Σ-シグマ-2 | ナノ
青い春を黒く塗り潰す


『無性に食べたくなったからコンビニにアイス買いに行くよ、一緒に行く人ーっ』

「オレが行く!」

「ワシもーっ」

「それがしもーっ」

『うんうん、じゃあ行こうか。留守番よろしくねー』














『…で、片倉くんと刑部さんは抹茶。佐助くんはチョコにしよっか』

「佐助はみんとってやつにしようぜ!この前、顔しかめながら食ってたし」

『それを知りながら再び当てがうとは流石だね梵』

「ワシもちょこがいい!」

「それがし、ばにらを!」

『了解、松寿くんとマセガキは何でも好きだし。キヨは何味が好きかな…ん?』




可愛いちびっこたちを連れ、アイスを買いに近所のコンビニへ向かったある日のこと

何味にしようかと相談していた最中、ふと私が顔を上げた先…コンビニの駐車場に座り込む影が一つ視界に入った


怠そうにタバコをプカプカ、お手本のようなヤンキー座りをしながらじっと地面を睨んでいる

…一昔前のヤンキーか。これは関わるとダメなやつだね




『…ちびっこたち、ああいうお兄さんとは目を合わさないでね』

「合わせんなよ竹千代っ」

「合わせちゃダメだぞ弁丸っ」

「まかされた!」

『おぉふ…』




末っ子弁丸くんが言葉の通り、両目をぎゅーっと手で覆い隠す。可愛いな

…って、いやいや、そんなあからさまなことしちゃったら目を付けられ…!




「ぁあ?」

『げっ、ほらバレた』




地面を睨んでたお兄さんとバッチリ目が合ってしまった

鬱陶しそうに見上げてくる彼は、気怠げなタレ目に薄い眉毛。適当にもお洒落にも見える格好は…大学生くらいかな、と勝手に想像する




「なんですかぁ餓鬼…オレ様に文句あるんですかぁ、ねぇ」

『…ぶはっ、オレ様って、自分のことオレサマって』

「・・・・・・」

『………あ゛』




あ、やらかした


お兄さんがちびっこから私に視線を移す。昔から変わらない自分の性格は、こういう時に面倒を起こすから厄介だ

ほら、お兄さんがみるみる目を見開いて、くわえてたタバコをポロッと落とし……え?





「ナキ…先輩…?」

『…はい?』

「っ!!!!!」

『うわっ』




次の瞬間、バッと立ち上がった彼は足元のタバコをババッと踏み消し、バババッと猫背な背中をめいいっぱい伸ばす

その勢いにちびっこ3人が慌てて私の後ろに隠れた。いやいや、なんで私の名前知って…




「お、お久しぶりですナキ先輩っ!!オレですよぉオレ、先輩が高校卒業して以来じゃあないですかぁ」

『え…高校?』

「世話になった後藤又兵衛ですよぉ、忘れたんですか?」

『……………』

「……………」

『……………』

「………忘れたんですか」

『あ、うん、ごめん』




自称、高校の後輩な後藤くん…だけどごめん全く覚えてない


私にもかつて存在した高校時代。青春のせの字もなかったそれは完全な黒歴史として、私の記憶の隅に追いやられている

そんな中思い出せるのは、親友だった二人の姿だけ。残念だけど…うん、後藤くんはごめんなさい




「そう、ですかぁ…」

『いやいや、勘違いかもしれないし。私みたいな女なんてそこらに…』

「いや…むしろ、忘れてもらってた方が…」

『はい?』

「っ…い、いやぁ何も。でもオレ様が先輩を間違えるなんてあり得ませんよぉ、ケケッ」

『……………』




…奇妙な笑い方ではあるけど、後藤くんは私との再会に嬉しそうな顔をした

やっぱり人違いじゃなかろうか、それを再び告げようと彼と目を合わせたその時…





「おい、又兵衛っ!!久々に飲むんだぞ、お前さんもちょっとは金出せ!」

『ん?』

「ぁあ?しがない学生に金払わせるんですかぁ?……器ちっさ」

「真顔で言うなっ!!こっちだって安月給な…ん?」

『これはまた…』




そんな大声と共にコンビニから出てきた大男が、お酒やらおつまみの入った袋を抱えてドカドカと近づいてくる

ボサッとした髪を後ろで束ね、目までかかる前髪は伸ばしっぱなし。サラリーマン風なスーツがはち切れそうな程にその身体は屈強だ


そんなガチムチ男も私を見て固まったから大変だね




「ナキっ!!?」

『ああ、やっぱり』

「ははっ久しぶりだなっ!!元気にしてるか、なんだ、この近所にいたのかっ」

『……………』

「……………」

『……………』

「……………」

『…………?』

「覚えてないのかっ!!?」

『はい、まったく』




馴れ馴れしく話しかけてくる彼だけど、私は首を傾げ疑問符を浮かべる

ガチムチ男も高校時代の知り合いらしいが、残念ながら以下省略




「ケケッ無理ですよぉ官兵衛さん、オレ様も覚えてもらってませんから。先輩、この人は黒田官兵衛ってんです」

『あ、はじめまして』

「何故じゃあっ!!?いやいや同級生!小生とナキはクラスメートだ!はじめましてじゃない!」

『と言われても。記憶にないからしょうがないじゃないっすか』

「しかも無理な敬語をっ!!忘れるわけないだろ!なんせ小生らは高校の時…!」

『え?』

「っ……い、いや、何もっ…!」

「せいやあっ!!!」

「ぐおっ!!?」

『おぅふ…』




黒田さんが熱弁していたその間、いつの間にか私の前に回り込んでいた竹千代くんと弁丸くん

そして突然、それぞれ彼の弁慶の泣き所さんを思い切り蹴飛ばした。悶絶する黒田さん、これは痛い




「佐吉が言ってた!変な男がナキに近づいたらここをければいいって!」

「うむ!ナキどのにふれることは、それがしがゆるしませぬ!」

『ぐはっ!!やだちびっこナイト可愛い…!』

「お、オレだって…!」

『うん、梵はまずその人見知りを何とかしようね。でもありがとっ』

「…この餓鬼共、先輩の弟なんですかぁ?」

『あ、後藤くんって子ども苦手だった?』

「っ…い、いやぁ!先輩にそっくりですねぇ!か、可愛いなー」




…と、ものすごく棒読みな台詞でちびっこの頭をわしゃわしゃ撫でてくれる後藤くん

そんな彼に早速なつくのは弁丸くんで、竹千代くんと梵は何か感じたらしくまたまた私の後ろに隠れてしまった




「ぐっ…きょ、強烈だなナキにそっくりで」

『あはー、私ならもっと急所を狙う』

「相変わらずだなっ!!?」

『まぁ母は強しって言うし。じゃあ私たちアイス買いに行くから、またね』

「あ、え、もう行くんで…す……か……」

「おう!“アイツ”ら含めてまた同窓会で…も……し、よう…」






・・・・・・・。







「……母?」

「アレ…先輩の子、なんですか?」

「……………」

「……………」







20150101.


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