粘着系幼なじみ
「あ、いたっ!!おい又兵衛っ!!」
「ぁあ?……ああ、官兵衛さん。どうも」
「どうも、じゃないっ!!昨日は何だったんだ、傘持って来いって言ったお前がいなくて小生は…!」
「あー…完全に記憶から飛んでました」
「飛ばすなっ!!ったく…で?アパートまで無事に帰れたのか?」
「ええ、まあ」
「おう、それならいい」
学校で見かけた猫背に声をかける。怠そうに振り向いた幼なじみ、その頭を軽く叩いてやった
一個下の又兵衛は、この春に入学してきた一年だ。高校デビューと同時に家を出たらしいからな…小生としては心配もする
「ちゃんと飯は食ってるか?お前さん、昔から面倒だと飯も食わんからなっ」
「あ゛ー…うるせぇ…おとんですかぁ官兵衛さん」
「小生はお前を心配してんだぞ!学校でも問題ばっかり起こして…友達と仲良くできてるか?」
「…友達なんかいませんけど、むしろ作ろうとも思いませんけどぉ?」
「そりゃいかん!友達百人できるかな、だぞ又兵衛っ!!」
「…ノリもうぜぇ」
「真顔で言うなっ!!」
私生活もそうだが、又兵衛は友達作りがへたくそだった
小中学校でも喧嘩ばかりで…せっかくの青春だ、小生だけといても仕方ない
「よし、又兵衛!小生が友達を紹介してやるっ」
「はぁあ?そんなお節介いらないんですけどぉ」
「そうだなぁ…やっぱりナキか。ちょっと変わった女子だが面白いぞ!」
「聞いてます官兵衛さん?だからお節介なんですってばぁ、ねぇ、しかも女って…」
「これが愛想のない女子でな!だがナキと仲良くなればマドンナともお近づきになれるぞ!」
「いやマドンナとかどうでもいいですから、オレ様、友達欲しいとか一言も…」
「まぁ小生に任せとけっ…おっ噂をすれば!おーい、ナキっ!!」
「………あれ?」
ちょうどタイミングよく廊下の向こうにナキ…そして風魔と雑賀の姿も
おーいと手を振ればあっちも小生に気づいたらしい。ナキが少しだけ手を上げて返事を…
『後藤くんっナイスタイミングです』
「……………は?」
「…ども、ナキ先輩」
『ちょうど貴方を探してたんです。風魔くん、雑賀さん、こちらがお話した後藤くんです』
「二年の雑賀だ。小石から聞いている、見た目は怖いが小動物に優しい典型的な優良ヤンキーらしいな」
「……………」
「ちょ、なんて説明してんですかぁ?オレ様、別に、優良じゃ…」
『そんな謙遜せず。シロとクロの話を二人にしたらぜひ、後藤くんに会いたいと』
「まぁ……一年の後藤、です…はじめまして」
「ふふっ小石、可愛い後輩ができたじゃないか。いい先輩っぷりだ」
『からかわないでください雑賀さん。風魔くんもなに親指立てて…』
「小生を置いてきぼりにするなっ!!!」
『おや、黒田くんいつの間に』
「最初からだっ!!」
知らぬ間に話を進めるナキを慌てて止める!待て待て、どうしてナキが又兵衛を知ってるんだっ!?しかもすでに仲がいいっ!!
それを問えば昨日会いました、とあっさり答えるナキ…は、昨日?
『昨日、雨に打たれながら子猫とにゃんにゃんする後藤くんに会ったんです』
「普通に雨宿りって言ってくれませんかねぇ」
『その子猫を後藤くんが引き取ってくれて…あの後、シロとクロは元気ですか?』
「風邪もひかずに元気にしてますよぉ…気になるなら見にきます?」
『はい、ぜひ。雑賀さんと風魔くんもシロとクロに会いたいそうなんですがどうでしょう?』
「いいですけどうち狭いんでぇ、近所の公園で待ち合わせとか…」
「だから置いてきぼりにするなっ!!お、お前、猫を飼い始めたのかっ!?」
「まぁ…はい、二匹」
それがシロとクロってか。昔から小動物には好かれる奴だったがそれを早々に披露するとは
いやいや、だからアパートで猫を飼うのはまずいだろって
『懸命に生きる二匹と一人を追い出せと。そう言うのですか黒田くん、なんて薄情』
「い、言ってない上に一人って又兵衛かっ!?いや、だから、決まりってやつがあるだろ」
「……………」
『風魔くんは猫ちゃんのために猫じゃらしまで調達してきたんですよ』
「さっきからピコピコ揺らしてるの猫じゃらしかっ!?」
『見てくださいこの大きさ、しなり、なんと素晴らしいじゃらし具合』
「猫といえば猫じゃらしとマタタビか…任せろ、部屋いっぱいのマタタビは我らが手配する」
「それ近所中の野良猫が集結しないかっ!!?」
「ケケッ官兵衛さぁん、完全に遊ばれてますねぇ弄られてますねぇ」
「うるさいっ!!!」
こっちを指差して笑う又兵衛に便乗して、ナキも無表情のまま指を向けてくる…いやだから、いつの間に仲良くなったんだお前さんら
ちょっと人付き合いの方法が特殊だから気が合うのか。とりあえず幼なじみと高校初の友達、その二人に置いていかれたようで何だか悔しい
『ああ、そろそろ昼休みが終わりそうです。それでは後藤くん、黒田くん、さようなら』
「お、もうそんな時間…って、小生は同じクラスだろっ!?」
『あ、うっかりです。それでは後藤くん、また後で』
「………うす」
小さく手を振ったナキは風魔、そして雑賀と共に教室へ帰って行った
…さらっと又兵衛と約束しやがって
「まぁ、ちょっと話すには体力使うが悪い奴じゃない。それにほら、あの隣にいた雑賀がうちのマドンナで…」
「……………」
「…又兵衛?」
「…あの真っ赤っか、ナキ先輩の彼氏、なんですかねぇ」
「ま、真っ赤っか?風魔のことか?いや、そんな話は聞かんが…あの三人は入学した時から一緒だしな」
「ナキ先輩、部活は?」
「帰宅部だな」
「クラスは官兵衛さんと一緒、でいいんですよねぇ?」
「ああ……おい、なにメモしてんだ」
「ケケッ、別にぃ、あ。もう聞くことないんでぇ教室戻っていいですよ?」
「はあっ!?いや、なんでお前さんにそんなこと言われ…」
「昼休み、終わりますけど」
「あ゛あっ!!!」
又兵衛がメモ帳を片付けた瞬間、昼休みが終わり授業の始まるチャイムが響いた
20150112.
粘着系後輩と苦労人