運命の輪番外編 | ナノ

  玉露


『あ…チカチカしてる』



朝のモーニングラッシュが済み、政宗くんが大学へ出た頃

テーブルを拭いていた私は一角の蛍光灯が点滅していることに気付いた


交換しなきゃ、そう思った私は物置から脚立を引っ張り出し、点滅する蛍光灯の真下へ。そして、まずは古い物を取り外そうと手を伸ばした





「ん?おい狐、何をしている?」

『あ、おはようございます三成さん。ちょっと蛍光灯の交換を…』

「気をつけろ、いくら低いとはいえ貴様ならば落ちかねない」

『大丈夫ですよ、慣れたものですし―……っ、きゃあっ!!!?』

「!?!?!?」




三成さんに声をかけられたその時、私は案の定バランスを崩してしまった!

傾く脚立、落ちる、そう思い床へ叩きつけられる衝撃を覚悟する、しかし…!






「ぐっ―…!!?」

『っ……え?』




聞こえたのは衝撃音でなく男の低い呻き声

そして私が落ちたのは冷たい床じゃない。私を庇うように、間に入ってくれた…三成さんの上だった




『み、三成さん…?』

「っ……き…!」

『え?』

「き、さまぁあぁあぁあっ!!!!言ったそばからこれかっ!!?気をつけろっ!!!」

『ひぃいっ!!!?すみませんっ!!すみませんっ!!すみませんっ!!!』




つんざく怒鳴り声と共に起き上がる三成さんに、私は急いで飛び退き謝罪した!

すみません、すみません、重いのに乗っちゃってすみません、怪我はありませんか、ごめんなさい!




「貴様が重い重くないではないっ!!私でなければ床に叩きつけられていたのだぞっ!!」

『っ、あ…ご、ごめんなさい…!』

「ただでさえ貴様は危なっかしいというのに…!大怪我になっていたらどうするつもりだっ!!?」

『ご、め、なさ、っ、ごめんなさいっ…!ぅうっ、』

「っ、お、おい!無事だったのに泣くな!まるで私がっ…!」

「ぁあー、石田の野郎が狐を泣かせてるー」

「っ!!!!?」

『ぇ、…?』




いーけなーいんだーっと間延びした声に振り向けば、そこには、こっちを指差して笑う又兵衛さん

そして、いかにも怒ってるぞ!という風に仁王立つ官兵衛さんの姿が……あ゛




「おい、三成っ!!まぁた結をいじめてんのかっ!!?」

「っ、いじめてなどいないっ!!勝手なことを言うな貴様らっ!!言ってやれ狐っ!!」

『ひいっ!!?ぞ、です、わたし、い、ぅう…!いじめ゛ら、られて、なっ、』

「…泣きすぎて喋れてないじゃあないですか、こいつ」

「ほら、大丈夫だ結!よしよし、怖かったなっ」

「ぐっ…!もう知らんっ!!」

『っ!!!?あ、み、三成さっ…!』




そう怒鳴った三成さんは官兵衛さん、そして又兵衛さんを押し退け…店の外に飛び出してしまった

グズグズ泣く私は彼を引き止めることができなくて、ああ、どうしよう




『ち、違うん、です、ただ、…』

「ん?」

『ぅう゛…!っ、三成さんは優しいだけなんですぅうぅうっ!!!』

「うおっ!!?」

「ぁあ?」





三成さんはとても、

勘違いされやすいようです










『お…おはようございます、三成さ―…!』

「…………」

『ひぃいっ!!?すみません!安眠をお邪魔してすみませんっ!!』

「…起きている」

『す、すみません…』




そんな勘違い事件があった数日後。いつものように豊臣の皆さんを起こしていたが、不機嫌な三成さんに朝から盛大な土下座を向けてしまう

…あの日から少しだけぎこちない私たち。官兵衛さんと又兵衛さんには説明したけれど、三成さんへの勘違いはあれだけじゃなかった


ある時は吉継さんが、またある時は半兵衛さんが、半泣きな私を見て三成さんを探し始め注意をする

一番ショックだったのは私と三成さんが話しているだけで、隣を通り過ぎた秀吉様が「あまり虐めるなよ」と声をかけてきたこと


違うんです、私が直ぐに泣いてしまうだけなんです。三成さんは、何も、むしろ…!




『っ…う、ぅう…!』

「っ!!!!?な、何故、私の顔を見ただけで泣くっ!!恐ろしいならば、家康や左近のもとへ逃げれば―…!」

『ぢ、違うん、です、三成さんが優しいからぁあぁあっ…!』

「もう一度言う、それならば何故泣くっ!!?」



ワンワンと泣き始めた私を見て、意味が解らないながらも焦る三成さん

グズグズと鼻をすする私にイライラと頭を掻きながらも…短気な彼は、私が泣き止むのを待ってはくれない




「いい加減にしろっ!!!言いたいことがあるならはっきり言えっ!!ただし一言でだっ!!!」

『ひぃっ!!?っ、ぁ、あ…!』

「…………」

『ありがとう、ございます…!』

「……は?」




…一番、言わなきゃいけないことを言えていなかった

助けてくれてありがとうございました、その一言に拍子抜けしたらしい三成さんは数秒固まった後に…はぁあぁと深いため息、す、すみません…




「そんなことか…」

『そんなことじゃないですよ…あの時は、泣いて、ばっかりで…』

「貴様に礼を言われるために動いたわけではない。それに半兵衛様や秀吉様もああは言うが…貴様が直ぐに泣くのは皆が承知だ」

『ご、ごめんなさい…』

「……………」




涙は止まったが未だに鼻を鳴らす私。そんな私に彼は言う




「だから私は…優しくなどない」

『え…や、優しいです!だって三成さんは言葉は乱暴ですけど、私のために言ってくれて、』

「誰が貴様のためなどと言った…ならば左近や家康はどうなる」

『みんな、優しいです。でもやっぱり、優しいを表に出さない三成さんも優しいですっ』

「…………」

『………?』




私がそう答えると、彼はじっと布団の端を見つめながら「そうか…」と一言

あれ、どうしたんだろ三成さん…あ、もしかして、




『三成さん…もしかして照れ…』

「・・・・・」

『ひぃいっ!!!?す、すみません!すみません!ごめんなさい!そんなわけないですよねっ!!』

「当たり前だっ!!!」

『ひいっ!!?』

「っ―…ふんっ…!」




せっかく退いていた涙が再び溢れ出せば、三成さんはバツが悪そうに視線をそらしてしまう

けど今度は私が泣き止むまで、彼はずっと待ち続けてくれていた





20140930.
三成祭り

ツンギレ属性デレ仕様

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