Σ-シグマ-2 | ナノ
いつかの別れ


「…おい、そこのお前。もう少しナキに近づけ見切れているぞ。そっちの男も、わざと子どもに隠れるな!」

「ぐっ…!だったらその後ろにいる女に俺を睨むの止めさせろ!」

「…われらが何をしたと言うのだ」

「貴様ら、本当に小石の旦那ではないのだな?手を出してもいないな?」

『うん、二人とも違うよ雑賀さん。だから睨まないであげて』

「そうだ!ナキのはんりょは私−…むぐっ」

「佐吉、話がややこしくなるゆえ静かにしておれ」

「はんりょは俺だぞっ!!あと、はんりょって何っ!?」

「キヨも黙れ」

『ほらほら二人ともカメラ目線、カメラ目線』




カメラを構えて撮影準備を整えるかすがさんと、その後ろで保護者組を睨む雑賀さん。相変わらず後藤くんはイライラしてるし、その隣ではほら笑えよと言いたげに風魔くんが煽ってる

そして私たちを微笑ましげに見つめる上杉くんはもはや菩薩にしか見えないよ


…そんな同窓生の前に勢揃いした私たちは今まさに、家族写真を撮ろうとしているところだった




「…ナキ、写真ならばいつも撮っているではないか」

『ちびたちのはね。でも君含め、みんな揃った家族写真はないでしょ松寿くん?』

「家族…」

『うん、家族。あ、勝家くんももう少し前においで。宗兵衛くんにかぶって見えないよ』

「い、いえ、私は本来こちらに並ぶのもおこがましいので…」




仲良く並んだ佐吉くん、刑部さん、キヨ。そしてその後ろに隠れている勝家くんも、集合写真にお誘いしたんだ

さっきまで後藤くんに喧嘩を売ってたのに、いざ家族にまざるのは気が引けるらしい。まあ、勝家くんらしいね




「なに言ってんだ勝家!俺らは家族だろ、なぁナキちゃんっ!!」

『そうそう、とりあえず君は無駄にデカいんだから座りなさいマセガキ』

「酷いっ!!」

「ふふ、かぞく…ですか。いいものですね、かすがもそうおもいませんか?」

「け、謙信様、そんな、大胆な…!」

「…梅干しみたいに赤いぞ」

「黙ってカメラ目線になっていろ佐吉…!」

「…そこの眼帯のお前、背筋をもっと伸ばせ」

「お、俺っ!!?ご、ごめんなさいっ、雑賀のお姉ちゃん!」

「やーい弥三郎、おこられてやんのっ」

「梵天丸様もうろうろしないでください」

『……あはー、』




写真を撮られなれてる弁丸くんもビシッと背筋を伸ばし、竹千代くんも梵と同じく片倉くんの隣で落ち着きがない

さらっと私の隣を陣取った松寿くんと弥三郎くんも、かすがさんの構えるカメラに向かって表情を作る


…ほんと、家族みたいだ




「かついえっ!!こっちっ!!俺のとなりこいっ!!」

「あ、ああ」

「えーっ!!ずるいぞキヨっ!!勝家はオレのとなりにっ…!」

「梵天丸さま、」

「ごめんなさいっ!!!」

『大丈夫大丈夫、次は場所交代して撮ろうね』

「…ふふ、さぁこどもたち。こっちをむいてください、とりますよ」

「ナキも、家族写真くらい笑ってみせろ」

『……………』




かすがさんの隣で手を挙げた上杉くん、そっちへみんなの視線が集中する

…笑顔で、笑顔で、いや、うん分かってるけどなんて無茶ぶりするんだかすがさん




「…ナキ、楽しくないのか?」

『え…そんなことないよキヨ。楽しいよ、むしろみんなと写真撮れて幸せ』

「しあわせ?」

『うん、幸せ』

「…そっか。じゃあめいいっぱい、しあわせな顔しろよっ!!」

『っ…………』




いくぞっとかすがさんのかけ声を聞きながら、キヨの言葉にも耳を傾ける

歯を見せるニッとした笑顔。そんな幸せそうな顔で、そんなこと言われちゃ敵わないじゃない





『…うん、今の私、すっごい幸せそうな顔してる自覚あるよ』






みんなもそうだといいな、
























『…今はデジカメが普及してていいよね。撮ったらすぐ、確認できるもん』

「そうだな。だが、私は現像した写真もまだ捨てがたい」

『あーその気持ち分かる…あ、これ、弥三郎くんが目瞑っちゃってる』

「これはこれでいいんじゃないか?小石の写りは完璧だから問題ない」

『…雑賀さん、何故か弥三郎くんに手厳しいね。でもこっちの写真とか良くない?特に堅物男子が…ぶはっ』

「ふふふっ、確かに」




あの後、数回家族写真を撮った私たちは、黒田くん到着まで一旦休憩することになった

子どもたちと庭で鬼ごっこしてる風魔くんと後藤くん。上杉くんとかすがさんとお茶してる片倉くんと刑部さんは、私との関係について質問攻めにあってるみたい


そして私と雑賀さんは、写真吟味の真っ最中。くそ、何だかんだ宗兵衛くんが一番写真写りいいなチクショー




