運命の輪 | ナノ

  竜王と凪


『…政宗くん、行っちゃうんだね、寂しい…』

「………うん、」

『でも、また戻ってきてくれるよね?私も、勝家くんも、あの子も待ってる』

「…もう、会えない」

『え……』

「っ―…次に会うオレは、今のオレじゃねぇから!ずっと強い男になってやるんだ!」

『政宗くん…』

「違うオレになって帰るっ…アイツも、勝家も、オレが守るしっ…もう絶対に…!」






先輩を、泣かせたりしないから










「先輩っ!!」

『ま、政宗くん?ほんとに政宗くんなのっ!?日本に戻ったんだね!いつぶりかなっ』

「オレがアッチに行ってからだから4年ぶりだ。そりゃ成長期だからな、背も伸びるさ」

『ううん、それにしてもだよ!突然すぎる、言ってくれたらよかったのに』



互いに駆け寄り再会を喜ぶ私たち。政宗くんは数年前にご両親と外国へ渡った、私と勝家くんの幼馴染みだ

私より一つ下、勝家くんより一つ上の政宗くん。たまに手紙のやり取りはしてたけど、まさかまた会えるなんて




「Ah?おかしいな…手紙、届いてないのか?」

『手紙………あ゛』




そう言えば勝家くんが私宛のエアメールを持ってきてくれたような

いろいろあって忘れてたけど、あれは政宗くんからだったんだ!




「勝家の家に行ったら行ったで、先輩が一人暮らし始めたとか言うしな…あのオッサン、いい加減過ぎんだろ」

『マスターは昔からだし…ごめんね政宗くん、何も言ってなくて』

「いや、いいさ。オレもろくに連絡とってなかったしな。だが約束通りオレは変わって、先輩の所に帰ってきたぜ」

『政宗くん…』

「おう、いい雰囲気なとこ悪いが小生もいることを忘れんでくれ」

『…………あ』

「…誰だ、オッサン」

「オッサン!!?はじめから結と一緒にいただろっ!!」

「先輩しか眼中になかった」

「〜〜っ!!このガキ…!」

『落ち着いてください官兵衛さん!すみません!すみません!』




半切れな官兵衛さんをワーッと止めるけど、対する政宗くんは悪びれる様子もなくしれっとしてる

昔は喧嘩するような子じゃなかったのにな、外国で過ごした影響なのかなどうしよう



『た、立ち話もなんだし政宗くん、中に入らない?』

「そうだな…久々に先輩のいれたコーヒーでももらうか」

『あは、昔よりは美味しくなったよ。マスターのお墨付きだしね』

「そりゃあ楽しみだ」




クツリと笑った政宗くんは、久々に見るからか成長したからか…照れてしまうほどカッコ良かった









「相変わらず、マスターの趣味の下手物が飾ってあんだな」

『マスターは収集癖があるから。昔は政宗くん、マスターがお土産でくれた外国のお面を見て泣いてたよね』

「ありゃ勝家と先輩が暗闇から突然飛び出したからだろ。今でも普通にビビる」

『あは、大泣きだったじゃない。飾ってたアンティークの人形も怖がって、わざわざ壁を向かせたり』

「見てない間に勝家が全部オレに向け直してな。あれは本気で夢に出たぜ」

「なんだ、ガキの頃は弱虫だったのかお前さん」

「…オッサン、扉にあったCloseが読めなかったのか?しつこい客は帰れよ」

「南蛮語は解らんが、小生は御狐様の護衛なんでな。お前さんと二人きりにさせるのは危険だと判断した!」

「Ah?なんだテメェ、先輩のストーカーか?」

『ま、政宗くん!』



物凄く悪い目付きで官兵衛さんを睨む政宗くん。大人の余裕でニヤニヤとおちょくる官兵衛さん

店のカウンターで私を間にして座り、そんなやり取りをする二人。やめてください




『き、昨日から同居中とか政宗くんには言えないよね…あは、は』

「なぁ先輩、」

『っ、な、なに政宗くん!』

「ここに来る前に勝家から聞いた。厄介事にアンタが巻き込まれてるってな…このオッサンか?」

「オッサン言うな!小生には黒田官兵衛って名前があるんだよ!」

「…黒田のオッサンが厄介事か?」

「オッサンは外せ!」

『ち、違うよ政宗くん!官兵衛さんは優しくしてくれて、私を助けてくれてるのっ』




だったら何だ、オレに言ってくれ

そう私を真っ直ぐに見つめる政宗くん…ああ違うの、気にしないで

どう誤魔化そうかと頭を働かせていると突然、奥の方からバタバタと足音が近づいてきた


あ……嫌な予感





ガチャンッ!!!




