運命の輪番外編 | ナノ

  ミルク


「ふぅ…やはりまだまだ寒いな。こんな日は柴田屋から結の店までが遠く感じる」

「結に温かい飲み物を入れてもらえばいい。端から結が目的で店に行くのだろう?」

「か、勝家……否定はできないが、そうからかわないでくれ」

「何を今更。気づいていないのは本人だけ…ああ、店についた」

「それはそうだが、ワシはそのような邪な思いだけで店に向かうわけではっ…」



カランカランッ




『あ…いらっしゃい家康くんっ』

「・・・・・・」




カランカランッ!!!




「…徳川氏、なぜ扉を閉めた」

「………勝家、ワシを殴ってくれないか」

「…………は?」




冬相応の世間話をしながら結の店までやってきたワシと勝家

いつものように鐘を鳴らしながら扉を開いたが…出迎えた結を見て、すぐに閉める。そして地面にしゃがみ込み殴ってくれなんてお願いをしてしまった




「どうした徳川氏、結を思い過ぎついにおかしくなったか」

「あ、ああ…そうかもしれない。ワシはおかしくなった、だからあんな幻を…!」

「…よく解らないが私も寒い、早く入ろう」

「ま、待て勝家っ!!」




カランカランッ




『か、勝家くん、家康くんどうかしたの?えっと、あの…』

「・・・・・・」




カランカランッ!!!





「…すまない徳川氏、あれは現だ」

「勝家にも見えたかっ!!ワシらがおかしくなったのか、それともまさか結が何かに憑かれっ…!」

「いや、落ち着いてくれ。私たちが殴るべき相手は検討がついている」

「え?」




そう言った勝家はおもむろに、花壇に立て掛けていた箒を手に取る

そして再度、店の扉に手をかけた




カランカランッ!!!




「成敗っ!!!」

「ぐあっ!!!!?」

『政宗くーんっ!!?』




カランカランと音を鳴らして開いた先へ勝家が踏み込み、堂々と椅子に座る元凶…独眼竜の頭目掛けて箒を振り落としたっ!!

