春眠 | ナノ
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◆SIDE:はくの


パッションリップの迷宮から記憶の結晶を取り戻し、ようやく自分たちにダウンロードできたものの、その隠されていた真実はあまりにも重苦しかった。自然と垂れる頭を振って、周囲を見やると、レオをはじめとした、ほかの生徒会の面々も同じ苦しみを抱いているのであろう。その顔は苦虫を噛み潰したように沈鬱で、生徒会室には重く鈍い静寂が沈んでいる。
誰もが返された記憶の重みを、受け入れるために静かに苦悩しているのだ。


そうして、私/俺は目を閉じて、自分の記憶に深く沈んだ。


そう、俺ら/私たちは始まりからしてイレギュラーな形をとったマスターだった。あまりにも、その身を構成する霊子が似通っていたからこそ、回線が混じったのだろうというのが、彼女の―――――はて、彼女とは誰だっただろうか。……まあ、記憶が戻ったのだからいつかは思い出すだろう。
――――まあ、その誰かの見積もりだったはずだ。

2人で1つの令呪に、2人で一人前のマスター。
サーヴァントこそ、2体いても、その能力ですら半分ときた。
1人で2騎のサーヴァントを維持するように、サーヴァントの実力も半分しかだせなかったのだ。


霊子パターンも同じ、出す結論も同じ、同じ思考回路に魔力量、違うのはうわべの外装だけ。
――――だから、ムーンセルも見逃し続けてきたのだろう。


そうして、5回戦で―――ユリウスと……あれ?どちらが戦うことになったのだろう?
慎二とは二人で戦ったはずなのに……途中から、一人で戦うことになった記憶、がある。
―――――一体、いつから、俺/私は、道をたがえたのだろう。

そう、私たちは、あの、分岐点で、俺たち/私たちの道は――――



脳髄にしびれたようなノイズが走った。
欠けた、夢を…見ていたようだ。
思い出せないのなら、今思い出すべきことではないに違いない。



そのようなことに、頭を悩ませていると、目の前に砂嵐が走る。
ああ、またこれか。
重く沈んでいた生徒会の空気が、いろんな意味で変わった。

いや、正直なところ、もう少し空気を読んでほしいというか、シリアスに浸っておきたかったのだが、と隣にいる片割れのため息を聞きながら、視界ごとジャックされることを受け入れた。


*★*★*

軽快なBGMと共に、一瞬で視界がBBスタジオに固定される。明瞭なのはただ張り付いたような視界だけで、肉体に付随するはずの何もかもが、切り離されている。それはあまりにも窮屈で――――まあ、慣れた立ち位置だ。
というか、いい加減、カメラ兼、スタッフの立ち位置から解放してもらいたいものであるが、それをBBに語ったところで、悪化するだけのような気がするので口をつぐんでおく。

『みなさんこんばんわ。絶賛、後悔の海を航海中ですか?パンドラボックスを開けて、海に漂う海藻のように萎れていますか?それとも、生まれたての小鹿のようにプルプル震えている最中ですか?ほーんと、人間って馬鹿ですよね。開けちゃならない箱を空けてしまって、最後には根拠のない希望しか残らないっていうんですから』


砂糖に砂糖がデコレーションされていそうなくらいに甘ったるい声が、スタジオに響く。ああ、今物凄い勢いでシリアスが逃げていく音が聞こえた。こちらのシリアスな心情なんて、なんのその。浮かれたように、スタジオを歩き回りながら、相も変わらずの残念極まりないハイ(すぎる)テンションでBBは、体をくねらせて片目をつぶってウインクを飛ばしてくる。その様は確かに可愛らしいが、だからこそ次の反応が予想できない恐ろしさが増す。


『でもそんな皆さんに、そして悩める子羊の様な先輩たちには、余計なことを考えれなくなるようなスイーツでスゥイートな、プレゼントをあげちゃいます!そんな子ウサギのように愛らしいBBちゃんに感謝してくださいね★それっ』

隠しきれないため息を内心漏らしながら、死んだ魚のような眼でスタジオを見ていると、BBが教鞭を振るとともに何かが現れた―――これは、すごろく?

