再会


君は誰よりも優しかった

私は、そんな君に恋をしていたのかもしれない







『っ―…ん……あ…れ?』




視界に広がる茶色と土が湿ったにおい。風が吹く音とそれに伴い揺れる葉や枝

目を開けた私が居たのは見知らぬ林の中だった。いや、林か森か判別はつかない


しかしぼんやりと…私は彼らの時代に来たんだと気づく




『さて…どうしようかな』




とりあえず道なき道を抜け、人が通るであろう道らしい道を歩いていく

人里を探すか…得体の知れない私を果たして親切な人が見つけてくれるとは限らない。身の安全は自分で確保しないと




『にしても、我ながら行き当たりばったりだなぁ…誰か知り合いに会えたら、ん?』







遠くから立ち上る煙が見える

ああ、よく言うじゃないか。火のない所に煙は立たぬ。つまり文明、人里があっちにあるんだ




『あはー、早速いい感じに運びそうだね。言葉が通じるなら何とかなるさっ』




と楽観的に考えながら、煙の方向へ歩いていく。ちょっと遠いけど行けない距離じゃなさそうだ

そんなことを考えて浮き足立っていたんだろう。道から外れ、急な坂を木に掴まりながら登った


高い所からならば村が見えるかもしれない。そんな希望を持っていたけれど、登りきったその先は…




『よいしょっ…て、うわぁっ!!?』




何もない切り立った崖になっていた!

思い切り踏み出した足には何の感触も無くて、ズルリとバランスを崩した私はそのまま下へ


手を伸ばしたが、何かを掴めるはずもなく





『〜〜っ!!!!!』









ボスンッ







『…………ん?』

「あっ……ぶないなぁ!空から降ってくるなんて、天女様か何かかいお姉さん?」

『……へ?え?』

「羽衣が風に吹かれて飛んじまったとかさ。落ちたのが俺の腕で良かったね、ヘヘッ」

『あ―……』





いや、そんなまさか、でも、だって…!


落下した私を受け止めたのは、とんでもなく可愛く笑うお兄さんだった

派手な服装と髪飾り、高く結ったポニーテールがフワリと揺れる。逞しいその腕で、しっかりと私を抱き上げていた


見間違えるはずはない。ずいぶん大人っぽくなったけど、この子は…!






『そ……宗兵衛、くん…!』

「え?お姉さん、なんで、その名前…」

『っ、えっと、その…!』



ああ、やっぱり宗兵衛くんなんだ…!狼狽える私の顔を不思議そうに覗き込んできた彼

前は中坊だった宗兵衛くんだけど、今は私と同じくらいか


以前と変わらない大きな目、あ、でも鼻筋とか顔立ちはもっとキリッと逞しくなってる、ああ、やっぱりこの子まつ毛長いなぁ…




『―って、なにガン見してんだ私!我ながら気持ち悪いぞ…!』

「んー?何だかお姉さん、俺の知り合いに似てるような…」

『っ―……!』

「えっと…えーっと……」

『…………』




その男前な眉の間にシワをつくって、うーんと唸る宗兵衛くん

まさか…私を、忘れちゃった、とか…いや、そんなまさか!でもっ…!


彼の腕に抱えられたまま顔を青くする私。そんな私に対し、彼は顔を難しくしたままで―…








「……ナキ、ちゃん…?」

『っ!!!!!?』

「いや、違うな。ナキちゃんはもっと色っぽくて艶っぽい大人のお姉さんで―…」

『・・・・・』






ギュウゥウゥッ…!!!





『君の記憶の中の私はどんだけイヤらしいお姉さんに美化されてんだよ、ん?』

「痛い痛い痛い耳は止めよう!千切れるから耳引っ張るのは止めよう……って、ナキちゃんっ!!?」

『………ふんっ』

「本当にナキちゃんかいっ!!?うわ、久しぶり!10年ぶりじゃないか!」

『10年っ!!?え、君、まじで私と同じくらいの年に…』

「ナキちゃんが変わってなくて驚いたよ!ちなみにもう宗兵衛じゃなくて、慶次だよ。前田慶次っ」

『け、慶次くん…』



懐かしいなぁなんて笑う彼だけど、とりあえず降ろして欲しいな君の腕から

逞しすぎる腕を叩いて意思表示。いつまで抱えてるつもりだよ、そして…ありがとう




『お、お陰様で助かったよ…』

「ハハッ!やっぱりナキちゃんは危なっかしいよな。昔と変わらないや」

『…君も、変わらない』

「えぇっ!!?酷いなぁ…背も大きくなったんだけど」

『前でも十分デカかったじゃん』




大人になっても変わってない、さっきみたいな軽々しい台詞とかさ何だよ天女様って恥ずかしい

文句を言おうと慶次くんを見上げると目が合って、ニコッて笑って、ああ、もう…!




「ところでナキちゃんは、こんな所で何してたんだい?」

『…ついさっき、こっちの時代に来たんだよ。とりあえずは人里を探そうと思ってさ』

「うんうん、」

『あっちの煙、見つけたから。人がいるんじゃないかと…』

「あ……ダメだよナキちゃん、あっちへ行っちゃ!」

『へ?』

「あの煙はただの煙じゃないんだ…あれは、戦が起きてるんだよ」

『戦…』

「どこもかしこもあの煙さ。今日も明日も争ってばっかり…この先にあるのがナキちゃんの平和な時代って嘘みたいだ」

『…………』




煙の先を睨みながら慶次くんはギリッと、悔しそうに歯を軋ませる

もしかして彼は、あそこからの帰りなのだろうか。優しい彼は争いを止めようとしたのだろうか、彼は―…





『慶次くん、』

「あ……ごめんよナキちゃん!急に不安にさせること言っちゃってさっ」

『いや、別に不安になんかは…』

「ナキちゃんは怖がりな女の子だからね!大丈夫!こっちでは俺がナキちゃんを守るからさっ」

『なっ―…!ま、守るとか偉そうに言うなマセガキ!』

「ハハッ!もうガキじゃないよ、酸いも甘いも噛み分ける大人だ」

『っ―……!』

「それに、また会えるって信じてた。ナキちゃんにしたい話もあるし…ナキちゃんを見つけたのが俺でよかったなぁ」

『〜〜っ!!!!』





ああ、ほんとに何も変わってない

彼の言葉ひとつで一喜一憂する自分に腹が立つ、なんだこの気持ち、こんなのまるで私が―…




「あ、なぁナキちゃん、近くに町があるんだ。賑やかだよ!人も多くてね」

『っ―……あ、うんっ』

「迷子にならないでくれよ、さぁ、行くよ」

『え、ちょ、待って慶次くん!』

「ハハッ!」




駆け寄る私を振り向いて、やっぱり可愛く…かっこよく笑う慶次くん



その胸元ではあの頃には無かった…小さなお守りが、揺れていた







20140123.
酸っぱくて甘い気持ち


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