「素晴らしい発明をしたと思いませんか、隊長!」 そう興奮して言う彼に私は眉をひそめるしかない。 LOVE TIME OUT コワルスキーが時間を止めるストップウォッチを発明した。 私たちは、彼の度を越した科学と発明好きのおかげでしょっちゅうひどい目に合っていた。もちろんその発明が役に立たないというわけではなかったが、まぁ実に言って8割程度が被害を及ぼす危険なものあることは否めなかった。 そして、今回もそうだった。 彼は一度、そのストップウォッチをリングテールによって壊され、世界でリングテールとコワルスキー二人だけしか動いていないという日常を少なからず経験したそうだ。 やかましいキツネザルと二人きりの時間はあまりにも自由で、それはそれで悪くない時間だったらしいが、やはり我々が動き出したときには彼は心から喜んで、ストップウォッチのことは反省したはずだった。 しかし、それは私の勘違いだったのか、それとも別のところで彼にスイッチが入ってしまったのか、コワルスキーはその日突然、自分と私をそのストップウォッチに触れさせ、時間を止めてしまった。そして、その直後彼は自らストップウォッチを壊したのだ。 なんと世界は私とコワルスキー二人だけになってしまった。 私は突然のことに混乱し呆然とした。 彼の意図がまったくつかめず、私はもしかしたら、私と彼以外のすべての生き物がドクター・シオフキーやデンマーク人のスパイであったのだろうかと考え、コワルスキーは私をスパイや危険な人物から守るために一時的に私たち以外の者の時間を止め、ここから逃げ出す作戦でも考えようとしたのかと思った。 しかしそれは、いくら日々危険な任務に追われている私だとしても突拍子もない考えであったし、無理のある話だった。なぜなら、同じ部隊の仲間であるリコと新人も時間を奪われてしまっていたからだ。 壊されたストップウォッチを呆然と眺めながら、私はコワルスキーに話しかけた。 「何故?」 「はい!えー何故?とは?」 コワルスキーは何を言っているのかわからないといった風に私の質問をおうむ返しにしてきた。そのかみ合わない態度にイラついて私は少し声を張り上げる。 「何故とは?じゃない。コワルスキー、どういうつもりなんだ!?」 「あぁ・・・ええ、どういうつもりと言われますと、何がでしょう?」 「何がじゃない!なぜストップウォッチを壊した?自分の発明品を壊すことをいつもあんなに嫌がるお前が、自分から自分の発明品を壊すなんて、しかも、これがないと私たちは元の時間に戻れないだろう!」 「あー、そう、そうですね。ええ。」 壊したストップウォッチを眺めていたコワルスキーがこっちを向いて困ったように笑った。 先ほどからどこか挙動不審に見える彼は片翼で頭を少し掻きながらこう言う。 「もちろん、そのつもりでそうしたんです。」 私はその言葉にますます混乱してしまった。 そのつもりでそうした、だと?いったい彼は何を言っているんだ。 やはりスパイでも入ったのか。危険なことから逃げるための手段か。私の頭ではそれ以外の考えが出てこない。こういう時こそいつもは彼の頭脳を使って作戦を考えるというのに、当の本人がこれなのだ。私は仕方なくいらいらとしながらまた彼に問うた。 「だから!そのつもりとはどういうことなんだ。なんの緊急があって、私たちの時間を止めた?」 「緊急、ではないですが・・・私は、前々からこの作戦を実行したかったので、考えるよりも行動しろと、この間隊長が私にそう言ってくれましたので、ついに勇気を出して行動に移してみたんです。」 「えぇい、何を言っているかさっぱりわからん。もっと手っ取り早く、目的を明白にしろ!」 ついに我慢できずにそう叫んだ私に、コワルスキーは心外だというような目つきをしたが、今度は急に自信がなさそうに下を向き口ごもった。 「まぁその・・・そうですね。正直に言いますと」 「なんだ」 「私は・・・あの、私は、驚かれるかもしれませんが、隊長にあることを伝えたくて、その」 「言ってみろ。」 「私は・・・えーと、」 「前置きが長い、簡潔に!」 「私、隊長が好きなんです!」 コワルスキーは盛大にそう叫ぶと、クチバシの先が地面につかんばかりにうつむいた。 そして小さく、「それを伝えたかったんです」と付け足した。 私は目が点になった。 好き? 少し混乱しながらも私は平静を保ち、まさかと思いながらもこう言った。 「あー・・・それはどういう意味だ?」 「ですから、その、生物学的に言って・・・普通オスが好意を示す対象は、生殖的な観点から言っても多くの場合メスなのですが、稀に同性にその感情が向くことがあるのです。」 「つまり?」 「私は、隊長のことが、恋愛対象として好きということです。」 この言葉に私は片翼で頭を押さえ首を振った。 この状況で、この告白・・・ああ、まさに告白だな。 そんなことをされるとは思わなかった。相変わらずコワルスキーは私の方を見ずに、盛大にうつむいて、祈るような形で翼の先を胸の前で合わせている。どうやら、からかっているつもりではないらしい。 そうか、私が好き・・・。 つまり、一世一代の告白に、私と二人だけになるために時間を止めたというわけか。なるほど奥手で科学狂いの彼にはふさわしい告白の仕方かもしれない。