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最後の旅

 ジラーチと別れた次の日の早朝、私は小田原城を訪れた。
 目的は風魔さんに会うことだ。幸運なことに、声に出して呼べば向こうから来てくれた。あらかじめ用意しておいた手紙を手渡す。

「それ、私が半年経っても家を留守にしたままだったら、氏政公に渡していただけませんか」
「…………」

 自分で渡せ、と突き返された。ははは、それもそうだ。
 いや、遺書のつもりとかはさらさらないんですよ。死ぬ予定もないです。私こそは自分のフラグなら意地でもへし折るウーマン。
 ……ただ、念を入れたかっただけだ。もしも帰って来れないことがあったとして、そのとき、氏政公にお礼のひとつも言えないままなのは嫌だなぁって、ね。
 断られた封書を見て、数秒。……えーいもう知らんわい! なるようになーれ! ビリビリーッと破いて、婆沙羅で燃やす。帰ってくればいいんでしょ! やってやろうじゃねぇかよぉ!!

 やぶれたせかいに赴くのは、私とその手持ち、そしてユクシーだけだ。チヅキには万が一のための留守番を……超心配だし気が進まないけど……お願いしました……あいつ何があったんだろうね。殴ったときに頭ぶつけたのかな。松雪さんは普通に留守番です。

 防寒具よし! 荷物よし! 短刀よし! 手持ちよし! 行きたくないけど行くぞぉ!!
 水を溜めた桶の上、発光しているアンノーン。呼応するように――水面が、揺らぐ。

「っ……、いってきます!」

 ぽっかりと空いたうろの中に、身を投じて目を閉じた。
 いってらっしゃい。ふたりぶんの、声が聞こえた。










 当然のように足がついてびっくりした。三秒ぐらいしか経ってない。
 真上を見ると、そこから落ちてきたはずなのに何もない。ヒィ。ぐわぁんと空を飛んで去っていくあれは……ぎっぎぎっギラティナ!? ヒィィイ!! オリジンフォルム!! わわっ、ほ、本物!! 超かっこいい……!! こちらには見向きもしない。ご多忙ですか。
 落ち着いて、辺りを見渡す。はぁ、と息をすると白い二酸化炭素がこぼれた。寒い。着込んできて正解だった。
 ゲームで見た事のある風景、だ。暗い空。なのに視界は明るい。明度の低い地面は重力を無視したみたいに四方を向いて浮いている。少しの緑と、流れる水の音。ギンガ団のボスいそう。これ、下に落ちたらやっぱ死ぬんですかね。
 何よりも目を引くのは、やはり氷だ。ユクシーが言っていた通り、あちこちが凍りついて、テレビで見た事のある南極を思い出す。ゲームにはなかったものだ。

「ユクシー、体は大丈夫?」

 氷蝕体はポケモンにとって毒、ということを思い出した。
 ユクシーは頷いた。氷蝕体の本体が遠いから、そうでもないのかしら。これならしばらくは、トレミーたちを頼れそうだ。
 ぴきん、と音を立てて視界の隅にあった氷が育っていく。気を引き締めて、すこし先を行くユクシー追いかける。空を飛んだ方が楽かもしれないけれど、初めて来る未知の場所でそれをする勇気はない。歩きます。

 二時間後。
 ユクシーと私は、無力を噛みしめている。
 行く道行く道に、氷の壁が立ちふさがっているのだ。婆沙羅でつついても除きれないくらいに厚い。どうしよう。やっぱり飛んだほうがいい? それとも掘り進むべき? ……スタミナ切れが怖いな。

「……八割、だったか」

 やぶれたせかいを侵食する氷は。これから二割を見つけて進むのは、厳しい気がしないでもない。うーん……。

「……休憩しよっか」

 おなかも空いてきたし。それに私、考え事してたから昨日は寝てないんだよね。深夜テンションもそろそろ切れてきた。自己管理のなっていない女だ……。





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