We Copy !!
『よいしょ…っと、着きましたーっ』
「なんだ、思ったよりもしっかりした旅館じゃねぇか。これなら部屋や温泉も期待できるな」
『ですね片倉さん!天・然・温・泉の四文字に心踊ります!』
「とにもかくにも荷物を部屋へ、話はそれからよ」
「そうだね、行こうか吉郎」
「ああ」
『あ、こらタケちゃん!ちゃっかり兄さんの隣を死守しない!待って私も行く!』
「やれやれ…」
兄さんたちの会社の計らいにより、やって来ました温泉旅行!少しだけ田舎なここは緑も多くて、雰囲気も老舗っぽさを出している
私と兄さん、同僚の大谷さんと昔からの付き合いな片倉さん。そして不服ながらタケちゃんを含めた五人旅です
「ほら雪子、君は悠々自適に一人部屋だろう?早く荷物を置いてきたらどうだい」
『ぐ……!』
「僕らは残念ながら四人で一つの部屋だからね、ああ、残念だ。じゃあ吉郎、一緒に行こうかっ」
『ぜんぜん残念な顔してない!満面の笑み!私も兄さんと同じ部屋がよかったっ!!』
「バカ言うな雪子、吉郎や竹中はまだしも俺や大谷も一緒なんだぞ」
『う゛ぅ……!』
落ち着け、落ち着け、と私をなだめる片倉さん。そりゃ私も仮にですが年頃の娘です
せっかくの旅行。限られた時間。なのに私だけ仲間外れだなんて
『…別に私、片倉さんや大谷さんと同じ部屋でも平気です』
「いやいや、まずいだろ」
『だって、前はひとつ屋根の下で一緒に暮らしてたじゃないですかっ』
「そりゃそうだが、今は俺が困るんだよ」
『え……』
「やめよ、」
『わっ!!?』
「っ―…」
こつん、と私たちの頭が叩かれ、振り向けば背後には大谷さん。私と片倉さんを見比べて、しーっと人差し指を立てる
「吉郎や竹中殿の前で昔の話は厳禁よ」
「そう、だな…」
『兄さんたちは前世の記憶なんかありませんしね…』
「いやそれよりも。昔とはいえ雪子との同棲などバレてしまえば、われらの命が危うい」
『おぉう…!』
「雪子、何を話している?早く行くぞ」
『あ、はーいっ』
『ご飯、美味しかったですね!盛り付けも綺麗で、お魚も新鮮でしたっ』
「小ぶりだったけどな、味は悪くねぇ」
『片倉さんのおかげで肥えた舌でも大満足ですっ』
「お、おい雪子…!」
「小十郎…いつお前が、雪子の舌を肥やした…!」
「ち、違うぞ吉郎!勘違いだ!」
『か、片倉さん料理上手って聞いてるからなーっ!!旅館レベルで美味しいのかなーっ!!?』
「ふふっ、片倉くんも独り身だからね。昔よりも腕は上がったんじゃないかな?」
「外食ばかりのぬしよりは上であろうな、ああ、睨むなわれもしかりよ、ヒヒッ」
『あ、あはは…』
大谷さんが話題をそらしてくれたおかげで、何とか兄さんの矛先が片倉さんから外れてくれた
失敗した、ごめんなさい…!と合図すれば片倉さんは肩をすくめる。旅館での夕飯をすませた私たち。さぁ、旅行の楽しみも残るは温泉のみ!
「ああ、吉郎。君の背中は僕が流すよ。そうだ、雪子も…って、君は仮にも女性だから無理だったね、ふふっ」
『わ・ざ・と・だっ!!ズルいタケちゃん私も兄さんの背中流したいっ!!私も男になりたいっ!!』
「それは止めろ雪子、お前が男になったら政宗様が嘆き悲しむ」
「三成は間違いなく危ない道へ転がり込むゆえ、ぬしは今のぬしでいてくれぬか」
…まぁそんな冗談は置いておいて。私だけ女風呂なのは避けられない事実
男、と書かれた暖簾の向こうへ消えていく皆。その背中を見つめてため息…いや、仕方ないけどさ
『…今日はお客さんも少ないみたいだし、のんびり入るとしますか』
温泉から出たら皆へのお土産を見よう。それを楽しみに、私もパサッと暖簾をくぐる
『あ、露天風呂!やっぱり温泉には欠かせないよねーっ』
案の定、独りぼっちの貸切状態だった女湯。ゆっくりと湯船に浸かっていた私が見つけたのは、露天風呂への扉だった
やはり天然温泉。いろんな効果が書かれた看板を順番に読んでいく…けど途中で飽きた
『今日は天気もいいし…よし、行ってみようっ』
ガラッと扉を開き外へ飛び出した私。昔から説明書を読むのが嫌いだったけど、この時ばかりはちゃんと注意書きを読んでおけばよかったと思う
『あ……星、綺麗』
パチャッと跳ねたお湯と見上げた空で光る星。こんなに広い露天風呂、初めてだなぁと小さく笑う
家ではできないから、と存分に伸ばした手足。ほんの少し濁りが見えるお湯が、尚更天然温泉っぷりを出している
『兄さんたちも温泉、楽しんでるかな』
体格が大きな兄さんでも、ここならゆったりと満喫できるはず
ちょっと体が弱くてウンチクが大好きなタケちゃんは、温泉の効果を確かめてはいろんな湯を楽しんでるかもしれない
未だに肌の露出と大勢が苦手な大谷さんだけど、兄さんやタケちゃんと一緒なら気楽に入れているだろうか
そして―…
『……片倉さんも、楽しんでるかなぁ』
この旅行も私たちが無理矢理連れてきたようなものだった。旅行券をくれた会社、そこに勤める三人と親族の私
片倉さんは言ってしまえば無関係。それでも来てくれたのは、例えそうでも彼も大事な友人だから
『友人、友人か…なんかしっくりこない…それにしても男湯の方、静かだな』
タケちゃんがまた私の悪口言ってるんじゃなかろうか。そう思い、広い湯船の反対側。男湯の方向であろう場所へ移動する
ジャバジャバと進みながらふと気付いた。あれ、女湯の広さに比べて…この露天風呂かなり大きくない?
