Σ-シグマ-2 | ナノ
忍び寄る魔の子


『あ、見えた。あの公園までお願い風魔くんっ』

「……………」




ラジャーと親指を立てた風魔くんに抱えられ、可愛い我が子が待つ公園までたどり着いた

右足は途中で応急処置済み。痛みはあるけど深くはないし、すぐかさぶたになってくれるだろう




『ここにちびっこたちが…あ、いた!』

「あ…っ、ナキーっ!!」

「ナキっ!!!」

「ナキどのぉおっ!!!」

『おぉふ…』




公園の隅のベンチに見えたのは、青と黄と赤のちびっこ3人

私を見つけた瞬間、勢いよく駆け出してきた…3人とも泣いてるよどうしたの




「うぇっ、ナキどのがっ、おそいゆえ、ど、どこかの、ぼうかんにおそわれたかとっ!!」

『落ち着け弁丸くん大丈夫、大丈夫だから』

「佐助もナキを探しに行っちまうしっ!!本当に大丈夫だったのかナキっ!!?」

『うん、本当の本当に大丈夫だよ梵。心配かけてごめんね』

「ならよかった!…ところでナキ、そのお兄さんは誰だ?」

「……………」

『わっ』




ここでようやく竹千代くんが、風魔くんの存在に気づく

彼はベンチまで歩いてそっと私を降ろすと、次に懐から名刺を取り出しちびっこ一人一人丁寧に手渡していく




「ほーじょーしゅぞー?」

「……………」

『北条…あ、風魔くん、おじいちゃんの会社に入ったんだね』

「ふうまどのが、ナキどのを助けてくれたでござるか?」

「え…そうなのかっ!?ありがとな風魔の兄ちゃんっ!!」

「ありがとうっ!!」

「かんしゃいたすっ!!」

「……………」




ふっ当然のことをしたまでさ、という風に鼻の下をこする風魔くん

ちびっこの目はキラキラで、そりゃ彼はヒーローに見えるよねって




「ふうまどのっ!!それがし、弁丸ともうすっ」

「ワシは竹千代っ!!」

「オレは梵天丸だっ」

『お、すごいね風魔くん。梵はなかなか人見知り激しいのに』

「……………」

『ん?この子たち?あは、可愛い我が子だよ』

「……………」




風魔くんがえっと言いたげに口を開いたその時、私たちの前に突然、迷彩な影が飛び出してきた!

それは私を探すため、ちびっこに荷物を任せて走り回っていたであろう…




『あ、お帰り佐助くん』

「お帰りじゃないっ!!突然どこ行ったんだよアンタっ!!ぜんぜん戻って来ないしっ!!探しに行ったら戻ってるしっ!!」

『おぉふ…ご、ごめん』

「ガキじゃないんだから勝手なこと…って、はぁっ!!?なんで怪我してんのっ!!?誰にやられたんだよっ!!!」

『えーとー…』




私と目が合った瞬間、ものすごい剣幕で怒り始めた思春期忍者

その様子にビビるちびっこたち…でも、うん、心配させちゃってゴメン




『傷も浅いし大丈夫だよ、勝手なことしてごめんね』

「でもっ…!」

「さ、さすけ…ふうまどのが、ナキどのを助けてくれたでござる…!」

「風魔?」

「……………」

「え……」




弁丸くんの声に振り返った佐助くんが見つめる先、やぁ、と軽く手を上げる風魔くんが立っていた

私に背を向ける体勢になった佐助くんの表情は見えない。対する風魔くんはちびっこたちと同様、彼にも名刺を手渡そうとする


それを…




バシィッ!!!





