抹茶
※もしも利休も逆トリしていたら
『り、りり利休さんっ!!』
「ぁあ?」
『お、お茶が…冷め、ます…』
「…ぶはっ!!御前、この状況で茶の心配か?安心しろ、己の茶なら冷めても旨い」
『ひぃいっ!!?』
千利休さんからお茶を教えてもらえる。喫茶店のマスター代理からしてみれば、まさに夢のようなお誘いだった
…だったのに私は今、キッチンで、何故か利休さんと壁の間にすっぽり納まっている
顔の両側には彼の腕があって、目の前には“髪をおろした”利休さんが迫っていた。逃がさないぞと笑う彼を前に、私は目のやり場に困って挙動不審になっている
「いいだろ、己の腕の中なんざ特等席だぜ?せっかく最高の席を準備してやったってのに」
『か、からかってるなら退いて、くださいっ…こんなのっ…!』
「はい喜んで…て退いてやると思うか?己が?いい加減、大人しく…」
『っ…………!』
ガンッ!!!!
『きゃあっ!!?』
「あ゛?」
「おいこら糞茶人がぁ?昼間っからぁ?なぁに猿みたいに盛ってんですかねぇ?」
「………チッ、」
ガンッと何かが蹴飛ばされた音に、目の前の利休さんがイライラしながら振り向く
ただ今の状況から考えれば願ってもない救世主!私も彼越しにそっちを見れば…!
ものすごく不機嫌な顔をした、又兵衛さんが立っていた
『又兵衛、さん…!』
「…おいこら狐ぇ」
『へ?』
「又兵衛さまがぁっ!?わざわざぁっ!?顔出してやったんですからぁっ!?茶ぐらい入れたらどうなんですかぁあっ!!?」
『ひぃっ!!?すみませんっ!!すみませんっ!!すみませんっ!!』
語尾を強めるのに合わせ、側の冷蔵庫をガンガン蹴飛ばす又兵衛さんっ!!
彼の手にはお気に入りの紅茶があって今すぐ準備しますっ!!…と動きたいのはやまやまなんだけど、忘れちゃいけない。私は今、利休さんに捕まっているんだ
「あ゛?さっさと退いたらどうですかそれともアレですかぁ?猿の茶人に人間様の言葉は通じませんかねぇ」
「だったら一緒にキィキィ鳴いてみるか?お似合いだと思うぜ、糞みたいな御前にはよっ」
「ぁあ゛っ!!?」
「やんのか?」
『け、けけ喧嘩はダメです又兵衛さんっ!!利休さんっ!!』
いつでも誰にでも喧嘩腰な二人。そんな二人が私を挟んで口喧嘩を始めたから大変です、いえ、挟まないでください…!
「狐が嫌がってるじゃあないですか、さっさと放せよ木偶のくせによぉ」
「はっ、どっちが木偶だか。御前こそその面じゃ此奴を怖がらせるだけだろ。ほら見ろ泣いてるぜ」
『い、いえこれは今の状況に対してで…!』
「ぁあ゛っ!!?」
『ひぃいぃいっ!!!!?』
「ほらなっ」
「あ゛っ!!おい木偶っ!!狐にベタベタベタベタ触りすぎだバァカっ!!」
「触るぐらいでいちいちうるせぇな、あとワビ助も黙ってろバァカ」
『ワビ助くん止めてくださいっ!!あと又兵衛さん痛いですっ!!首っ!!首締まります…!』
私を掴んで引っ張り合いっこに発展した二人。利休さんのもう1人、ワビ助くんが内側から何か言ってくれてるみたいだけど効果なし!
バァカバァカと罵り合って、端から見れば子供の喧嘩。ムキになるばかりで肝心の決着はつかない
私はただ、お茶を、飲みたかっただけで…!
『ぅ、うぇっ…!ひっく、ぅ…!』
「げっ!!?」
「おい…そんなに泣くことねぇだろ」
『っ、う、だっ、てぇっ…!ひっ…!』
「ばっ…か狐ぇっ!!お前が泣くと絶対にアイツがっ…!」
カランカランカランッ!!!
「呼んだか朋よっ!!」
「げげっ!!?」
「あ゛ー…」
『マスターっ!!!』
「甘露の涙を拭うため、地球の裏側より帰り参じたっ!!」
勢いよく開いた扉の向こう、涙で歪む視界に飛び込んできたマスターの影
いつも通りの突然の帰省だけど…今回は本当に、私のピンチに駆けつけてくれたらしい
ニッコリと微笑むマスターの手には、今日のお土産が握られている
「さて…覚悟はいいか、朋よ」
二人が固まってるその内に、私はキッチンからこっそり逃げ出した
20150905.
もしも利休も逆トリしてたら
口が悪いっ!!煽るスタイルのっ!!又兵衛様とサビ助のっ!!絡みが欲しいっ!!
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