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28*

容赦ない日差しが草を嬲るように照りつけている。
そんな陽射しを遮るように生い茂る木々の下。強い日差しに、濃さを増す影の中、空気を切り裂く音とともに、人影が呆気ないほど簡単に大地へと投げ出された。零れ落ちた木漏れ日が女の白い肌を彩る。光がきらめいて目をくらませるように下草がチラつく。

「おい、もう終わりか」

落ちた枝をワザとらしく踏み鳴らし、高い音を立てながらゆっくりと近づく。

「は、っぁ……」

地に伏し、ぜいぜいと胸を波打たせ、乾いた空気を取り入れようと必死な姿。いくら空気を取り入れようとも胸の軋みが消えるはずもない。白い首筋に珠の様な汗が浮かび、流れ落ちた。そんな娘にゆっくりと一歩づつ、近づいていく。

そんな近づく足音に煽られたのか、薄い肩を跳ねさせ、弾かれた様に男へと飛びかかるように迎撃に移る。最低限の動きで、勢いよく振りぬいた右腕。意表を突いた上に、完璧に男の死角から狙った鋭い一撃。だが、その決死の抵抗を男は軽くいなして、重心をずらしただけ。ただ、それだけだったのだ。

「―――ぁ」

何が起こったのか理解できないかのように、呆気にとられた表情。その女の足を軽く払うと同時に、腕をねじり上げて大地にうつ伏せに押し倒した。身体の下から苦しげな吐息が漏れ、髪の間からは眉を寄せ、 苦痛に噛み締められた横顔が見える。

「これで対人戦闘術が一番ましだってんだから、お笑い草だな」
「い―――っぁ、痛、へいちょ……、っん」

嘲る言葉と共に背中に回した腕に力を込め、大地に押さえつけた身体に圧力を加えると、エーリカの口から堪えきれないとばかりに、涙が混じった浅い呼気がこぼれた。まるで嫌がる娘を力ずくで押し開くかのような疑似的な感覚。背徳感をかきたてる憐れな声。その鳴き濡れたような声色に、ぞくり、と興奮にも似た鈍い衝動が腹の底で疼いた。

リヴァイとて、どれほど英雄視されようとも単なる人間―――男であることにかわりはない。
馬上で体を震わせる新兵。助けを求め、消えていく絶叫。信頼を置いた数多の兵士たち。そんなものをすべて失っても、何一つとして得られぬ成果。剣を取った時から、一歩も進んですらいないのではいないのかという恐怖。汚泥のように足に絡みつく血を蹴りたてるだけの毎日。

そんな自分の背に、刻み込まれた期待と言う名の翼。だが、外套を脱げばそこにいるのは、一人の男だ。何のために剣を取るのか。翼をはためかせ、英雄の名を背負った先に何があるのか。そんな形のない何かに追いやられるかのように、女の肌に溺れた時期もあった。

そんな淫靡な夜を思い起こさせるように、手のひらに吸い付くような肌。身をよじってのけぞる白い咽喉。せわしなく上下する背。こちらを誘う様に、匂い立つ香り。喘ぐように、悲痛に零される声色。苦しげなくせ、どこか熱っぽさを感じる。エーリカがどんな顔をしているのかふと気になり、背に膝を乗せたまま顎を掴んで、力任せにこちらに向けた。

何時の間に切ったのか、口の端から零れ落ちた赤い液体が紅のように唇の端を濡らしていた。そんなものに目を引かれた事実を腹立たしく思いながら、親指で拭ってやる。だが、血は赤い線となって、より壮艶な血化粧を施しただけだった。

思わず動きを止めたリヴァイの姿に隙があると見たのか、往生際悪く再度抵抗を試みてもがこうとする。だが、その動きはリヴァイに体を押し付けるようなものにしかならなかった。そんなあえなき抵抗を遊ぶようにいなして、彼女の体力を消耗するのを待つ。もはや決して逃げられない不安定な姿勢だというのに、エーリカは足掻くことを一向に諦めようとはしなかった。

だが、努力ではどうしようもないものがあるように、エーリカの命運はとうの昔にリヴァイの手の上だ。ねじり上げた腕に軽く力を込め、頸動脈に指を緩く這わせる。逃走の可能性を全て奪われ、抵抗らしい抵抗すらできない現実の前に意志が折れたのか、それとも軽く意識が飛んだのか、ようやくエーリカの体から力が抜かれた。

「もうへばるなんて、情けねえ。こんな実力なら、どうされてもおかしくないとは思わねえか」
「う―――っ、も……やぁ」

組み敷いた体の薄さに、内心の動揺を悟られぬように、いつも通りの悪態をつく。
この程度の実力で、身の程をわきまえずに誰彼かまわず喧嘩を売りまくるのだ。愚かにも程があるだろう。いつ、足元をすくわれて、何をされても文句は言えない脆弱さだ。そう、地下街に住み着くゴロツキどもなどに、いいようにされかねない。
そう、―――こんな風に。


汗ばんだ首筋に指を這わすと、肩が震え、濡れたような声が漏れる。衝動的に泣き言を漏らすエーリカを仰向けにしてリヴァイは、鮮やかに染まった首筋に顔を埋めるほど、上体を倒してエーリカにのしかかった。細い娘の体が、抑え込んだ腕の中でもがき苦しんでいる。だが、苦しげな様は、かえって獣じみた異様な興奮をリヴァイの内に湧きあがらせた。

「いや、じゃねえだろ。折角稽古をつけてやってるってのになあ」
「は―――ぁ、なら……もう、どい、て」
「それが人にものを頼む態度か?」
「―――っ、お願、い。ど―――いて、下さっ……い」

暴漢に無体を働かれたかのような哀れな風情でリヴァイに許しを請うエーリカと、目が合った。
必死で見つめる眸。
一心に許しを請うような、あるいは誘う様な――――リヴァイだけを見つめている瞳。


汗ばむ肌。浅く繰り返される乱れた呼吸。上下する胸。甘く濡れた呼気。熱い―――眼差し。苦しげに、切なげに細められた瞳から、零れ落ちた涙が一筋、首筋へと流れ落ちる。
その様に、ぞくっと、一瞬で湧きあがった衝動を、ついに、リヴァイは抑えきれなかった。そのまま娘に覆いかぶさり、かみつく様に唇を塞ぎにかかった。

突然の刺激に驚き、抵抗を再開させようとするエーリカの身を、唇をふさいだまま体重をかけることで、難なく押さえつける。あわれな悲鳴は零されることなく、男の口の中へと消えていく。

いつの間にか、辺りは暗さをまし、エーリカの服は乱れたものへと変わり果てていた。手を滑らせるだけで、幽かな衣擦れが心地よい音色を立てる。普段はきっちりと着こなし、見せることない淡く白い胸元が、なだらかな曲線を描いている。鍛え上げている肉体だと思えないほどに、柔らかなふくらみ。誘われるように、下へ下へと手を滑らせると、軽く力を入れただけの指先が容易く沈んでいく。
なんて―――脆弱な体。

「んな願い――――聞くつもりはねえがな」
「ぁ―――っん、酷……い」
「なんとでも言っとけ」

水音の合間に、途切れ途切れに零される、掠れたような懇願の声。だが、エーリカの抵抗はもはや口先だけ。吐息のような熱いたみたま息と共に零される否定の言葉。だが、解放された手は、ただリヴァイの肩と首筋に手を這わすのみだ。

甘えるように、腕に軽く爪を立てられる。それに、ゾッとするほど煽られ、戦闘時にも似た鋭い刺激が背筋を走り抜けた。甘い香りが鼻腔をくすぐる。滑らかな指先が何かを懇願するようにリヴァイの喉を撫でた。

何よりリヴァイを掻き立てるのは、その瞳の色だ。
濡れたような熱にけぶり、これから先に起こる出来事に期待をするように揺れる瞳。
腰から下にしびれがわだかまっていく感覚。背筋を走る熱が体を炙るように燃え立たせる。
そんなリヴァイの前に、食らってくれと、蹂躙してくれとばかりに投げ出された肢体。

「リヴァイ、私……もう」
「……どうして、欲しいんだ」
「――――」
「言えよ」


濡れた瞳で見上げてくる。
逡巡は一瞬。
冷たい手が、これから起こる淫靡な宴を寿ぐように、背にまわっていく。
濡れた舌が、唇を濡らし、そして―――――

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