Σ-シグマ-高校時代 | ナノ
飛んでけ紙飛行機


『テストというのは厄介ですね。実力をはかるといいながらも必ず教師の趣味が入りますから』

「……………」

『武田先生の問題が特に顕著です。気合いで解かなければ時間内に終わりません、解答も漢字ばかりで…上杉くんに喧嘩を売っていたのでしょうか』

「……………」

『ああ、ご心配なく。貴方や雑賀さんほどではありませんが、そこそこの点数を頂きましたから』

「……………」




そんな独り言を繰り返す私。いや、一応は目の前の風魔くんに話しているので会話だと言い張りたい


昼休みの今、私と風魔くんは机で向かい合って折り紙で遊んでいた

雑賀さんは二年の先輩に呼び出され留守。十中八九告白だが、彼女は「これが噂の面を貸せか!」と少し嬉しそうに出て行った。先輩は無事だろうか




『人気者ですね雑賀さん。来年、後輩ができれば更にファンが増えそうです。完全に姐御ですから』

「……………」

『私は特に後輩とも仲良くできる気はしません。きっと来年も貴方や雑賀さんと一緒でしょう』

「……………」

『…そのガッツポーズは何ですか。昼休みが終わる前にその折り鶴を仕上げてはどうです?』




それ、と指差したのは風魔くんが作っている折り鶴だ

彼が持ち込んだ折り紙は紙質といい色合いといい、一目で上等なものと分かる。こんな暇つぶし、百円で十分なのに




『…まぁ、いいです。貴方も庶民からかけ離れているようですし』

「……………」

『え、何ですか私の手元を見て…風魔くんと同じく鶴を折っているのですが』

「……………」

『おいおい冗談きついぜ!みたいな顔しないでください。不器用なんです』




とんでもない物を見るような風魔くんの視線の先には、私が折った鶴らしきものがある

羽と頭と尻尾の違いが解らない。四方が全て同じに見えて我ながら、うん、仕方ないよね




『風魔くんが器用過ぎますからね。ハイスペック流石です』

「……………」

『え、そういう問題じゃありませんか?って、あ…』

「……………」




私の手からひょいと折り鶴を奪った風魔くん。そしてサッと開いてササッと折り直して…あっという間に綺麗なそれを完成させてしまった

そして再び私の手に戻す。ちょこんと首を上げた鶴と顔を合わせた




『……ありがとうございます』

「……………」

『…変な人ですよね、風魔くんって。出会いから奇妙でしたが…私にこうも構うなんて』

「……………」

『似た者同士ではありますけど』




入学式の日からずっと一緒な私たち。ただ雑賀さんは他の人とも仲良くできていて、対する私たち二人のコミュニティは狭い

どこの輪にも入らず教室の隅にいるんだから。まあ、他の人と話すこともないけれど




『しかし貴方はハイスペック男子なんです。ちょっと頑張れば芋づる式に女の子がほいほいですよ』

「……………」

『そんな顔しないでください…けど、このまま高校を終えるのはつまらないでしょう?直に後輩ができて、あっという間に卒業です』

「……………」

『…別に、私は…それで構いません。今に十分満足しています』

「……………」

『あ………』




私がそう告げたら風魔くんは何を思ったのか、新しい折り紙でササッと紙飛行機を作る

そして…窓からそっと風に乗せて飛ばした。あっという間に消えていく紙飛行機。私たちはそれをただ見つめている




『…行っちゃいましたね』

「……………」

『いったい貴方が何を言いたいのか、それは解りませんが…風魔くんも今のままで満足してます?』

「……………」

『そうですか、では引き続き暇つぶしに付き合ってくださいね』

「……………」




おっしゃ任せろ!と風魔くんが親指を立てた瞬間、昼休みが終わるチャイムが鳴り響いた











「見てくれ小石!今日の昼休み、先輩から果たし状をもらった!」

『嬉しそうに見せないでください雑賀さん、それ、果たし状じゃなくてラブレターです多分』

「ラブレター…そうか、果たし状ではなかったか…やはりこの手の話、小石は詳しいな」

『いえ、ラブレターと果たし状の違いには気づいてください。それに詳しくなんかありませんよ』




ラブレターなんてもらったことありませんから


放課後、嬉しそうに果たし状…改めラブレターを見せてくる彼女

それが果たし状じゃないことを知れば残念そうな顔で破り捨てる。いえ、せめて読んであげてください




「……………」

『なんですか風魔くん、私に書いてくれるんですか?欲しいわけじゃありませんよ、多少…憧れますけど』

「ふふ、乙女だ。可愛いな小石」

『雑賀さんに口説かれました。そしてからかわないでください』

「ああ、すまない。帰りに買い食いというものをするか、奢ろう。風魔も来るだろう?」

「……………」

『では、3人で…』

「あ、おいナキーっ」

『行きましょうか』

「無視すんなっ!!!」

『……何ですか、黒田くん』




いつものメンバーで帰ろうと席を立ったその時、ドカドカと近寄ってきたのは黒田くん

彼が目の前に来た瞬間、さり気なく私を隠す雑賀さん。どこのイケメンですか




『そして上機嫌ですね黒田くん』

「お、解るか!実は小生の幼なじみがうちの高校に合格してなっ」

『黒田くんの…では来年、後輩になるんですね』

「おう!ナキたちも可愛がってやってくれよ!ちょっと人との付き合い方が苦手な奴で…」

「小石、話は終わったか?」

『あ、はい。黒田くん、また先輩面ができるようになって嬉しいみたいです』

「そうか、黒田は先輩面をしたいのか」

「……………」

「違うっ!!あと、こっちを指さすな風魔っ!!」

『……しかし黒田くんの幼なじみ、ですか』




それはまた、どんな屈強な男子が来るんでしょうか

そんなことを考えていると、黒田くんが二人並ぶという光景が浮かんだので考えるのを止めた





20141221.


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