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当麻を原告に裁判が始まった。その頃、七恵は堂上班と連携が取りやすく信用できる人物という理由から、図書基地で生活をする当麻の身の回りの世話役を任されていた。

忙しく動き回る日々に以前感じたモヤモヤのことはすっかり忘れていた七恵だったが、それはまた突然やってきた。




「堂上篤さんにお会いしたいのですが…」

カウンター業務についていた柴崎は、その女性の声が聞こえた方向に思わず視線をやった。

職員に面会がくることなど別段珍しくなどない。珍しいのは、その名前だ。


「これは…ちょっと面白くないわね。」

呼ばれた堂上とその綺麗な女性がカウンターから離れていく背中を見送りながら、柴崎は携帯を手に取り席を立った。






その夜、堂上は基地から少し離れたレストランへ来ていた。

≪今日、外に食べに行きませんか。≫

数時間前にきた七恵からのメールを開いて、再度待ち合わせの時間とレストランを確認する。突然の誘いに思い当たる節があり、堂上は二つ返事でそれを了承した。

恐らく七恵は昼間の件の話をしたいに違いない。ならば、こちらは何も誤解することはないということを誠心誠意伝えるしかない。

堂上が意気込んでレストランの扉を開くとウェイターがすぐに気づき、席まで案内された。七恵は既にそこに座っていて、こちらに気づくと嬉しそうに笑うから、堂上もまた自然と微笑み返していた。

「篤さん、お疲れさまです。今日は突然、ごめんなさい。」

「お前からの誘いなら嬉しいに決まってる。」

そう言うと照れたように頬を染めて、七恵はまた嬉しそうに笑った。



「篤さん。もしかして、私が今日のことで文句を言うかと思ってたんじゃありません?」

食後のコーヒーを口に含もうとした時、七恵にそう言われた堂上はぎくりと身を強張らせた。言った本人は悪戯が成功した子供のような表情を浮かべている。

「正直に言うと、…思った。だが、誤解するようなことは何一つないってことをちゃんと説明しようと思っていた。」

「ありがとうございます。でも、その必要はありません。麻子から全部聞きました。」

「柴崎?」

「私のこと心配して、児島さんのこと調べてくれたみたいで…」


それは職権濫用というものではないのか?と思わず口を挟みそうになり、堂上はぐっと堪えた。


「嫉妬してモヤモヤしなかったと言えば嘘になります。けど、どうしたって私は篤さんのことが好きで、篤さんも私のこと大事にしてくれてるって前の一件で知ってるから…。だから、」


「…だから?」

「大好きって気持ちを伝えたくなったんです…。」

頬を染めて、また嬉しそうに七恵は笑った。

「お前は本当に…。」

「は、恥ずかしいのでこの話は終わりです!そろそろ出ましょうか!」

「ああ、そうしよう。」


どうしようもなく溢れるこの愛しさは、どうすればいいのだろうか…。もうこれ以上、抑えられそうにない。

真っ赤な顔を掌で扇ぐ七恵を見て、堂上は顔が緩むのを抑えられなかった。


「七恵、柴崎に連絡だ。」

「え?は、はい…。」

「外泊届、頼むってな。」

「外泊…?…えっ!?!?」






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