「狐っ!!じゃぐちとやらを捻れば熱湯が出たではないかっ何だあれはっ!?」

『み、三成さんっ!?いえ、それは間違えてお湯を出しちゃっただけで…!』

「貴様の妖術かっ!!?私でなく半兵衛様や刑部が火傷でもしたらどうするつもり……ん?」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」





・・・・・・。






「伊達政宗ぇえぇえぇっ!!!貴様が何故ここにいるっ!!」

「誰だアンタ!つか奥から出てきたなっ!?先輩の家で何してんだ、あ゛ぁっ!!?」

『あ、あの、政宗くん、三成さん、落ち着いて、えっと…!』




とてもいいタイミングで飛び出してきた三成さんに、その場の空気は一瞬だけ固まった

しかし直ぐに破れ互いに胸ぐらを掴み合う三成さんと政宗くん!あれ、三成さんは政宗くんを知ってるの?




「これも貴様の仲間か!仲間を呼び寄せるとは抜かりないな狐!だが私を欺こうなど百年早いっ!!」

「まさかNoを言えない先輩の所に無理矢理居座ってんのかっ!?オレが戻ったからには先輩を好き勝手にさせねぇぞ!」

『お、落ち着いて…!三成さん、政宗くん、あの…!』

「貴様は黙っていろ!」
「先輩は黙ってろっ!!」

『ひぃっ!!?』

「おいおい、お前さんらが結を怖がらせてどうする」



官兵衛さんの背後に逃げる私。彼のお叱りにグッと言葉を詰まらせるものの、政宗くんも三成さんも互いを睨むことを止めなかった

なんだか二人は、絶対に仲良くできない気がする




「チッ…いいか、先輩に何かしやがったらオレが許さねぇ。特に泣かせる奴はな、肝に銘じろ」

「ふん…この狐が勝手に泣き喚いているだけだ。口先で助けを請うしかできん」

『っ―……!』

「テメェ…!」

「いい加減にしろ三成!ん、おお、そうだ!権現と本多にも買った物を持っていってやらんとなっ」

「家康に?…って、何をする官兵衛っ!!降ろせっ!!」

『………え?』




突然、何を思ったのか買ってきた日用品…と三成さんを抱えた官兵衛さん。そのまま店を出ようとしたから大変だ

もちろん三成さんは暴れるけどそこは体格差。しかも武器は今手元にないし…その様子を見て官兵衛さんがカラカラ笑う




「じゃあ結、ついでに権現も連れてこよう。本多には悪いが、こっちに来た方が都合がいいだろ?」

「私を降ろせ!狐っ!!官兵衛は貴様の贄だろうっ!?私を降ろすよう命じろ!」

『い…行ってらっしゃい』

「貴様ぁあぁあぁっ!!!」




小さく手を振る私に怒鳴りながら、三成さんと荷物は官兵衛さんによって運ばれていってしまった

今から勝家くんの家に行き、家康くんを連れてくる。心強いにしても、だ。チラリと見上げた政宗くんは未だ不機嫌に扉を睨んでいた




「…何だ、アイツ…!」

『政宗くん…』

「っ…いいか、先輩。アンタが弱いんじゃねぇ、アンタが無理に変わる必要はねぇ、オレが…」

『…………』

「そのために…変わったんだ」




グッと眉間にシワを寄せ左目を細めた政宗くん。けど直ぐに私へと視線を移す

それは、さっきまでとは違う優しいもの




「アンタを誰もが独りにしようったって、オレは絶対にアンタから離れやしねぇ…任せろ、ほら!」

『………へ?』

「先輩が一人で店を再開する、て勝家から聞いたからな!オレ、こっちの大学に通うんだ。アパートからも近いしなっ」




ニッと笑った政宗くんが私の前に差し出したもの…それは簡易ながら確かに履歴書だった






「オレをアルバイトとして、この喫茶店で雇ってくれ」







20140225.
竜王と凶王は相容れない

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