外にこんなスペースを作るなんて。まるで女湯と男湯、両方に繋がってるみたいな。そう思った次の瞬間―…目の前にふっと現れた人影
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
……わぁ、素敵な胸板
『って、きゃあぁあぁあぁあっ!!!!!?』
「うぉおぉおっ!!!!!!?」
バッシャーンッと水面を叩きお湯を飛ばせば、目の前の人影も叫んで退くがいかんせん湯船の端っこ!逃げ場はない!
目が合った人影の胸には女性のような膨らみはない。もちろん叫び声も低くて妙にドスがきいている。か、彼は…!
『な、なななんで片倉さんが女湯にいるんですかっ!!?信じてたのに!片倉さんは硬派だと信じてたのにっ!!』
「て、ててテメェ雪子っ!!どこから男湯に入ったっ!?いくら兄貴が大好きだからって覗きはやめろっ!!」
『え、ここ、女湯…』
「あ?男湯だろ」
『…………』
「…………」
『…………』
「…………」
『混浴かっ!!!』
「混浴かっ!!!」
ここにきてようやく気付いた私たち!この露天風呂は混浴だったんだ!
きっと注意書きも従業員さんからの説明もあったはず。すっかり頭から飛んでたけど
『…ハッ!ま、まさか片倉さんは混浴と知ってて露天風呂にっ!?破廉恥です!破廉恥極まりないですっ!!』
「んなわけあるかっ!!テメェこそ解ってて入ったのか…!そんなはしたない娘に育てた覚えはねぇぞっ!!?」
『育てられた覚えもありませ―…って、み、見ましたっ!?胸とか見えちゃいましたっ!?』
「み、みみ見てねぇよ!」
『私はバッチリ見せてもらいましたけどね!』
「黙ってあっち向いてろっ!!」
『ふぎゃあっ!!?』
そっぽ向いた片倉さんに頭を無理矢理反対側に向けられる。痛いです、と言えばすまん、て
静かになった露天風呂で背中を向けあう私たち。そりゃ広いわけだ。そしてまさか片倉さんと出くわしてしまうなんて
「…竹中が煩くてな。喧しいわけじゃねぇが話が長い」
『逃げてきたんですね。そんなの昔からじゃないですか』
「まぁな、そりゃそうだ」
背後でクツリと笑う声がした。お互いになんとか落ち着きを取り戻し、背中を向けあって露天風呂で二人きり
彼なら絶対に振り向かないと信じてる。それに、振り向かれたって…いやいや何でもない
『片倉さん片倉さん、片倉さんは今日楽しかったですか?』
「ああ、もちろんだ」
『こっちの時代に生まれて生きてきて何番目にですか?』
「あ?そりゃ…逐一覚えてねぇよ、その時に楽しけりゃいいからな。どうしてそんなことを聞く?」
『私、今が楽しいので。片倉さんも楽しいならいいな、と』
「…そうか、安心しろ。楽しい」
『そうですかっ』
それはよかった、と私は再び空を見上げる。やっぱり星が綺麗で、あの瞬く光の中に一度目の兄さんや片倉さんたちがいるのだろうか
そして今の片倉さんは、ずっと昔から私たちを側で見守ってくれている
『…やっぱり友人、はしっくりこないです』
「なんの話だ?」
『何でもないです!片倉さんたちは大人だなーっと。私ももっと年が近かったらよかったのに』
「ははっ、昔から俺らの妹分だったんだ。今の差ぐらいがいい」
『えぇー、私だって大人なお姉さんがいいですよ。ええ、大人なお姉さんがよかったです……はぁ、』
「なに残念なため息ついてんだ、胸なんざあっても無くても大差ねぇ」
『大差はある上に何故、胸で悩んでると解ったんですか…!』
「そりゃ雪子がいつも愚痴吐いてるからだろ、それに安心しろ、昔よりは成長してる」
『…昔の胸と今の胸、いつ見たんですか?』
「…………」
『…………』
「…………」
『…………』
・・・・・・。
『やっぱりさっき見てたぁあぁあぁあっ!!!!!』
「じ、じじじ事故だっ!!安心しろっ!!胸と認識できたっ!!」
『そこでサイズ感のフォローいらないですっ!!うぁあぁあんっ!!!お嫁に行けませんんんんっ!!!』
「し、心配すんな!責任は―…」
バッコーンッ!!!!
「ぐあっ!!?」
「まったく…混浴、に嫌な予感がして来てみればこれか。見損なったよ片倉くん」
『タケちゃんっ!!!?』
盛大な音と共に風呂桶が片倉さんの頭に直撃っ!!
飛んできた方向を見ればちゃんとタオルを腰に巻き、仁王立ちするタケちゃんがいた。混浴にいたら性別がますます行方不明だよタケちゃん
「ぐっ、て、テメェ、竹中…!」
「睨む前に言い訳をしてくれないか?よくも僕らの可愛い妹を辱しめてくれたね」
『た、タケちゃん…!』
「残念だが君に雪子はやらないよ。なんせ吉郎の義弟になるのは僕だからねっ!!」
『やっぱりかっ!!!』
さぁ覚悟したまえ、再び桶を構えたタケちゃんの背後には別の人影も二つ
ああ、南無三。なんとなくそんな気はしていました
20140703.
キリ番1800000マフネ様へ
mae tugi