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―…堀が落ちるのに時間はかからなかった









『っ、まだ、遠い…!』




黒い空に近い天守閣

三成が居るであろうそこはまだまだ遠く、騒がしさの増す場所で私はただ独りで走っていた

もしたどり着いたとして、何を言うかは決まってないけれど




『それでも……っぅ、うわっ!!』



ズドンと遠くから響く大きな音が迫り、すぐ側で地面を震わせる爆発音

途端に背筋がゾッとする。そうだ、大坂の陣と言えば…!



『お城へ大砲が撃ち込まれるんだ!急がなきゃ、あ、でも、歴史ではそれで降伏するわけだし…!』




…いや、三成が大砲くらいでおののくとは思えない。やっぱり直接彼と話さなければ

そう思って今一度走り出す、が、再び遠くから響く爆発音。近づくそれに嫌な予感がする、そして―…





「雪子殿っ!!!」

『え、あ、きゃあっ!!?』




それが私に迫ってきた瞬間、現れた赤い影が間に立ち一閃を走らせる

遠くに消えた爆発音。その爆風と煙の合間に見えたのは結われた長い髪と揺れる鉢巻きだった






『さ、なだく―…!』

「ご無事か雪子殿!お久しゅうござるっ!!」

『う、うんっ!!ありがとう!』

「何のこれしき!やはり此方へ来ていたのでござるなっ!!またこうやって会えるとは!」

「感動の再会は後にするんだお二人さんっ!!」

『あ―……!』



次に現れた影は来た道…東軍が迫り来る側で私を庇うように立つ

彼もまた見慣れた人、戦場での再会ながらツンと鼻の奥が痛くなった




『佐助さんっ!!!』

「まったくこんな所まで来ちまって!姫さんってば俺様の寿命を縮めるの好きだよな本当!」

「佐助っ!!!雪子殿は―…!」

「解ってる!俺だって会えたことは嬉しいさ、だからこそ、こんな場所にいつまでも―…!」

『え、あ、きゃあっ!!?』

「っ―…ほら言った側から!」



再び近くで響く爆音と届く地響きに、私は持っていた巾着を握り小さくなる

その様子を隣で見た佐助さんがあることに気付いた




「その袋って…風魔の…!」

『え、あ、はい!私をここまで連れて来てくれたのは小太郎くんなんですっ』

「なんと!風魔殿まで此方に居るのか!」

『堀からここに来る時、これを預けて行ってしまって…政宗さんや片倉さんとも会えたけど…』

「っ―……」

『元親と元就さんは安芸に。私、何とかして……佐助さん?』

「だから…嫌だったんだよ…!」



ふと顔を上げれば何処か苦し気な佐助さんと目が合う

悔しそうな、それでいて悲しそうな。そんな声で途切れ途切れに呟いた




「見せたく、なかったのに…」

『え?』

「だから来てほしく、なかったんだ…優しいアンタに、こんな戦なんか…!」

『佐助さん?』

「っ、大将、アンタが―…!」

「佐助!雪子殿を安全な場所までお連れせよっ!!」

「大将っ!!!」

『真田くん?』



佐助さんにそう言った彼は槍を握る手に力を込め、敵兵が迫ってくるであろう先を睨む

敵兵が迫る、それはつまり―…




「あちらの防衛もそう長くは持たぬであろう」

『っ―……』

「大将!」

「逃げろとは言うておらぬ!雪子殿を送り届けた後には戻ってこい!」

「…当然だろ」

『え、ま、待って!どこ行くの真田くん!』

「武田はあちらで構えておる故、大将である某がそう長く陣を離れるわけには参りませぬ」

「待てなくなって飛び出しちゃうくせにさ」

『っ―……!』





真田幸村…彼は…!





『真田くんっ!!!』

「雪子殿!また後でゆるりと話しましょうぞ!」

『っ―……!』

「此方へ来られたのだ。案内したい場所も、会わせたいお人も、お聞きしたい話も山ほどに」

『…………』

「雪子殿の作られた甘味を食しながら、皆でまた会いましょうぞ!」

『……うん、真田くん…また、あ……!』

「…………」




私が全てを言い切る前に、佐助さんに抱えられこの場を後にした







『……佐助さん、』

「ここ。真っ直ぐに行けばいいよ、大谷の旦那や石田の旦那が居るはずだから」

『…………』



長い階段の前で私を降ろした彼は、その先を指差しながら告げる

三成と…大谷さん。三方ヶ原で雑賀さんから聞いた話を思い出し、巾着を握る力を強めた




「雪子は、この戦の結末を知ってるんだろ?」

『っ―……!』

「それを変えに来た…でも何で泣きそうなのさ」

『なんで、て…再会しても、みんなが、何処かに行ってるからです』

「…そっか。じゃあ俺様が大将のとこ戻っても泣いちゃうわけ?」

『真田くんみたいに、小太郎くんみたいに…また会おうって行ってくれたら、我慢できます』

「ん……」




ゆっくりしてる暇なんかないはずなのに、佐助さんは考えるように目を閉じた

ただの一言に何を悩むのか。それが不安で彼を見つめるしかできない、しばらくすると―…




「俺様しか、知らなかったはずなんだ」

『え?』

「雪子が夢で悩んでるのを初めて知ったのは俺様で、誰に会った何があったか。俺様が一番先に知った」

『…………』

「なのに夢から雪子を救ったのは毛利の旦那だろ?こっちでアンタを守ってたのは風魔で…」



ほんと、俺様ってば中途半端

そう呟いて苦笑いした佐助さん。そんなこと、ないですよ




『佐助さんが私に、私は必要だって、言ってくれたから…』

「…………」

『秘密も不安も全部隠してくれてたから、だから、私は―…!』

「俺は“お返し”してただけだよ」

『あ……』

「何もできないとかさ、もう嫌なんだ。雪子もそうだからこっちに来たんだろ?あは…一緒だよねー、俺たち」



でも、俺とアンタは違うんだ。そう言ってまた笑った佐助さん

けどさっきと違うのは、その表情がとても優しかったということ。ゾッと…嫌な予感がした



『さ、すけさ…私は…!』

「アンタは死んじゃダメだ。“残される”雪子が一番辛いのは知ってる」

『〜〜っ!!?』

「けど、心配しなくたって俺でも…アンタの大事なもの一つくらいなら守れるんだ」

『佐助さ―…!』

「じゃあね、」




ひらりと手を振った彼は一瞬で闇へと消えた

私が伸ばした手は誰も掴まない。彼もまた、この場に私を残し去っていく。ただ一つ違うのは、




『じゃあ、ね……?』




佐助さんの言葉に思い出したのは、歴史が好きだった兄さんからずっと昔に聞いた話







「なんだ、雪子は真田幸村が好きなのか?」

『だってカッコイイもん!覚悟とか、徳川家康を追い詰めたりとか!最後は…』

「はは、戦国武将はその悲劇性が好まれる…だがこんな話は知っているか?真田幸村が実は大坂の陣を逃げ延びたという説だ」

『え?あ…そんな話、たくさんあるもんね』

「俺は真田幸村に関しては信憑性が高い気がするが」

『どうして?』

「ああ、何せ真田幸村には―…」






優秀な影武者が居たのだから、






20131004.
一番聞きたくなかった言葉





mae tugi

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