運命の輪 | ナノ

  雷鳴を生み出そう


 

『…ふふっ、』

「先輩、今日はずいぶんとご機嫌だな」

『ん…そう?いつも通りだよ政宗くんっ』

「いいや機嫌が良い。オレの目は誤魔化せねぇ、なんせオレだからなっ!」

『ふふふっ理由になってないよ。でも、ご機嫌かぁ…うん、そうかもっ』

「……………」




細めた目でオレを見る先輩が、ころころと楽しげに笑った


今日の先輩は…いや、最近の先輩はずいぶんと明るくなったと思う

昔よりずっと大人っぽいのに、その表情は昔に戻ったようで。勝家と一緒にオレをからかっていた、あの先輩の顔だ



先輩にそんな顔をさせているのは…



カランカランッ




「結ーっ!!…とついでに独眼竜じゃん、ちーっす」

「テメェ島左近、ずいぶんな挨拶だな」

「はあ?挨拶してやったのに返事もできない竜王さまに言われてもなーっ」

「こら二人とも、顔を合わせたら喧嘩か?結が困るだろう、すまないな結、」

『家康くん!左近くん!大丈夫、いつものことだもんね』

「あ、結酷いっ!!いつもじゃねぇって!独眼竜と家康にしか喧嘩売ってねぇし!」

「それをいつも通り、と言っているんだ左近…」

「お、アンタもやんのか家康!三成様に言いつけてやるっ!!」

「ほう…私が何だと?」

「げげっ!!?」

「Oh…」




豪快に鐘を鳴らし、店に入って来た左近。その後ろに続く家康と、いつも通りの口論を始めた

それに加わるのはずっと店内にいた石田。途端に左近の顔色が変わり、苦笑した家康が仲裁に入る


そして…




『あははっ』




それを見た先輩が、また笑っていた












「アンタたちが、先輩を元に戻したんだな」

「は?」

「勝家でもマスターでもねぇ、アンタたちだった。あんな風に笑う先輩をオレは久々に見る」

「先輩…結のことか。私ではない、アレは左近と家康の仕業だ」

「なんだ自覚ねぇのか?最近じゃ先輩は、アンタも怖がらなくなってるぜ」

「……………」




厨房で菓子を焼いている先輩、その隣にいるのは竹中と後藤 

店の隅には大谷が静かに座っていて、店の前では豊臣と黒田のオッサンが屋根を修理している

そしてカウンターには石田。話しかければ不快な顔をされちまったが…まあ聞けよ、ただの礼だ




「初めて会った頃、アンタは先輩を泣かせてばかりだったからな」

「…今でも稀に泣く」

「いつも…が稀になった。十分じゃねぇか、毎日泣くよりずっと良い」

「ああ、」

「これが狙いだったなら、マスターの海外逃亡も間違いじゃ無かったかもな」




厨房から騒がしい声がする、どうやら竹中が何かを焦がしたらしい

大慌てな後藤と、それを見てやっぱり笑う先輩。眩しい、なんてありきたりな感想だがその一言につきる




「先輩だけじゃねぇ、勝家も少しだが表情が解けたし…何より先輩との関係が改善した気がする」

「……………」

「…オレは、オレさえ変わればいいと思っていた」




オレが先輩や勝家を守れる男になれば、もう昔のような事にはならない

傷つく奴も、泣く奴もいなくなる。先輩が変わる必要はない…その思いでこの店に、先輩のいる町に戻ってきたはずだったのに




「結局、変われてないのはオレの方だった。先輩と勝家は、数年経った今もオレの先を行く」

「…では、貴様はどうするつもりだ」

「っ…………」

「伊達政宗という男が、私に弱音だけを吐くとは思わん。貴様は今から、どうするつもりだ」

「アンタ…分かってるじゃねぇか!ああ、そうだ、もちろんさっ」




オレと“アイツ”だけが、取り残されるわけにはいかない

次は、“オレたち”の番だ





「オレはオレにできることをするさ、」























「よう、先輩の店の開店日以来だな」

「……………」

「護衛様はいねぇな。いないって事は職務怠慢だが…まぁ、オレとしては都合が良い」

「…何のご用?」

「HA!相変わらずオレには素っ気ないな……市、」




その日の夜。小さな町の外れにあるホテル…に一番近い公園に、オレは“幼なじみ”を呼び出した

昔と変わらない暗い表情。オレを警戒してか一定の距離を置き、身を守るように両腕を胸の前で組む女


…かつて先輩が焦がれた長い黒髪を揺らし、市はオレを静かに睨む




「市は、あなたとお話しすることはないの…早く帰らなくちゃ、兄様が怒ってしまう…」

「長引かせはしねぇ、今日はアンタに招待状を持ってきたんだ」

「招待状…?」

「ああ、」




ポケットから取り出したソレには、少しだがシワが入っていた

真っ白な何の変哲もない封筒。だがそれを見た市は、初めこそ訝しげな顔をしていたが…




「っ……!?」




次第に、その表情を強ばらせていく。目を見開き、唇を震わせ、今にも叫びだしそうな顔

そいつにオレは招待状を押し付けた。だってコレは…




「…市の、誕生日会を開く」

「!!!?」

「あの日…先輩がアンタと間違われ、誘拐された。そのせいで中止になった誕生日会をやり直すんだ」




オレたちが袂を分かつきっかけになった誘拐事件。その後、止まったオレたちの時間。それを再び動かしたい

そのためにお前はどうする、と石田に問われた時。オレが浮かべた答えがコレだ



「あの日をやり直す。先輩と勝家は戻れた、残るはオレとアンタだ」

「っ…い、や…市はもう、結とはっ…」

「…先輩は、誕生日会を了承してくれた。勝家もだ」

「っ…!?」

「主賓がいなきゃ始まらねぇだろ?だから来い、もちろん、アンタがあの日を忘れたがっているのは知ってるが…」

「だったらもうっ…!」

「これがあの日、アンタを引き止めたオレの責任だ」

「っ…………」

「そして…勝家と一緒に店を飛び出せなかった、オレの償いだ」





あの日、先輩は市の代わりに誘拐された。その先輩を救おうと駆けつけた勝家は、大人の暴力により傷ついた

そんな二人をオレは助けられなかった。それについて誰もオレを咎めやしないのに、どうすれば償えるのかばかり考えていた四年間




「…結局、最近になって償いきれないと分かっただけだがな」

「そんな…あれは…市が…」

「そう思うなら、この招待状を受け取ってくれ。四年前を無かったことにはできねぇが…」

「……………」

「やり直しはできるんだ。それは、オレとアンタの役目だろう?」



オレたちならできるさ、

いつも先を歩く先輩と勝家を…ずっと後ろから見ていたのはオレたちなんだからな




20181125.

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