03
通されたのは壁も床も白の無機質な、部屋というにはあまりにも殺風景すぎる場所だった。
−−−もしかして私は今これから殺されるのか。
思い当たることはいくつかある。3日前の任務の件か、私の代わりが見つかったか、組織にとって自身が必要のない人間になったか…。
死に対して抱く感情が組織にとっての自身の立場だなんて、ここに来て最初の頃は予想もしていなかった。
「慧」
最初も最後もこの人で私の人生は終わるのか、黒ずくめの男を見上げ、手招く視線の目の前に立った。
ジンは慧を一瞥し、いま来た方へ歩いていき壁側に静かに立った。視線が慧から外れることはない。
一定の距離を保ったまま、どちらも視線を互いから外すことはなかった。
今では組織に来る前、自分はどこにいたのかすら覚えていない。まるで遠い昔のように。
気がつけばジンに、ここで生きる術のすべて、護身術や銃の使い方、大型機の操縦の仕方…なにもかもを教わっていた。
−−−この人は私より私を知っているのかもしれない。
そんなことを考えながら、慧は黒く長い睫毛をゆっくりと伏せた、そのときだった。
「君が慧か」
白い部屋に低く、くぐもったような声が響いた。
常に人の気配を感じるよう覚えさせられた身体は、この部屋には二人しかいないものだと思っていた。
僅かに跳ねた肩を笑うように声は、上だ、と続けた。
言われるまま上に視線をあげると黒い映像が浮かび上がっていた。そこには白い文字でRUM……
「……ら、む?」
「ああ、そう呼んでくれて構わない。慧」
この映像元がどこからきているか耳で音を追ったが何も聞こえない。普通は機械音が耳に届くはずが一向に何も聞こえなかった。
「そう警戒しなくてもいい、今日は君に話があって呼んだ」
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