旅立ち



小さな社を後にして、森の中を西へと進む。振り返れば、あの苔むした鳥居はもう木々に隠れてしまい少しも見えることはなかった。


「本当に良いのか?」

「アシタカ様はご迷惑ですか…?」

「いや、そなたが良いと言うのなら私はもう何も言わない。」

そう言って微笑むと、少女は嬉しそうに笑って視線を前へと移した。

あの後、旅に同行すると言われた時には会ったばかりの少女にそんなことはさせられないと勿論アシタカは断った。しかし、彼女は頑なに意思を曲げようとはしなかった。

説得をしようにも、どこか寂しげな目で必死に首を振るばかりで、そんな様子を見てしまえば厳しく突き放すこともできなかった。

今思えば、彼女はまだ若い。一族は皆死に絶え自分だけが残されてしまったのだから、きっと人恋しかったのだろう。

やんわりと服の裾を掴んだその手は細く小さなもので、果たしてこの少女を旅に巻き込んでしまって本当に良かったのかとアシタカは僅かに後悔をした。

「アシタカ様、森を抜けました!」

「あんまりはしゃぐと、ヤックルから落ちてしまうぞ。」

「あ、すみません!…あの、ヤックルさん、重くないですか?やっぱり私歩きましょうか?」

「ハルイは軽いから大丈夫だ。いざという時は私が歩こう。」

「いえ、そういう訳にはいきません。私が無理について来たのですから私が歩きます!」

「全く…。そなたは頑固だな。」

くすり、と笑えばまた少女は嬉しそうに笑った。



これで、良かったのだ。
彼女にとっても、自分にとっても。


アシタカはそう自分に言い聞かせ、ヤックルの手綱を握り直した。



こうしてアシタカとハルイはそこからさらに西へと進み、シシガミの森を目指すのだった。

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