舌足らず
ぬるま湯に浸かっているような心地よさが、そこにはあった。
「カクさん、私もう寝ますけど」
「すまんな、わしは残業じゃ」
「あぁ、図面引くって言ってましたね。明日まででしたっけ。手伝いますか?」
「お前さんの手助けなんぞなくても余裕のよっちゃんじゃ」
「さいですか。じゃ、おやすみなさい」
目覚ましをセットして布団に潜り込む。家の裏の水路を流れる水の音と、カクのペンを走らせる音が、子守唄のよう。朝になって隈を濃くした彼の姿を、瞼の裏にに浮かばせた。
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「おはようございます。よく眠れました?」
「……そんな風に見えるか」
「嘘うそ。ジョークです。…ごめんなさいってばそんな睨まないでくださいよ」
むすっとしたまま用意をするカクはよほど眠いのだろう。
「カクさん」
「なんじゃ」
「服、反対ですよ」
「…………」
昼間の姿からは、朝の低血圧な彼の姿ってなんだか想像つかないですよねぇ。くすくすと肩を揺らしていると、わしゃわしゃと髪を撫で混ぜられた。次いで、いってくる、と一言。あ、カクさんお弁当忘れてる。
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