Σ-シグマ-2 | ナノ
キミの好みに染まりましょう


『ちょ、こらこらキヨ!そんなとこ登っちゃ危ないでしょっ』

「へへっ大丈夫!俺をなめんなよ、ナキっ」

『なめてないけど本当に危ないから!もし落ちてキヨの綺麗なお顔に傷がついたら私は悲しいよ』

「んー…りょーかいっ!!じゃあ降りるっ」

『よしよし良い子だねーキヨ、素直な子は大好きだよ』

「ナキは素直な男が好きなのか?」

『おぅふっ!!ビビった…いつの間に背後にいたんだい佐吉くん』




棚によじ登るキヨを抱えて降ろしていたその時、突然背後に現れた佐吉くんに思わず変な声をあげる

危うくキヨを落としかけた、ちょ、危ない危ない危ない…!




「え、ナキはすなおな男が好きなのか?……すなおって何?」

『うん、まずはそこからだねキヨ。そして、えっと、私の好きなタイプをどうして聞くのかな佐吉くん?』

「昨日、ナキの好みを教えてくれたら新しい書をやる…と柴田が言っていた」

『あの子はついにちびっ子を買収し始めたのか』

「私には必要ないが、最近ぎょうぶが暇している。だからナキの好みはなんだ?」

『あ゛ー…まぁ、うん、素直な子は可愛くて大好きだよ』

「なぁ、だから、すなおって何?」

『ほんとキヨは粘るよね、素直ってのは…佐吉くんみたいな子かなぁ』

「私?」




真っ直ぐで良い子だもんねっと佐吉くんの頭を撫でれば、俺は?俺は?ってキヨが腰に抱きついてくる

君も可愛いよ、ちょっと素直の方向がませてるけどね。キヨもよしよしと撫でている間も、私を見上げる佐吉くんはまだ首を傾げ続けていた










「ナキ、これが最後だ」

『よしきた!食器はこっちで洗うから、チビたちをお風呂入れてくれない?』

「ああ、分かった。おい竹千代!弁丸!風呂の準備するぞっ」

「「わーっ!!」」




居間に向かって片倉くんが声をかければ、バスタオルとパジャマを抱えた弁丸くんと竹千代くんが駆けてくる

きっと梵は後で弥三郎くんと入るだろう。あの子は最近、片倉くんとお風呂に入るのを嫌がり始めた




『ぶはっ、娘がパパとのお風呂を拒否するのと同じかな。梵もお年頃だしなぁ』




弥三郎くんや宗兵衛くんは年の割にしっかりしてるとして、そろそろ反抗期に入るのが梵たちチビっ子組だろう

梵は反抗期強そうかな、弁丸くんはまだ先っぽいし竹千代くんはむしろ反抗期きた方がいいよね我慢の子




『でも、一番想像つかないのが佐吉くんかなぁ…』

「私が何だ?」

『おぅふっ!!うわ、またいつの間に。君は忍者の才能があると思うよ佐吉くん』

「ん?忍者は佐助だ」

『うん、そうだねそうだけど…ところでどうしたのかな?』




やはり気配なく背後に現れた佐吉くんが、いつものように可愛らしく首を傾げながらこっちを見上げていた

しかし佐吉くんが台所にくるとは珍しい。いつもはこの時間、お風呂に入るまで刑部さんから離れないのに




『どうかした?私は食器片付けてから戻るけど…』

「手伝う」

『え、ほんと?嬉しい助かるよー………へ?』

「手伝うっ」




もう一度そう言った佐吉くんは、何枚も重ねられた食器を手に取りキュッと蛇口を捻る

見よう見まね、そんな言葉がよく似合う手つきでゴシゴシと洗うその姿を…私はしばらく眺めるしかできなかった














『佐吉くん、どうしたんだろ突然。誰かに何か言われたのかな…』

「おい、手伝いしただけでそんな心配するんじゃねぇ。佐吉が可哀想だろ」

『だって佐吉くん、今まで皿洗いとかしたことなかったんだぞ堅物男子!』




ようやく子供たちが眠った時間。居間で一人頭を抱える私に、片倉くんがどうしたと話しかけてくる

夕食後、佐吉くんが私の手伝いをしてくれた。それは嬉しいし必死な佐吉くんは可愛かったし万々歳なんだけど…




『確かに佐吉くんは落ち着いたいい子だけど、率先してお手伝いはしなかったでしょ?』

「まぁ…どちらかと言えばチビ共をまとめる役だったな」

『悔しいけど刑部さん大好きでさ、私の方に来るなんて有り得ない…ぐはっ、言ってて悲しくなってきた』

「自分で言ってちゃ世話ねぇな。だが確かに、何か心変わりの理由があるのか…」

『んー…その心当たりがなくてさ、困ってんの』

「…………キヨか」

『へ?』




顎に手を当て考える仕草をしていた片倉くんが、不意に呟いたのは最近やって来た末っ子の名前

キヨ?最近は佐吉くんに懐きすぎてずっと後ろをついて回ってるけど、あの子が何かしたのだろうか





「まぁ、あれだ。よく言うだろ?下ができりゃあ上が甘えだすってな」

『え…』

「最近お前がキヨを構い倒すからそれを見て、我慢できなかったのかもな」

『………………』

「佐吉もしっかりしてるがまだまだガキなんだ。母親代わりなナキがそうなりゃ納得でき…」

『っ………!』

「っ、ナキっ!?」




次の瞬間、突然膝から崩れ落ちた私。それを慌てて片倉くんが支える

思わず震える手を口元へ当てた。まさか、そんな、なんてことだ…!