トンチンカンで素っ頓狂なストップウォッチで私たち二人以外の者の時間を止めるなんて。正直言ってやり方があまりに突拍子もないので、彼を叱ってやりたかったが、どうやら向こうは本気らしい。状況はともかく、彼の気持ちに誠意をもって答えないとならないだろう。 しかし、どうしたものか。 私はしばらく、身動きもせず、こっちを見ようとしないコワルスキーを見つめながら考えた。そしてクチバシを開く。 「コワルスキー。」 私が沈黙を破り声をかけると彼はびくっとして顔を上げた。もっとも目線はまだ下を向いて、青いような赤いような顔をして、とにかくオロオロとした様子ではあったが床から私の方へと顔を向け、胸の前に絡めていた両翼も背中の方へ回した。これはいつも、任務を聞く時の姿勢だ。 「あー。ありがとう。気持ちは嬉しい。嬉しいが…私は今まで、正直言ってお前のことをそんな風に見たことがなかった。大切な仲間であり、部下であり、友人であると感じてはいるが、恋愛対象かと言われると、そうではないんだ。」 私がそこまで言うとコワルスキーは少し震えて、涙を浮かべているようでもあった。 決して私の目を見ようとはしない。こちらとしてもその方が幾分かやりやすくはあるが…かわいそうだな、と思った。よりによって大の男が、こんな少女のように震えて。 こんなことは自分に好意を持っている相手に対して卑怯かもしれないが、私はコワルスキーのそばに寄って前に立ち、肩をたたいた。 「でもな、コワルスキー。これは今の段階での答えだ。もしかしたらそのうち、私もお前のことを好きになるかもしれない。お前と同じ意味でな。そのきっかけを与えたのはお前自身だ。お前の行動力だ。今は、私はお前の気持ちに応えることは出来ないが…諦めろとは言わない。おっと勘違いするな?変なことをしたらただじゃおかないぞ。しかし、そういうことだ。分かってくれるか?」 コワルスキーはやはり涙をためているようだった。零れ落ちないように努力しているのが、きつく結んだクチバシから感じてとれる。ああ、これでは私が意地悪をしているみたいじゃないか。 しばらく黙りこくっていたコワルスキーだったが、ついに小さくこう答えた。 「・・・わかりました。」 「・・・そうか。」 「いいんです、これから、いくらでも時間はあるんですから。私、努力します隊長。あなたを振り向かせるために。」 「あぁ、そうだ。いくらでもな。」 私はいたたまれない気持ちだったが、どうやらコワルスキーは私の返事をそれなりに受け入れてくれたようだ。 「ありがとう、コワルスキー。勇気を出してくれたんだな、私の為に。すぐには割り切れないかもしれないが、そういうことだ。さぁ、早くその壊れたストップウォッチを直して、みんなとの時間に戻ろう。」 「はい・・・」 コワルスキーは少し寂しそうだったが、私の申し出を受け入れた。彼はそっとその壊れたストップウォッチを拾い上げ・・・そして盛大に取り落とし、頭を抱え、叫んだ。 「あぁーっ?!」 「なんだ、どうした?」 「大変です、隊長。私、重大なことを忘れていました。このストップウォッチ、時間の性質を変える分子を利用して作ってあるんですが、その分子の配合に特殊な薬液が必要なんです。前壊れたときはジュリアンのガムが挟まっていたせいで歯車が動かなかっただけなんですが…今回は…」 「今回はなんだというんだ?」 「その・・・大変申し上げにくいのですが、今調べたところその薬液が漏れ出してしまっていて、使い物にならないんです。ちなみに新しく薬液を作るには丸三日かかります。」 私は言葉を失った。三日。いや、ただ時間が止まっているだけの空間であるから、生存するには何ら問題ないが、つい先ほど愛を告白されたこの男と二人だけで、三日・・・。 気まずい。気まずすぎる。 前々から思っていたがこいつ、天然入ってるんじゃないのか。そんな大事な液だかなんだかが入っているのに、それも自分で作ったくせに考えなしに壊してしまっては、どうしようもないじゃないか。それとも私と二人になるために策略的にそう仕向けたのか? 「お前は、ほんとに・・・いや、何とかならないのか?」 策略かどうかの本意はわからないが、額を押さえてそう言った私にコワルスキーは何とも形容しがたいひきつった笑顔で首を横に振った。 「おいおい」 「だ、大丈夫ですよ隊長・・・私が頑張ってせめて二日で何とかしてみせます!えぇ、隊長と二人きりなら・・・あ、いえ、なんでもありませんが」 そういって口ごもったコワルスキーに、私はいよいよ苦い顔をして腰に両羽を当て彼に皮肉を言い放った。 「あーあ、本当に、たっぷりと時間があったものだ!」 こりゃ、ひょっとしたらこの3日で無理にでも振り向かせられてしまうかもしれないな、そう思いながら。 END. 「kuzukago」の方に置いてある、『TIME OUT XXX』が元ネタです。 元ネタというか、「TIME OUT XXX」が想いを詰め過ぎて書ききれなかったので、少し軽めに仕上げたものです。 いじくりまわしたので駄作っぽさが否めませんが、まぁサイトやピクシブに出す作品としては、このくらいにしといたほうがいいなぁとは思いました。 勉強させられた一作。ピクシブにも同じものを置いています。 ,back |