それは見事に命中。慌てて駆け寄る結を後目に勝家は…蔑んだ目で、倒れた男を見下ろしている




「いってぇ…!いきなり何しやがる勝家っ!!」

「それはこちらの台詞…結に何をさせている」

「Ah?何って…先輩によく似合ってるだろ?」





猫耳メイド、


そう胸を張る独眼竜に、再び箒を振り切った
















『今日は猫の日だから、政宗くんが持ってきてくれたの。これ、オモチャの耳だよ』

「猫?どうして今日が…」

『えっと、日付を並べると、にゃんにゃんにゃんっ…だから?』

「っ…………!」

「徳川氏…顔を赤くしないでくれ」

「よう家康、気に入ったか?先輩の可愛さを熟知したオレが選んだメイド服だぜ!」

「め、めいど…?」

「つまり伊達氏がいかがわしい目的で、結に給仕させているんだ」

「独眼竜…」

「んな目的じゃねぇよっ!!つか家康ちゃんと見ろっ!!すっげぇ可愛いだろっ!!?」

「そ、それは…まぁ…」

『ぅうっ…!』




恥ずかしそうに顔を背ける結の頭には、猫耳…と呼ばれる通りまさに猫のような飾りがついていた

そして普段の着物とは異なる白と黒の衣装。丈の短いそれは歩くたびにふわりと揺れ…独眼竜が胸を張るのもよく分かる。結にとても似合っていた




『せっかくだから、今日はこれでお店開こうかなって』

「結…伊達氏の遊びに付き合ってやる必要はない。その格好はあまりにも合理性に欠ける」

「なに言ってんだ勝家、見てろよ…ほら先輩、さっき教えたのやってみろって」

『え…う、うん……にゃ、にゃあっ』

「ぐはっ!!?」

「いや、なんで家康が倒れんだよ」

『ひぃっ!!?ご、ごめんなさい家康くんっ!!ごめんなさいっ!!』

「結も、謝るくらいなら流されるな…」




ギュッと握った手を顔の横に持っていき、にゃあっと猫の真似をする結にワシの何かが折られた

猫の日、と言っていたがなんて恐ろしい日だ…!半泣きで謝る結の後ろにしっぽも見えて…ああ、やはり恐ろしい




「だいたい、そこまで恥じるならば何故、伊達氏の口車に乗せられた」

『わ、私も、恥ずかしいから嫌だって、最初は言ってたん、だけど…でも…』

「でも?」

『…絶対に似合うから、一回だけ着てみてって……左近くんが』

「・・・・・・」




ビュンッ!!!




「うっお危ねぇっ!!ちょ、待て勝家っ!!店で箒振り回すのまじ危ないからっ!!」

「左近…お前は毎回何故、こうも問題を起こそうとする…」

「チッ…見つかったか、左近の奴」




傍らに置いていた箒を手に勝家が店の奥へ向かえば…そこに隠れていた左近を引っ張り出してきた

ああ、そうか左近も一枚噛んでいたのか。それなら結も断りきれないだろう




「いや俺は催促してないっ!!むしろせっかくなら狐の方が良かったって止めた方だしっ!!」

「それを止めたとは言わない。結はお前たちの玩具ではないのだ、早急に着替えさせろ」

「そう言っちゃってー、勝家も今の結ちゃん見て可愛いとか思っただろ?」

「…普段と変わりないと思うが?」

「え、むしろそれおかしくね?」

「止めとけ、勝家は昔からそんなだ。アンタはどうだ家康?今の先輩もキュートだろ?」

「っ…あ、いや、そのっ…!」




独眼竜に話を振られ慌てると、側にいた結もワシの顔を覗き込んでくる

めいど服…という聞けば聞くほど何故か背徳的な気持ちになる言葉、いや、とにかく何か言わなければ


ああ、そういえば今日は髪を結んでいてそれも可愛いとか、座ると丈の短い着物が少し捲れて目のやり場に困るだとか、感想を考えれば考えるほど自分の顔が真っ赤になっていくのが解り…!




「も、もちろん、に、似合ってる!と、ても可愛いと、思うっ…うん!」

『あ…ありがとう、家康くんっ』

「ほら勝家もあれくらい言えばいいじゃんっ」

「黙れ左近…徳川氏もそう言わないでくれ、本当にその格好で店に出すつもりか?」

「いいじゃねぇか、たまにはイベントした方が客寄せになんだろ?先輩だってなんだかんだノリノリだし、なぁ?」

『そ、そんなこと…ない……こともないかも…』

「お、まじまじ?じゃあさ、今日は俺が結ちゃんのご主人様ってどう?」

『ひいっ!!?』

「その知識をどこで得たんだお前は」

「え?将軍さんの部屋」




将軍さん…とは、ますたぁのことか?顔を見合わせたワシと独眼竜に、勝家は頭に手を当てため息をついた

忘れていた、と苦しげに呟く。ま、まさか…!




「…彼がこんなイベントを、逃すはずがない」

「だ、だろうな…」




カランカランッ!!!






「やぁやぁ帰ったぞ甘露っ!!」

『ひいっ!!?』





勢いよく鳴った鐘の音に振り向けば、まだまだ冷たい風を吹き込ませながら扉を開く大柄な男が仁王立ち

その頭には不釣り合いな猫耳が乗っている…が誰一人として笑える状況ではない




「今日は猫の日、という楽しげな日だな甘露!甘露はいつも愛らしいが、猫耳甘露の可愛さは想像の域をはるかに越えてしまうっ」

『っ…………!』




結が慌てて頭を押さえ、猫耳を隠すがもう遅い





「ところで……予の可愛い甘露に、何をさせているのかな?」





ああ、詰んだ






20150222.
にゃんにゃんにゃん

もはや男子組がやらかす→マスター帰還までがデフォルトです((

年下組は書いてて楽しいです^^

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