『あと弁丸くんはどの角度でも整ってるね、やっぱりアイドル顔かー』

「…小石、」

『ん?』

「…お前にこれを渡しておく。家庭でも仕事でもいい、困ったことがあればここに連絡してこい」

『これ…雑賀さんの、名刺』

「………………」





居間と庭に背を向けながら雑賀さんが渡してきたのは、彼女の連絡先が書かれた名刺だった

それと彼女の顔を見比べていると、その表情は真剣そのもの…うん、ありがと、受け取っとく




「私だけじゃない…皆、事情は聞かないがお前を心配しているんだ。だから今日も集まった」

『…ごめんね、気まぐれなんかで呼んじゃって』

「いや、それも皆が察している。何かあったのだろう?あの息子たちとの間に」

『……何故、ばれたし』

「ふふっ、バレバレだ」

『……内容は聞かないでね』

「ああ、お前が話す時を待っている。心配するな」

『あー、やっぱり雑賀さんイケメンだなチクショー』






…先日、10年後の子どもたちが入れ替わるように現れた。それぞれ違う未来、違う結末からやってきた武将

ただ一つ共通してたのは…みんな、元の時代に戻ってたということ





『いやまぁ…子どもの巣立ちを実感しちゃっただけだから。うん』

「そうか…ふふっ、それはまた気が早いな。お前の子はまだ幼い」

『あはー、成長期は恐ろしいよ。それに…もしキヨが言ってたことが本当なら…』






私は彼らの、成長を見届けられない
























「……………」

「…何を見ている、姫若子」

「ひ、姫若子って呼ぶなよ松寿!えっと、あっちでお姉ちゃんと雑賀のお姉ちゃんが話してて…あ、かすがのお姉ちゃんもお姉ちゃんの方行った」

「……………」

「…松寿?」

「貴様、お姉ちゃんお姉ちゃんと分かりづらい。ナキはナキと呼べばよかろう」

「え…お、お姉ちゃんを名前で呼ぶの…?えっと…えっと、」




あっちで仲良く話してるお姉ちゃんたち。その様子を眺めていると、松寿に呼び方について指摘された

確かにその通りだけど…今までにも言われたことあるかもだけど…やっぱり、恥ずかしいよ




「…それだから貴様は姫なのだ」

「か、関係ないだろっ!!そのうち呼ぶよ、うん、そのうち…ね」

「そのうち…がくる前に、我らが帰る時がくるやもしれぬ」

「そ、その時は俺がっ…俺がお姉ちゃんを、一緒に…」

「………………」

「一緒に…」





連れ去る勇気は、あるのだろうか



















「……………」

「…佐吉、どうした?」

「見ろ竹千代。あの女、ナキより背が高い」

「ん?おう、そうだな!だがワシらだって、そのうちナキよりでっかくなるぞ!」

「そうすれば、ナキのとなりに立ってもカッコイイな」

「む…大丈夫か、佐吉?」

「なんだ」

「いや、佐吉がかっこよさの話するとか、明日雨ふりそう…いたいいたいいたいっ!!!」

「黙れ。私だって男だ」




庭で鬼ごっこをしていた佐吉が立ち止まり家の中を見る。それを見つけた竹千代が駆け寄れば…視線の先にはナキと、友だという女がいた

ナキの友は背が高い。二人は同姓。だがそれでも、並んだ姿は…お似合、という表現が合っている気がした




「…私もナキの隣に並ぶなら、あの背丈になりたい」

「いてて…大丈夫だ佐吉!ワシらはもっと大きくなれるっ」

「…ああ」

「…それに佐吉なら、ワシもゆるすぞ!ナキにお似合いだ!」

「貴様の許可などいらん」

「いたいっ!!!…あれ、もしかして今の佐吉、てれた?」

「去ね」

「いたいっ!!!うぁあぁあっ!!佐吉がなぐったあっ!!」

「……ふんっ」





今は届かないと、私が一番知っている





















「……………」

「…キヨ、どうした?」

「…かついえ、ナキとあの姉ちゃんが、何か話してる」

「ん?ああ…私たちには関係のない話なのだろう」

「ほんと?」

「…気になるのか?」

「うん…だってさっきまでナキ、しあわせな顔してたのに…」




ぎゅっと袖を引っ張ってきたキヨは、視線をずっと家の中のナキさんに向けていた

…キヨは人一倍、他人の心に敏感だ。特に彼女のこととなればな




「…ナキ、どっか行っちまうのかな」

「っ……何故、そう思う?」

「だってナキ、いなかった」

「…………は?」

「俺の未来にいなかった」





いなかったんだと呟くキヨは、いったい何を見たのだろうか

そして彼が恨めしげに見つめるのは、彼女の肩に優しげに手を置く女友達ではなく…ナキさん自身だった 





20151230.


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