「っ、ち、近寄るなっ!!!」

「……………」

『あ、こ、こら佐助くんっ!!ごめん風魔くんっ』




差し出された手を思い切り払いのけ、その反動で名刺は地面を滑っていく

慌ててベンチから立ち上がれば右足が痛み尻餅をつくようにまた座ると、梵と竹千代くんが駆け寄ってきた


それでも佐助くんはまだ、風魔くんを睨んだままだ




『ちょっと佐助くん…!』

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「っ…………」

「……………」




しばらくして、肩をすくめた風魔くんが落とした名刺を拾い上げる

そしてどこからともなくペンを取り出し、その裏へサラサラと何かを書きなぐった。一通り書き終えた彼は名刺を地面に置き…背中を向けて去っていく




『風魔くんっ!!?』

「……………」

「さ、さすけぇ…」

『佐助くん!どうしたの急に、あの人は私の友達でっ…』

「…アイツ、関わらない方がいいよ」

『……はい?』

「よく分かんないけど…アイツには、近寄らない方がいい…絶対、…絶対に」

『……………』




風魔くんがいなくなってもまだ、佐助くんのトゲトゲした殺気は消えてくれなかった

それは彼と出会った時よりも鋭くて。怯えた梵と竹千代くんが抱きついてくる中、いつも一緒な弁丸くんは少し落ち込みながらも私に駆け寄ってくる





「ナキどの…これ…」

『あ……』

「ふうまどのが、おいて行った紙でござる」




そして差し出してきたのは、さっき風魔くんが地面に置いて帰った名刺

その裏には…携帯の番号が書かれていた




『風魔くん…』

「ナキさん、」

『っ…………』

「…頼むから、アイツには近寄らないでくれ、お願い」

『……………』




佐助くんが振り向く前に、私は名刺をポケットに押し込んだ












『…そもそも、風魔くんに電話してつながるのかな。今まで一度も声聞いたことないのに』

「おい、ナキ」

『佐助くんも忍の勘が疼いたみたいだしなぁ…でも人畜無害な風魔くんだもんなぁ…なぁ』

「ナキっ!!」

『浅井先輩はどう思います?』

「それよりも仕事机は食事をする場ではない…!」

『ういっす』




昼休み。風魔くんの名刺を眺めている最中、ふっと降りてきた影は浅井先輩だった

飲食禁止なデスクで昼食をとっていたので怒られてしまう。すみません。でも軽食です




「ん…な、なんだこれは」

『スナック菓子』

「これを昼食とは呼ばんっ!!佐助の手作り弁当はどうした?」

『実はご機嫌ナナメで作ってくれなくて…ただし堅物男子が作ることも許してくれないという』

「ふ、複雑だな思春期は。いったい何で怒らせた」

『男からの名刺です』




これ、と浅井先輩に風魔くんの名刺を渡す。それを一通り眺めた後、ううんと顔をしかめた浅井先輩




「北条酒造…ずいぶん老舗の男にナンパをされたんだな、ナキ」

『ナンパじゃないっす同級生です。電話番号もらったんですけど…かけるか否か…』

「貴様が男に電話をかけるか悩んでいる、その時点でかけると決めているのではないか」

『はい?』

「部長からのコールは取らないナキだ。それに比べると非常に好意的にその男を見ているのだろう?」

『うーん…』




浅井先輩から名刺を戻され、再びそれをかざしてみる。好意的…そりゃまぁ彼は、親友だ

今はパンツで隠してる足の怪我のお礼や、佐助くんの件の謝罪もできていない。彼が残してくれた連絡先をむげにはできないんだ




『…はい、そうですね。悩む時点で明智部長よりは優先順位上なんですから』

「ふふふ、呼びましたかナキさん?」

『お呼びじゃないです。よし、あっちも昼休みだろうからかけてみよう』




携帯を取り出し、名刺に書かれた番号を打ち込む

もしかして今日、初めて風魔くんの声を聞くことになるかもしれないねドキドキだ



プルルルルッ

プルルルルッ

プルルルルッ





「………………」

『あ…もしもし、風魔くんの携帯?私、小石だけど…』

「……………」

『もしもーし、風魔くん?風魔くーんっ』

「………………」

『…風魔くん?』




コンコンッ




『え……ぶはっ!!』

「うおおっ!!?」

「おやおや」

「………………」

『な、なななんでここにいるのかな風魔くんっ!!』




逆無言電話に痺れを切らし始めたその時、コンコンッと窓を叩く音がしてみんなで振り向く

すると窓ガラス越しに見えた風魔くんの姿。あ、今日はシャツだけちゃんと白だね…




『って、ここ何階だと思ってるのかなっ!!?』

「……………」

『え、開けてくれ?いやいやいや玄関から入ろうかっ!!』

「ぶ、部長っ!!」

「…仕方ありません、さすがの我が社も人命は大切ですから。開けてあげてください」

『ういっす』




上司の指示により、不法侵入者を窓から入れることとなった

急いで窓の鍵を外せば、ガラリと開いて何事もなかったように入ってくる風魔くん

やぁと手を上げて挨拶。もう片方の手には…通話中の携帯がある




『はぁ…電話に出ないならメールアドレスにしときなよ、書くなら』

「……………」

『その手があったか!て顔してももう遅いからね。他社にアポなし突撃とか無茶ぶりだからね』

「……………」

『い、いや、そんな落ち込まないでよ、たぶん大丈夫だからさ』

「………………」

『言っとくけど次はないからね。ほんと、君はこんな無茶が昔から好きだから…あはー』

「……………」










「あ、あの男が北条酒造の…!明智部長、奴はナキをナンパしたらしい」

「…危険ですね」

「いや、日々セクハラを繰り返す部長に比べれば、真っ正面からのナンパは正当性があるかと…」

「いえ、そうでなく…彼は少々、危うい男かと」

「は?」

「私の気のせいかもしれませんが。あまりナキさんに、近づけない方がいいかもしれません」




あくまで勘ですが、と後ろで部長が呟いたような気がしたけどハッキリ聞こえなかった


そして私はそれよりも、と自分の名刺を取り出しメールアドレスを書き記す

それを手渡せば風魔くんは、ありがとなっ!と親指を立てた






20150318.
後半


←prevbacknext→
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -