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ハザードサイン

 どこもかしこも人、人、人。
 シンオウから飛行機を使って、カロス地方へ。
 空港を出て、タクシーでミアレシティへと向かったあたしを歓迎したのはにぎやかな人並みだった。行きかうポケモンも見慣れない子たちばかりで、好奇心が疼く。
 なるほど、ジョウトのコガネシティ。イッシュのヒウン、シンオウのヨスガ。そのあたりを想起させる。同時に、雰囲気は感じたことがないものがある。
 建物の造りも……石造り? レンガ? が多い。イッシュに、似たような建造物があったかもしれない。きれいっつーか、芸術的? だ。あたしは芸術って、よくわかんねぇけど。古代の浪漫なら理解できます。あー、そうだな。古代遺跡に模様がすこし、通じる、かもしんない。

「目が回るなぁ」

 はぁー、とすこしばかり疲れを吐いて、隣にいるスターミーのミラを見る。

「大丈夫?」

 声をかけると、ミラは体全体で頷いた。そっか。ならよかった。
 ソウキくんとは、プリズムタワーで待ち合わせをしている。彼の地元はコボクタウンなのに、都会にまで出てきてくれるらしい。ありがたいことだ。空港に着いたとき電話したら、もうすぐミアレに着くと言っていた。急ぐと慌ててしまうが、あたしたちも行こう。約束の時間まではまだあるから、余裕を持ってレッツゴーだ。そのあとはいっしょに夕飯を食べて、ポケセンにチェックイン。本格的な観光はあしたから。
 道の隅に寄って、ガイドブックを開く。すると、ボールの中からモコも出てきた。きょろきょろと楽しそうに周囲を見渡している。

「うろうろするのはちょっと待っててな」

 返事はあったものの、そわそわしている様子は変わらない。苦笑して、手招きをする。一緒に地図を見る。
 えーっと、プリズムタワー。中心部。メディアプラザ。

「あったあった。ここか」

 タクシーだとまたすぐ行けるが、せっかくだ。歩いて行こう。
 あ、電子パネルだ。でけえ。流れているのは……映画の宣伝かな。白い衣装に身を包んでいる、女の人。きらびやかなエフェクトを伴って、画面の上を揺らめいている。きれーな人だなぁ。そういえば、飛行機の中の冊子にも載ってた気がする。
 ほぉへぇと三にんで落ち着きなく歩きながら、メディアプラザへ向かった。









 
 プリズムタワーって、ジムも入ってるのか。へぇー。電気タイプ。へえぇー。
 看板を眺めるだけ眺めて、中に入りはしない。
 あたしの旅の目的は殿堂入りではないから、ポケモンジムへの挑戦にはそこまで食指は動かない。そこは、ジョウトを旅してた時期がいちばん積極的だったかな。ミラとモコ、あとはウバメの森から旅をしていたソウキくんの手持ちをお借りして挑んでいた。なのでジョウトのジムだけは、一応制覇してある。
 ジムバッジは、あれば資格や検定と同じように扱ってくれるから、持っていて損はしない。といってもあたしはジョウトでの旅で取りきったわけじゃあなくて、バトルファクトリーでの荒療治を経てから挑んだどころもある。
 ジョウト以外は……ちょこちょこかなぁ。気が向いたらって感じだ。シンオウなんか、フォレストバッジとグレイシャバッジは持ってるけど、コールバッジは持ってないからなぁいまだに。今度、正式にヒョウタに挑んでみようかな。イッシュでは、ベーシックバッジだけを取った。

「ソウキくん遅いなぁ」

 決めてあった時間から、もう三〇分過ぎてるよ。ポケギアを見ても、特に受信履歴は更新されていない。
 小腹がすいたので適当なパン屋で買い物をして、近くのベンチに座る。モコとゼンにパンを渡す。モコにあげたクロワッサンは、ラノのぶんも含んでいる。ミラのぶんはあたしといっしょだ。
 いただきまーす。言って、サンドイッチにかじりつく。――む! おいしい……! 見た目からそうだったけど、パンの味と舌触りが、食べたことないものだ……! なんていうの? もすもすしてる。
 セットで買ったジュースを飲みながら、もう一度ポケギアをいじる。
 約束の時間から一時間が経っている。ソウキくんは、まだ来ない。電話もない。だからあたしからかけることにする。いきなりおなか壊したり、したのかもしれない。ほら、ソウキくんってちょっと気弱で神経質だからさ。無言でドタキャンとかは、ぜってーないと思うんだ。さ、し、すせ、そ、そうき、と。発信!

≪――おかけになった電話番号は、現在使われていないか、電波の届かないところにいます≫

 スピーカーから耳に忍び込んできたのは、感情を織り込まない冷たい音声だけだった。眉をひそめて唸ると、四にんの眼があたしを見る。もう一度、かけなおす。

≪――おかけになった電話番号は、現在使われていないか、電波の届かないところにいます≫

 ……結局。その日どれだけ待っても、ソウキくんは現れなかった。





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