人はみな人の子


 人の子というものは、分からないものだ。

 鶴丸国永は、銀ともとれる白髪を畳の上に散らばらせたまま四肢を投げ出していた。正確には、動けないでいたのだった。
 連日、昼夜問わずと度重なる遠征に、手入れのされていない刀では、九十九神である自身の体など限界を訴えるにはそう遠くないことである。それが今だったというだけのことだ。
 それに加え、男である審神者の、夜の相手をしなくてはならないのだ。とはいっても体の負担になるようなこと、いわゆる審神者を受け入れることは命ぜられていないせいか、思ったよりはガタがくるのが遅かったように思えた。

 いやに冷静な頭で、いま目の前で起こっていることを分析する。
 三日月が欲しいとのたまう我らが審神者は、どうやらいつまで経っても自分の元にやってこないことに癇癪を起こしているらしい。短刀たちは先に寝室に、寝室には一期一降が寝ずの番でいる為、心配は無いのだが。

「おい長谷部!貴様は主命には忠実なのだろう?!」
「・・・っはい」
「ならば何故!三日月宗近を連れて来ない!!」
「も、申し訳・・・っぐ?!ッ、カハ!」
 審神者の汚らわしい足が長谷部の肩を力いっぱい蹴り、長谷部は後ろに手をついた。そんなことをしたら、と思う暇もなく間髪いれずに次はみぞおちへと蹴りが入る。
 隣にいた燭台切が慌てて駆け寄ろうとするが、審神者にすかさず、その濃紺の髪を掴み上げられた。

「・・・・・・ッ、・・・!!」
「オイ、お前もだ。この、出来損ないが!」
「ん、ッが!?」
「ろくな物も切れないくせに何が刀だ!」
「・・・・・・っ・・・・・・」
「・・・・・・大倶利伽羅はどこだ?」





ーーー・・・なに、これ。

 那智は青ざめた顔で天井裏から事の成り行きを見ていた。無論、最初からというわけではないが途中からだとしても、これは酷い。

「ここは九十九神である彼らに無茶を強いる、いわゆるブラック本丸というものです」
「ブラック?なに、ブラック企業とか・・・そういうニュアンス?」
「そう、ですね。それは、限りなく等しい例えだと思われます」

 もう一度、僅かに光が漏れる穴から下の部屋を覗いた。移動したのだろう、位置としてはちょうど先程から怒鳴り散らしている男の油光りした髪の薄い頭が真下にある。

ーーー・・・さっきの口調といい、態度といい・・・雰囲気といい・・・似すぎてる。

 過去に、自身に振り向かない腹いせにセクシャルハラスメントといったものを受けたことがあった。余りのしつこさに事態を表沙汰にすると今度は迫られて仕方なく、と虚言を振り撒く始末。当然、那智を信じる者など誰一人としていなかったわけだが、それは自分が弱かったから仕方の無いことだったのだ。

「・・・私、さっき刀放ってきたけど・・・」
「大丈夫ですよ、持ってきています」
「あ、そう・・・」

 これは作られたシナリオだ、などと既に考えられなくなってきている頭は、こんのすけの足元に置かれた刀を見た。

 そうこうしている間にも、部屋では事が進んでいるようで、褐色肌の青年がひとり増えていた。そろそろ頃合いなのかもしれない、那智は穴から視線を反らさず深呼吸をひとつ零した。

「・・・・・・審神者様・・・?」
 狐の呟きに何も返すことなく、音を立てないよう、静かに刀を手に取った。
「・・・・・・ッ審神者様・・・・・・!」
 そうだ、これでいいのだ。
 那智は刀を少しだけ鞘から抜いてみた。どうやら本物のようだ。使える。
 隣で何やら狐が言っていたとしても、自身には関係の無いことだ。鞘におさめた刀を天井の板と垂直になるよう振り上げた。

 そうして、勢いよく穴の横を刀の先端で突き叩いた。



  
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