なるほど


「どうした?俺の顔になにかついているか?」

 他人の空似、面影というには些か似過ぎている顔をまじまじと見ていたらしい。
「・・・い、え・・・なんでも・・・」
 別人、なのだろうか。それにしては・・・いくらなんでも。けれど、別人としか考えられない。隆宗は自身と同じく審神者であるはずなのだから。だけど・・・。考えていると、三日月は袖で口元を隠すように、おお、と感嘆の息をはいた。一向に逸れる気配のない視線に今度は、那智が問う。
「・・・あの、なにか・・・?」
 喉のおくから絞り出した声は小さく震えていた。嫌だ。この場にこの人と二人きりは、嫌だ。

「これは」
 不意に伸ばされた手に全身が後ろに引けた。
「・・・えっ」
 パチン、となにかが弾けたような音がしたのだ。小さく、けれど確実に。
 そしてそれは、三日月が那智の顔を覆う紙に触れたと同時であった。

 すべてが合致した瞬間、視界がやけに晴れた、ように思えた。


「このようなもので隠せると思ったか?人の子よ」
「・・・・・・っ!?」

 ヒラリ、ヒラリと三日月の細く長い指が文字どおり目の前で紙を弄ぶ。少しでもズレるようなことがあれば眼球に刺さりそうな指から目が離せなかった。

「ふむ、その震えはどうやら別にあるようだな」
 まあいいさ、三日月はきびすを返した。心臓は未だ鳴り止まない。


「ああ、そうだ」
「……?」


「今度そのふざけた呪紙を見かけたら、思わず手が滑るかもしれん」
「っ?!」

 隆宗と同じ顔、同じ声で微笑んでみせた三日月に身体が震える。

 ああ、そうか、なるほど。こんのすけが言っていたことがようやく理解できた。
 その晩、自室に宛がわれた部屋から出ることは無かった。


  
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -