春眠 | ナノ
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◆SIDE:白乃

「また今回も、収穫なしか。あの女の心は鋼鉄か何かで出来ているのか?それとも、マジカルなアンバーが作り上げた、鋼鉄お掃除メイドの一種とかなのか?」

などと、こちらの苦労も知らずに悪態をついてくる白野の声が妙に腹立たしい。
そう、私はあれから何度となく迷宮に足を運んだものの、いまだにあそこから一歩も先に進めていないのだ。
あと、自分でも結構落ち込んでいるんだから、もっとガラスに触れるような繊細な対応を求めます。切実に。


「SGの収穫のかわりと言わんばかりに、お土産ならたくさんいただいたんですけどね。驚いたことに、こっそりと迷宮探索にいそしんでいた兄さんまで持て成されたとか。あ、これがその時のお土産のプリンです。にしても、なんでもありですね、この階層は」

だがまあ、流石のシャノンも、ガトーの煩さには辟易したらしい。迷宮に弾かれて迷ったガトーを回収するだけの簡単な任務。同じところでぐるぐる回っている彼を持って帰るだけのミッション。ああ、なんてむなしいんだろう。もういっそバターになってしまえばいいと思います。

「そんなこと言ってる場合かっての。全然攻略できていないじゃない!」
「おや、では、ミス・トオサカはこのプリンはいらないと?確かに、これ以上摂取することで予想外のカロリーが外装に…」
「いるわよ!ってか、つかないっつーの」



SGというのは心の揺らぎ、歪みの発露である。
相手が戦いを求めない以上、言葉で相手の心を裸にしなければならない。
その時間的余裕はかつてないほど潤沢にあるというものの―――


「しかし困りましたね、まったく糸口が見つからない。一進一退どころか、一歩も進めないとなると、問題ですね…」
「ええ、残念ながら、いくら言葉を交わそうとも彼女の心に揺らぎはかけらも見当らないように思えます。正直、ホムンクルスの私よりも、感情の抑制が効いていると言えます」
「はい。シャノンさんの思考レートは、安定域を常に保って、一定以上に動きません。非常に安定していて、揺らぎが見当たりません」

そう、何度迷宮に足を運び、彼女と言葉を交わそうとも、SGのヒントの欠片も得られなかったのだ。
貰ったお土産は、山のよう。
持て成されたスイーツも、星の数。


回る回る
お茶会は回る。
カロリーは増える、されど攻略は進まず。

でも、私はスイーツを求めて迷宮探索しているんじゃない。SGを求めているのだ。
月の表側に戻るには、シールドを突破しなければならない。
そのために、彼女のSGを求めているというのに、手掛かり一つ見当たらないなんて、想定外だ。
だというのに、幾ら彼女と言葉を交わしても、欠片だって隙が見えないのだから、本当にどうにかしている。
今回の衛士も見た目に似合わず、強敵であることを、嫌でも認識せざるを得なかった。




◆SIDE:白野

と、いった風に、白乃は肩を落としてしょんぼりと落ち込んでいる。その風情は、雨の日の子犬。わずかに憐みをそそられないわけでもない。

いや、俺としても手を貸したいのはやまやまなのだが、自分のサーヴァントがゲームマスターから待機命令を出されているのだから、仕方がないだろう。
しかし、どうしたものだろうか……


接触して心の隙を見つける、とは言っても、その隙自体が見当たらないのなら、どうしたら良いのだろうか。八方塞がりである。

「――――」
と、いつもは無言でこちらの悩んでいる姿を肴に、ニヤニヤと愉しむギルガメッシュの雰囲気がなにやらおかしい。
いや、姿は見えないのだが、後ろから伝わってくる雰囲気が妙に気怠い。
具体的には、見飽きた映画をもう一度見るような感じ。
つまりは、非常に退屈そうなのだ。

正直、このまま放っておきたいが、暴発する可能性があっていて、圧力を抜かないわけにはいかないだろう。
よって、意を決して声をかける。
……、あ、あの、どうかしたのか、ギルガメッシュ?


その言葉に促されるように、金の粒子を纏って、黄金の鎧を着た男が現れた。ただそれだけのことで、学ぶにふさわしい清貧の学び舎が、まるで王の訪れを寿ぐように急に華やぐ。
いつ見ても思うのだが、ギルガメッシュが現れる度に、周囲の雰囲気が華やぐように感じられるのは何故だろうか?
この俺にも、その華やかさと迫力をわけてほしいものである。
主に、キャラ立ち的な意味で。

そんなこっちの心情など知らずに男は、赤い瞳で部屋をゆるりと見渡しながら、口元に嫌な予感がする笑みを浮かべた。
この男がこんな顔をするときは、概してよくないことを考えている時だ。
顔を合わせたら、すぐさま殺り合いそうになるために、現界こそしていないものの、白乃のアーチャーの警戒する気配がピリピリと肌を撫でる。
そうして、黄金の男はうっそうと口を開き―――

「ふむ、いやな。この茶番にも飽きてきたと思ってな。ゆえに、何とかせよ雑種」

って、なんだそれ!
腕を組んで、踏ん反り返りながら語られる言葉に、激しい頭痛を覚える。
暇って……何を言っているのだろうか、このゴージャスは。無茶を言わないでほしい。
大体俺なんかが何とかできるなら、もうとっくに手を打っている。
それと、言うくらいはタダなんだから、お前もなんかいい案だしたらどうなんだAUO。

「ふむ、王と呼ぶには敬意が足りんように思うが…まあいい。そうさな――――あの女が迷宮を踏破できんと言うなら、反対にお前が迷宮に行けばいいではないか」

さもいいことを言ったと言わんばかりに、不遜な笑みを湛えて、傲然と語られる言葉に、少し期待を抱いていた自分が馬鹿だったと思い知らされ、頭をかきむしりたくなる。

大体、それこそ無茶だろう。俺のサーヴァントはこの今回ばかりは二軍落ち決定。ベンチ組で、そのくせ絶賛尺も幅もソースも取っている最中の金ぴか英霊なのだ。
ああ、神棚に飾ったら、ご利益あるかな。俺のさもしい(英雄王言)蔵とかに。
それ以前に、どうやって一人で迷宮に足を踏み入れろと言うのか。
そこまで命を張って、英雄王の笑いを取りに行きたくはない。

「なるほど、その案がありましたか」
「そうね。マンネリ化って一番の大敵だし。英雄王が迷宮に入れないなら、白野がアーチャーと入ればいいわけだしね」

ってレオ?遠坂さん!?
なにか、かなり無茶苦茶なことを言ってませんか!?

「いいじゃない。アーチャーとあなたでぶち当たってみなさいよ。大体、SGってのは本音と本音のぶつかり合いをして、心のすきを見つけなきゃいけないのよ?だってのに、白乃じゃ普通に仲良くお話しして、蕩かされてお土産片手に帰ってくるだけじゃない。それじゃいけないのよ!もっと、相手の嫌がるところをぐいぐいつくような、いやらしさが必要なわけ!」

そんなイヤらしいことを、俺に求めるわけですね。
わかります。
流石は、凛。俺を問答無用の課金戦士に仕立て上げただけのことはある。
そんな君に一つだけ言わせてくれ――――地獄に落ちろ、リン。

「あら、落ちるときは一緒よ、白野(ハート)」

すいませんでした!

「なるほど、いいことを言うではないか。流石は、トオサカリン。凡夫とは目の付け所が違うな。ならばやるべきことは一つ。よいか、白野よ。あの女の言葉通り、乙女の花園に土足で踏み込み、荒々しく心を踏みにじり、思う存分に荒らしまわるがいい!」

ちょっ、人聞きの悪いことはやめてくれ!
ただでさえ低い主人公力が、逆天涯突破したら、どうしてくれるんだ!


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