始まりのとき
ここより西へ西へ進んだ森の奥深くに、自然を尊び敬い、その恩恵を一身に受ける玉緒の巫女が住まうという。
「たまのお…?」
「そうだ。命、とも言うがな。そんな大層な名前で呼ばれとるんだから、何かしらお前さんの力になるやもしれん。シシ神の森はその更に西と聞く。」
村を出て西へ西へと長い旅路を超えてきたが、あのタタリ神の足跡を失ってしまった今、頼れるのは伝え聞いた噂のみ。
果たしてその玉緒の巫女とやらに会えばこの呪いをどうにかしてくれるのか。
恨み、憎しみの渦巻くこの右腕を。
確証はない。そんなものいつだってどこにもない。
けれど、そこへ行かない理由などアシタカは持ち合わせていなかった。
「ささ、そなたもどんどん食え。腹が減っては戦もできんからな。」
進められるまま粥をかきこめば、腹の中がじんわりと熱くなった。
小さな小さな社。申し訳程度に立つ鳥居は蔦が巻きついて、苔むしている。
森の奥深くのそこはほとんど人も立ち寄らず、そこに通うのは少女一人。
「さあ、皆さん。今日も手伝ってくださいな。」
黒い艶やかな髪をなびかせる少女は森に向かって声をかける。
するとその声に応えるかのように周りに、小動物があちらこちらから集まり始めた。
「みんなでお手入れしましょうね。」
少女は肩に登ってきたリスを優しく撫でる。
穏やかに風が木々を揺らし、隙間から溢れる木漏れ日は彼女を優しく照らした。
二人の出会いは偶然か必然か。
運命はすぐすこまで迫っていた。
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