俺はもう一度旅をする
三十代で結婚できたはいいものの、子供が小学校に入学してしばらくで病気で死んで。
気づけば俺は、第二の人生を記憶を引きずったまま生きていた。輪廻だとか転生だとか、詳しくはわからないが、俺は前世の記憶をリセットされないまま人生をニューゲームされたらしいのだ。それも、ポケットモンスターというどこかで見たこと聞いたことのある、不思議な不思議な生き物達の暮らす世界で。
二度目の人生に戸惑いはしたものの、適応したのは割と早かった……と思う。妻と子供を遺してきたのが心配ではあるものの、仕事で稼いだ金は子供が大学を――最悪義務教育を終えられるくらいには貯めてある。俺が死んだことで傷ついた誰かの心も、時間が解決してくれただろう。それこそ妻と子供が道を踏み外さない限り、未来は安泰だろうよ。
覆水盆に返らず。後悔先にたたず。未練はあるが俺は早々に過去を断ち切り、前を見て歩こうと決めた。
そんな俺が産まれたのはカントー地方のマサラタウン。親のポケモンと触れあい、貴重な同い年の友人と過ごしてきた俺は十歳になる頃には幼馴染みのレッド、グリーンと同じくしてマサラタウンを旅立つことになった。
二人ともリメイク仕様である。これはなんとなくだが覚えていて、認識できていた。
レッドはやんちゃでグリーンはナルシストで、俺は年相応に子供な二人のストッパーとして日々を過ごしてきた。旅立ちの日は、もうこいつらの尻拭いはしなくてもいいのか、と安堵する反面じんわり寂しさも覚えたものだ。
レッドの相棒はヒトカゲ、グリーンはゼニガメで俺はフシギダネ。のちに、俺たちが旅立ってしばらくは町がとても静かに思えたとオーキド博士や親は言っていた。
旅は順調で、仲間を増やしジムリーダーと戦ったりロケット団の悪事をとっちめたり、レッドやグリーンと鉢合わせてバトルしたり。けれども俺はあくまでも俺であり、それだけの存在で、ロケット団を潰したのはレッドで、チャンピオンのワタルさんとグリーンを倒し、当時三人で多分一番強かったのはレッドだった。
俺は早々にバッジのみで満足してマサラに戻っていた。ポケモンバトルは確かに燃えるし上も目指したくなる……が、実力の差を痛感していた。だからといってそんな自分に幻滅することはなく、それからもレッドやグリーンとはたまにバトルをしていたけれど。
ロケット団が潰されて一年。俺たちはほんの少しだけ大人になり、別々の道を歩き始める。グリーンはジムリーダーに。俺はまだよくわからない。そしてレッドは、夢を探すためにも、次はジョウトに行ってみたいのだと、笑って言って――
――あいつは行方知らずになった。
最後に目撃されたのがどこなのかもわからない。連絡はつかず、グリーンや俺がどこを探してもあいつは見つからなかった。レッドの母親は気丈に笑っていたけれど、その裏ではどれだけ心を痛めているか。オーキド博士など、マサラでレッドをよく知る人達も、あいつを心配して表情を曇らせる。
「珍しいな。おまえがそんなに苛立つなんてよ」
「苛立ちもする。ムカつく。レッドのやつ、どこで何してんだよ」
どこかでくたばっている、だなんて考えもつかないし、考えたくもない。
「ああもう――グリーン!!」
「お、おう!?」
「俺、あいつ探しに行くわ。またカントー一周して、次はジョウトも回ってみる。それでいないなら他地方も回る」
「はぁ!?」
「お前は何かあったときのためにここにいてくれ」
「警察にも届け出は出してんだ、おまえがそこまでしなくたって……」
「お前らの尻拭いは昔から誰のやることだと思ってやがるよ」
「……」
「俺はまだ十一だ。四年はあいつのこと根掘り穴掘り探し回って、ぶん殴って連れ戻してくる」
「そこまでやるかよ……」
「やる。止めるなよ、グリーン」
「止めねえよ。ただ、おまえまで行方知らずになるとかは勘弁しろよ」
「安心しろ、一時間に一回は電話する」
「ストーカーか!!」
かくして、俺はもう一度旅をすることになった。無茶はしないで、と色々な人達に言われながら見送られ、マサラにまた背を向ける。レッドを追って旅に出るだなんて、誰が思ったよ。腹立ってきた。あいつ見つけたら二回は殴ろう。
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