『佐吉くんは天使かっ!!』

「………は?」

『なにそれ可愛いっ!!構って欲しいの?見て欲しいからお手伝いなの?そんなことしなくても十二分に可愛いのにねっ!!』

「…ほんと、ガキのことになると止まらねぇなテメェ」

『そっかそっか佐吉くんは構って欲しいのか。じゃあ明日は可愛い長男を構い倒そうかなっ』

「ああ、まぁ、そうしてやれ」

『あはーっ』




その日の夜、顔を合わせるみんなに「笑顔が気持ち悪い」と言われたが気にしない














『佐吉くん、佐吉くん、一緒に買い物行ってくれないかな?』

「買い物?」

『うん、買い物』

「買い物……分かった、行く」

『…あはー、ありがとう』




翌日。さっそく佐吉くんを買い物に誘ってみると少しだけ考えた後、首を縦に振ってくれた

彼が買い物に付き合ってくれるのも珍しい。嬉しくてやっぱりにやけが止まらない




『今日はまず、佐吉くんが行ってみたいところに行きたいんだけど…どこかある?』

「ない」

『うん、少しは悩んで欲しかったな…じゃあ、アイス屋さん行ってくれる?』

「あいす…ナキが好きな、あの冷たい甘味か?行くっ」

『よし決まり!じゃあこっそりひっそり忍者っぽく準備してね』

「???」




他の子にバレないように行こう。そう伝えて忍者の印っぽいポーズを決めれば、佐吉くんも疑問符を浮かべながらも真似してくれた

やっぱり君は天使だね












『おー、人がいっぱいだね。さすがは人気チェーン店』

「…人ごみは嫌いだ」

『ごめんね佐吉くん、テイクアウトして公園行こっか』

「……………」




隣でコクリと頷いた佐吉くんと共に行列に並ぶ。初めて二人きりで出かけた先は近所にできたばかりのアイス屋さん

休みの日だから家族連れや女子高生グループ、カップルまでたくさん…アイス屋デートなんてオシャレだね




『佐吉くんはどれ食べる?安全保証付きなバニラか、冒険してミントか、あ、期間限定ある』

「ナキはどれだ?」

『え、私?私はそうだなぁ…』




ガラス越しに並んだ色とりどりのアイスを眺め、指をさす佐吉くんと一緒に選んでいく

私の言葉を復唱するように、ばにら、みんと、ちょこと呟いてて…今日も今日とて可愛いな、くそっ




『私はイチゴにしようかな。甘酸っぱいやつ』

「甘酸っぱい…酸っぱい?」

『ん?平気平気、甘い方が強いから。佐吉くんはどうする?』

「……同じの」

『よし、じゃあイチゴ2つっ』




受け取ったアイスのカップを片手に、街中をぶらぶら食べ歩き

佐吉くんは食べ歩きが慣れないのか、立ち止まっては一口食べ、歩き出し、また立ち止まって食べる…うん、まずベンチを探そう




『どう、美味しい?』

「…よく解らん」

『そ、そっか…佐吉くんはほんと食事に興味がないんだね』

「それもよく解らん」

『…あはー、まぁいっか。これは美味しいよ、同じアイスだもんね』

「………………」




ようやく見つけたベンチに並んで腰掛け、残りのアイスを食べていく

本当に美味しいが解らないのか、味を確かめながら食べ進める彼…私が料理得意だったよかったのにね




『それなら佐吉くんに、美味しいをいっぱい教えられるのに』

「興味はない」

『あはー、ですよねー』

「だがこれで好みは覚えた。ナキはいちごが好きだっ」

『好みって…この前の話?』

「ああ」

『また勝家くんに教えてあげるの?次は佐吉くんが欲しいもの、もらえるといいね』

「違う、私が聞いたっ」

『………へ?』




その言葉に振り向けば佐吉くんは、コーンの部分をカリカリかじっているところだった

佐吉くんが聞いた…て、どういう意味?




「これで次からは、ナキに聞かずともナキの好きなあいすを選べる」

『あ、うんそうだね。でも佐吉くんが食べたいやつ選ばなきゃ…』

「私はいい。ナキはいつもキヨや竹千代や弁丸の好みに合わせている。だから私は、ナキの好みに合わせる」

『え…』

「私は私の好みが解らない。だからナキがいいと言うならそれがいい」




そう前を向いたまま答える佐吉くんに対する私は目を丸くした

まさか…佐吉くんは私に構って欲しいんじゃなくて、私を構っているつもりだったのか


あのお手伝いも、今日のデートも全部…それがなんだか恥ずかしいような、嬉しいような




『やっぱり君は天使だなぁ』

「ん?」

『んーん、なんでもない。でもどうして佐吉くんは、私に構ってくれるの?』

「それは…」

『うんうん、それは?』

「…ナキが、私を好きだから」

『うんうん………うん?』

「私がナキの好みだから」





…やっぱり君はよく 解らない





20150305.


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