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倉庫街での死闘裏2

くたびれたコートをまとった男が闇夜にまぎれて、戦闘をスコープで覗き見る。

『ランサーのマスターは…あそこか』

だが今は動けない。動けば生きていたアサシンにこちらの動向をとらえられてしまう。
この身が魔術師殺しに特化しているとはいえ、サーヴァントを相手にするには、あまりに実力不足というよりほかない。
目の前に獲物がいるというのに、手出しのできないもどかしさに内心歯噛みをしつつ、切嗣は冷静にスコープを除いて、機をうかがう。
いま、ここで不用意に動くよりも、情報収集に徹したほうが望ましいと理解しているからである。


と、遠雷が鳴り響くような轟音を立てて、征服王と名乗るサーヴァントが現れた。
切嗣にはまったく理解のできない論理…いや、論理にすらなっていない妄言を並べ立てて、戦場を引っ掻き回している。勝手に情報を漏らしてくれるという点では、有り難いがこんな奴に世界は一度征服されかかったのかと思うと、情けなくて涙が出てきそうと言うもの。

さらにその征服王とやらに煽られてまた新たな、そうくだらない誇りなんて持っておるサーヴァントまでが顕現したとあっては、英霊に対する嫌悪もひとしおである。

まったくどいつもこいつも、英霊どもときたら、と内心憤懣遣るかたない思いで、ワルサーの暗視スコープを覗きながら、マスターらの隙をつくべく戦闘の様子を静かに注視していると、瞬間、背すじを冷たい怖気が走った。


―――見られている?
    一体どこから!?


そう認識して、その気配の先
まるで引きつけられるかのように目を向けた瞬間


――――全てが、停止した。――――


『…ぐ…っ!』


瞬間、不慮の事態を舞耶に伝えようとしたが、喉が固まって声ひとつ出せないことに切嗣は気が付いた。そう、今や指どころかもはや声一つあげることができない。
コンテナの闇に縫い付けられるように凝る黒い影。
夜そのまま溶け消えてしまえとばかりに強まっていく束縛。


抵抗しようと考える間もない、問答無用に意識を制圧する束縛の魔眼だった。
唯一自由が許されているのは中身…魔術回路ぐらいだが、その回路もねめつけられる程に動きが鈍ってゆく。


『魔、眼だと…?』


魔眼の影響力…相手の魔力の汚染を体内の魔力で中和して、押し流そうとする。が、それ以上に相手の魔力が上なのか、どうもうまくいかない。魔眼と対抗するには同じ魔眼で対抗するという術もあるが、自分にはそんな能力などない。
かろうじて女だと分かる程度の距離、だがおかしい、この距離でこの威力はありえない、ありえないのだ。
なぜなら――――



その魔眼の持ち主は、はるか遠く、数百メートル先に佇んでいたのだから。



*****



シャノンが速やかに瞳に魔力を集め、瞼を開くとそこには、深い藍色をした娘の右目が、碧く冴えわたっていた。
そうして、左手を上げ、顔にかけた眼鏡のふちを水面に触れるような細やかさで、そっとやわらかに撫でつける。

がきん、と頭の奥で歯車の回転したような音が聞こえた気がした。
元来、彼女の魔眼は透視や遠隔視、そして予知など見抜き明らかにする千里眼に属するの「真理」の特性に特化しており、停止や束縛などの特性はないに等しいといっても過言ではない。

だが、それを補うのがこの礼装。
眼鏡のレンズを通過させることにより、光と魔力の屈折率を変化させ、本来は叶わない機能を再現できる限定魔術礼装。

『鉱物科の皆には後で相応の礼を渡さなくてはならないわね』

そう、くすりと冷たく微笑み、口元に獲物を前にした愉悦感をたたえながら
閉じていた左の瞳をゆっくりと開ける。
その瞳の輝きは変わらねど、もし相手から見ることがあれば左目は禍々しい紅の色に見えただろう。

獲物がこちらに気付いたようだ。

「―――残念、もう遅いわ」

放たれる最速の一工程、視線による術式投射。
そうして、彼女の魔眼が、陰に隠れ潜む男の姿を縫い付けた。

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