『はい、正解です!さっすが先輩、幾らお馬鹿さんでもそのくらいは理解していただけたんですね。ずばり、今の先輩たちに必要なのは癒し。頭の中が空っぽになって、ぐずぐずに溶けて流れるようなスイーツが当るかも?さあ、このサイコロをまわして、嬲って、転がして!』

視界の先には、大きなさいころが転がっているものの、そもそも転がす手足がないのだ。
それをわかっているくせに、こちらから言わせようとするとは、いつも思うことだが、BBのねじ曲がりっぷりにはため息が出そうになる。だが、ここで黙っていても、話が進まないので、しぶしぶと彼女が求める言葉を告げる。
転がせと言っても、体が認識できていないんだからどうしろと言うのだ。

『えー、残念、なら、代わりにBBちゃんか先輩たちの代わりに転がしちゃいます。先輩たちが死合せになあれ〜〜★』

キラキラとした安っぽい音響効果が流れた瞬間、頭がシェイクされたような衝撃に襲われた。
ぐあっ!
回った!視界がぐるんぐるんまわったんですけど!
転がすって、自分がサイコロになった気分を味わえということだったのか!?
あと、死合せって、どういう意味なのか!?



『もー、ピーチクパーチク煩いですね。先輩がそんな悪いことを言っているから、―――ほら、こんなコマにあたってしまったんですよ』

先ほどとは一転、刺し貫くように冷たく、低く抑えられた声に、嫌な予感を全力で感じながら、不吉な言葉が杞憂であるように願いつつも問いかえす。
な、なんだっていうんだ?

『な、なーんと!止まったコマは【金ぴかは一回休み】!ギルガメッシュさんはここで探索もお口もお留守番です。ヒントも厳禁ですからね!というか、たまにはチートは封印しないと詰まらないでしょう?ゲームバランス的に。ゲームマスターは細やかな気配りを求められて大変なんですよ、本当。そんな勤勉なBBちゃんを、先輩方は敬うくらいしてくれてもいいと思います。と、言うわけで、その他の皆さんでスイーツな迷宮を味わってください★』


金ぴか―――ギルガメッシュが迷宮探索に入ることができないということは、俺/白野は留守番役になるということか。
……それなりに厄介だが、いずれにせよ自我認識をしてもらうためにも、生徒会のバックアップを受けて一度に迷宮に潜れるのは一組だけなのだ。まあ、私/白乃が今回は頑張ればいいだけのことだ。まだ、この程度の妨害なら何とかなるだろう。
と、その前に、いつも恒例の次の衛士紹介タイムはないのか?
あと、ジナコがどうしたか知らないか?

『あー、それなんですけどね、ネタバレしちゃうと、ジナコさんは次の迷宮にてお待ちしているスペシャルゲスト、です!まあ、スペシャルという割には、適合者としてもギリギリで、テンション下がるんですけど、まあ衛士になってくれるなら文句は言いません。あっ、そのまえに、甘ーい罠にずぶずぶと嵌ってくれちゃってもいいんですよ、先輩。そんなみんなの心を釘付けにする次の衛士は――――ヒ・ミ・ツです★BBちゃんが苦労に苦労を重ねて、ようやく表側か迷宮のコアに萎えうる適合者を見つけ出したんですから、もう少しもったいぶらせてください。それに、少しくらいだって、女は秘密があって魅力的になるっていうでしょう?ですから、先輩自ら、その手でゆっくり、じっくり調べてあげてくださいね』

桜と同じ顔をした、それでいて決して桜がしない、嘲笑と侮蔑に満ちた笑顔で、こちらを見下しながら、BBはぞっとするほど甘く、蠱惑的な声色で言葉を落とした。

『それでは今回はここまで、乙女の迷宮の奥底でお待ちしていますね、―――先輩』


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