春眠 | ナノ

蒼の開幕”

昔々、そう、クランの猛犬と呼ばれる男が生まれるよりも少し前の話です。
さる領主の家に一人のとても美しい娘が誕生しました。
彼女の誕生を喜び祝うかのように、大地に花咲く星々のような白い花が咲き乱れ、踊るように星は瞬きました。ですが、誕生を祝いに来たある力ある魔法使いは一つの予言を彼女に贈りました。

「この娘は、咲き誇る花のごとく、この国のだれよりも美しく、聡明に育つだろう。
だが、それも摘み取られるまで
娘がただ一人の者と生涯を共にすると誓った時、娘の祝福は呪いへと変わり、そう遠からざる未来、その誓いを立てた者によって死に至るだろう」

その予言を聞くや否や父は勢いよく立ちあがって、力ある言葉で言いました。

「実る林檎は摘み取られるが定め。
何れ来るそれを拒むことはできまい。
だが、実る林檎ではなく、実をつける木々であれば、奪われることはあるまい」

そういうが否や、娘の体に異変が起こりました。
娘が生まれもっていた膨大な魔力と父の誓約が不協和音を奏で、娘の体に強いまじないを施しました。
そう、娘の父もまた優れた魔法使いだったのです。
そしてその時から娘は、ある時は女性であり、またある時は男性にもなったのです。

かくのごとく、娘の運命は定められたのでした。

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