもその日はシフトが休みだったのに、忙しいから急遽来てくれということで、仕事に出て行ったそうだ。3〜4時間くらいの手伝いだけで帰るから、ゆっくりしててくれ、晩飯も3人分買って帰るからと、ジョニーは言われたらしい。これはもちろん、あとから聞いた話。

リビングの、脚のないソファを枕にして寝ていた俺の隣にジョニーは座ったらしく、俺はその気配に寝ぼけて、隣に座った彼をラットと間違えてしまって、甘えるみたいに引っ付いて、そのままジョニーの膝枕で寝てしまっていた。

そんな状況も知らず、呑気に寝ていた俺が目を覚ましたのは、約30分後、ジョニーが足のしびれを我慢できなくなって、俺を揺り起した時だった。

「ゼルさん、・・・ゼル、ちゃん?」

「ん・・・?」

なんだか慣れない呼ばれ方をされている。
なんだろうと思って目を開けると、結構近い距離にジョニーの顔があった。
当然だ。膝枕されてたんだから。

「うわっ?!」

俺はホントにびっくりして起き上がった。だって俺が寝始めた時にはジョニーはいなかったし、その膝枕をラットだと思い込んでいたから。

「えっ?!いつ来たの?!」

「あ、えっと・・・割とさっき。君が寝てるとき。」

「ラットは?」

「急に仕事に呼ばれて、3〜4時間で帰ってくるって・・・」

「あ、そう・・・」

「えっと、ゼルちゃん、」

「あ、ごめん」

そこまでしゃべって俺はやっとまだ自分がジョニーの足にもたれかかっていることに気が付いた。慌てて距離を取るとジョニーはちょっと気まずさとはにかみを混ぜたみたいな愛想笑いをした。俺はわしゃわしゃと手櫛で乱れた髪を直して、少し気を落ちつけようと努力した。

「え、ごめん、めっちゃラットだと思ってた・・・すぐ起こしてくれたらよかったのに」

「いや、よく寝てたから・・・悪いかと思って」

俺としてはジョニーの膝枕で寝てた方が悪いし気まずいけど、と思ったけど、とりあえず話題を変えようと思って「あ、お茶飲む?」と言って立ち上がり、バタバタとキッチンへ向かった。

茶葉の入った缶をキッチンの棚から取り出しながら俺は怒っていた。
ラット不用心すぎじゃねえ?いくら何でも、寝てる俺とジョニーを二人で置いて出るなんて。そりゃあジョニーは何もしてこなかったし、寝てる女にどうこうしてくるようなゲス野郎ではないと思うけど、それにしたってマズいだろ。

よっぽど、ジョニーが申し訳なく思って帰るのを阻止したかったんだろう。無理やり家に押しこめて、待っててくれ〜、ゼルもそのうち起きると思うし、とかなんとか言って、ジョニーを留めさせたに違いない。くそが。俺だって女なのに。ひどい。帰ったら覚えてろ、と腹を立てながら茶葉の缶の蓋を開けていたら、知らないうちにキッチンのそばまで来ていたらしいジョニーに突然声をかけられ、驚いて茶葉をこぼしてしまった。

「あの、ゼルちゃん」

「うわっ?!」

「あ、ご、ごめん」

「え、何?ゼルでいいよ」

「じゃあ・・・ゼル。あのさ、ゼルとラットって、付き合ってるんだよね?」

「え・・・付き合って、ないよ。」

「えっ?」

来た、と思った。付き合ってなくて、なんで同棲してるのか、とか、付き合ってなくて、間違えて膝枕してしまうものなのか、とか、いろんな疑問点が出てくるだろうけど、でもここで俺たちが付き合ってると言ってしまったら、俺の身は守れても、ラットの恋心が泡と消えてしまう。

もしその質問が来たら、どうしようかといろいろ迷っていたけど、ラットも俺も器用ではないから、変に設定を作ってもそのうちボロが出るのは目に見えている。だから、もうそのまま、ただ付き合ってないと言うしかないだろうな、と思っていた。

「本当。付き合ってない。何もない。一緒に住んでるだけ。」

「幼馴染とか・・・?あ、もしかして、イトコとか?」

「・・・別に。他人。」

「本当に何もない?」

しつこく聞いてくる。なんか、もうダメだな、と思った。だって、脈あり。だし。俺に。
もう、死にたい。俺はもはや投げやりな調子で、うん、何もない。膝枕だけ。と返した。シャカシャカとポットに茶葉を入れながら、その真実と嘘を混ぜ込んだセリフを空中に放るしかなかった。

本当を言うと、ラットと俺には、恋愛感情はなくても、肉体関係はあった。
ただ何となく肌が合うからという理由で身体をあわせて、ラットが男好きだからということもあって、そういう事をしても本気になられることはないから、といういい加減な理由で、俺は彼とよく繋がっていたのだった。

俺は、正直昔から男にはいい思い出がなくて、振った男にストーカーされたり、勘違いで俺と付き合ってるつもりになってた男友達に夜道で迫られて怖い思いをしたり、何かと男運が悪いところがあった。
だけど、ラットみたいな逞しくありながら超安全牌な男と一緒に住んでいれば、そういう危険を避けられるし、ラットはラットで、まだ偏見の目で見られがちな同性愛者という立場を、俺と住むことで逃れられる。そういうwin−winな関係で、暮らしていた。

だけど俺たちの関係はそこまで割り切ってドライというわけでもなくて、お互いに気も合うし、一緒にいて楽だし、ラットと俺がセックスをするのは、ちょっと特殊な友情からくるコミュニケーションの一環で、快感を追うというある種の遊びを二人で楽しんでいる感覚でしかない、と、個人的には思っている。

でも、そんな関係、簡単に人に理解してもらうのは難しい。それにまあ、一般的な見方からすればそんなのは『不潔』と言うべきなのかもしれなかった。

・・・だから、何か困ったことがあれば、俺達二人は付き合ってるんだと言った方が楽なんだけど、でも、今この状況下でそう言ってしまったら、そしたら、ラットのジョニーへの気持ちが、伝えられなくなってしまう。

ジョニーがうちに遊びに来なくなってしまうかもしれないし、そんなことになったらラットが悲しむ。ラットに対してそのくらいの配慮をする愛情はある。だから俺は、と、そこまで考えたところで、ジョニーが俺の肩に手を置いた。

「あの」

「・・・なに」

俺の倍くらいでかい身長のジョニーを見上げる。そしてその顔を見て思った。
最悪だ。もう、帰りたい。家はここだけど。だから彼をあまり家に呼ぶのは嫌だったんだ。

「あの、ゼル、もしよかったら…もしよかったら、俺と付き合って欲しい。初めて会った時から・・・その・・・・もし、君とラットに、今まで何かあったとしてもいいから・・・・」


ああ。やっぱりだ。眩暈がした。
あの膝枕を取り消したい。寝ていた自分を叩き起こしたい。今日一日を真っ黒に塗りつぶして、なかったことにしたい。

ジョニーの整った顔が、そのブルーの目が、とても神妙に俺に向けられているのを見返しながら、ポットにお湯を入れる手を止めながら、俺は、何も知らずに店の仕事の手伝いをしているだろう、可哀想なラットのことを思った。



end.


2016.07.07:文章を少し加筆修正しました

なんにしてもラットの恋路が崩れてしまう可哀想な展開。
ちなみに、一番最初に出てくるジョニーを飲ませすぎた同僚は、スパイクですw

改定前のものはクズカゴに置いてあります。

こちら→逃げ水のような




,back