運命の輪 | ナノ

  心は迷い子


「結ちゃんっ!!これ、蝶々の君に渡してくださいっ」

『わぁ綺麗なお花…蝶々の君?』

「はい!いつもお店の隅っこにいる、包帯の殿方ですっ」

『お店の隅っこ…あ、吉継さんのことかな?』




学校帰りだろうか制服姿の姫ちゃんが、綺麗な花束を抱えて店までやってきた

また宵闇の羽さんの話かなと思ったけど、なんでもこれは吉継さんへのプレゼントらしい。あれ、二人に接点はあったかな?




「実は実はこの前!恋の相談に乗ってもらったんです!」

『え、吉継さんが恋のっ!?』

「はい!毎朝日の出に合わせ道の真ん中で三回回ってワンと言えばよいヒヒヒッ、とアドバイスを頂きました!」

『それ本当にアドバイスなのっ!?しかも姫ちゃんやったんだ…』

「そしたらそしたらジャーンッ!!宵闇の羽の方とツーショットが撮れましたっ」

『ええっ!!?』




頬を染めた姫ちゃんが差し出したスマホ。そこには可愛く自撮りを決める彼女と背後でブレる黒い影

これが宵闇の羽の方?




「蝶々の君のアドバイスのおかげです!なのでぜひ、お礼を伝えたくて!」

『ほ、ほんとに吉継さん効果なのかな…本当だったらすごいけど』

「他にも可愛らしいっとか、将来はいいお嫁さんになるっとか言ってもらえて、えへっ」

『へぇ…』

「せっかくそんな人が常連さんなんですから!結ちゃんも一度、お悩み相談してみてくださいっ」

『………………』















『…という話を聞いたので』

「そんなこともあったような、なかったような…ヒヒッ、こちらの世の巫もずいぶんと騙され易い」

『やっぱりからかったんですね…!でも姫ちゃんは喜んでましたよ、蝶々の君のおかげですって』

「蝶々…」

『こんなに可愛いお花もくれましたっ』




姫ちゃんが帰った後、二階からふよふよとやってきた吉継さんにさっきまでの話をする

お花は彼がいつも座る、外が見えるカウンターに飾った。それを眺めてまたヒヒヒッと笑う




「ではこの店を間借りし、小さな相談所でも開いてみるか。御狐殿が第一の客よ」

『あ…じゃあ吉継さん、私の恋はどうなりますか?』

「ぬしの恋…ヒ、ヒヒッ!!もちろんよき色よき風よ!どう転ぼうとも明るいわ」

『あは、嬉しいです!吉継さんが言う巡り合わせ、楽しみですねっ』

「それはもう我らが御狐殿ゆえなぁ。その愛らしさに引く手は数多。選り取り見取りよ羨まし、ウラヤマシ」

『ふふふっ、吉継さん、ほんと口が上手いですよねっ』

「……ヒッ、われの舌は幾重にも重なっておるゆえ」




ぺろりと出された彼の舌は、やっぱりどう見ても一枚でした















「…お前さん、ほんと損な性分だな。だが小生は自業自得って呼んでやる!」

「はてさて何の話か」

「見てたぞさっきの!御狐様口説こうとしたのに空振ったなざまぁみろ!」

「口説く?ヒヒヒッ!!何を言う、先の巫と同じよ同じ。ただの口先の戯れと、御狐殿も気づいていたではないか」




あの後、店に降りてきた左近と共に買い出しへ出た御狐殿。それを見計らったように現れた暗は、相も変わらず面倒な話を繰り出してくる

われの隣へと腰掛け気味悪く笑いながら話題は先ほどの戯れ。いったい何のことやら




「それだそれ!本気で言っても相手にしてもらえてないんだろ、ぷぷっ」

「存在そのものが冗談なぬしが何を言う」

「どういう意味だっ!!?」

「ヒヒヒッ、われがいつ、御狐殿へ本音をぶつけた?いや騙しはせぬがな、むしろそれこそ御狐殿の十八番よ」

「小生も初めはそう思ったさ、だがなぁ…刑部、お前さんもそれなりに御狐殿のこと気に入ってるだろ?」

「………………」

「お、図星か?図星か?小生の目もなかなか騙せんだろっ!!その他人を騙くらかそうとしてるとこが原因だなっ」

「黙らぬか暗、われをぬしと一緒にするな。ぬしとて御狐殿との仲は“いいひと”止まりではないか」

「ぐっ……!」

「ヒーッヒヒッ!!図星かズボシ、いい年の男が小娘に色気づきよって」

「そんなんじゃあねぇよっ!!小生は、別にだなぁ…!」




そう言って頭をガリガリと掻く大男は、いくつか思い当たる節がある様子。これは愉快、とわれは思わず目を細める

そうよ、御狐殿が徳川の次に懐いたはこの暗。贄と呼ばれながらも三成や後藤から御狐殿を守っていた


それが今、行き場を失いさ迷っている





「…いや、いいんだ。結が三成や半兵衛…又兵衛と仲良くできてるってんなら、それが一番いい」

「ほう、やはり年か。徳川と違い己の立場をわきまえておる」

「ああ?なんだよ、わきまえるって!小生や権現のなにが悪い!」

「御狐殿は、一人では何一つも決められぬ。泣かせようとも三成や後藤の荒療治がよかろ」

「んなもん、泣かせず、笑わせてやりゃあ一番じゃあないか」

「現に今、御狐殿の泣く頻度はガクリと減った」

「っ…………」

「ヒッ…ヒヒヒッ!!伊達や帝含め、周囲は御狐殿を愛らし可愛らしと愛でるばかり。それが見よ、あれは叩けば応える」




それをいち早く見抜いたは三成か、それとも後藤…いやその場合は賢人か。とにもかくにも御狐殿を変えたのはそれ

暗が怪訝に顔を歪めようと揺るぎはせぬ。暗、ぬしはあれに何かをしてやっていたつもりか




「うっ…るさい!分かってんだそんなことは!そんで、いいことなんだ…」

「………………」

「はぁぁ…御狐様は最近かまってくれないし…正直つまらんのも、事実だ分かってんだ…」

「ヒヒッ、ぬしも日の出と共に道の真ん中で三回回ってワンと言うてみるか?御狐殿と進展があるかもしれぬ」

「何じゃそりゃ」

「恋の呪いよ。効果はこちらの巫が実証してみせた」




さぁどうすると問いかければ、ふざけんなっとそのままうつ伏せる暗。不貞寝か、まるでガキよな





「…望みなんざ抱いてないが、やっぱり、御狐様には三成や左近みたいな野郎が似合うのかねぇ」

「そうよなぁ、ぬしのように卑屈で幸の薄そうな男、など…」

「…刑部?」

「ぬしのような、男など…」




これはまるで…






「御狐殿には、似合わぬわ」





まるで自分に呟くように






20150727.

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