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全てを俺が終わらせる。そう友に、仲間に、死んだ野郎共に誓ったはずなのに


この冷たい男の顔を見るたび思い浮かぶのは…小さなアイツの、見慣れた泣き顔だった





キンッ




「っ―……!」

「やはり…来るのは貴様であったか長曾我部」

「チッ…!」



軽く走った刃と刃の擦れる音

後ろへ飛び退く俺に対し、目の前の男はクルリと一回転するだけで微動だにしない。そして再びスラリ身構えた


この細い体の何処に俺を弾く力が…いや、違う




「何を躊躇っておる」

「っ!!!!?」

「貴様…よもや我らの契りを忘れたわけではあるまいな」

「忘れるかよ―…!」




目を細めた毛利の言葉に俺は苦々しく返事を返す

何度も何度も足を運んだ赤い社…今日こそ全てを終わらせると来たはずだったのに




「…やはり、彼方で長く過ごしすぎたか」

「うるせぇっ!!!!」

「我を殺めることを躊躇するか、呆れるほど甘い男よな」

「違うっ!!!アンタみたいな男でも―…!」

「…………」

「死んじまったら…雪子が泣いちまうだろ…!」




雪子を泣かすんじゃねぇ、

それが俺の出した約束だった。だが俺は今、アイツを泣かせに此処へ来ている




「…………」

「馬鹿なことを言ってるのは重々承知だ!それでも…俺は…!」

「…我の示した約束も忘れてはおるまい」

「っ……!」

「“此方での情を持ち込むな”と言うたであろう。貴様は早速破っておるがな」

「そりゃ…」

「我は躊躇などせぬ、貴様や徳川の望む結末になどしてたまるか」



そう静かに言い放ち、毛利は今一度俺に向けて刀を構えた

それはやけに落ち着いていて…そうだ、初めからコイツは俺が来ることも知っていたような振る舞いだった



「毛利、アンタは…!」

「貴様がやらずとも我が貴様を斬り捨てる」

「っ―……!」

「我に勝つつもりで来たか?愚かよ長曾我部…貴様ごときに易々と殺られる我ではないわ」

「……ああ」

「あれを泣かせるのは我ぞ。貴様はその身をとして雪子を泣かせるだけよ」

「…………」




毛利の言葉を考えるように俺は目を閉じた。戦独特の臭いが広がっている

迷うつもりはねぇ、ただ、決心がつかねぇ。やはり毛利の言うように…俺は彼方で長く過ごしすぎた



「だが…ケジメはつけなきゃならねぇよな」

「ああ」

「“最後の約束”もある…きっと、迷ってるのは俺だけだ」

「ああ」

「…………」




一呼吸置いた俺は掴んだ碇を高く持ち上げ…地面に突きつける!

ダンッと大きな音をたて突き刺さったそれ、ああ、そうだ、ここは俺にしか動かせねぇ場所



「毛利…俺はアンタを討つ!死んだ野郎共の弔だっ!!」

「…………」

「全て終わったその時には…雪子が泣き止むまでずっと俺が側に居るっ!!」




そして…




「アイツを泣かせるのはこれが最後だ!」




すまねぇと謝る俺を、アイツは許してくれるのだろうか





「毛利っ!!!」

「…………」




迷いが晴れた…いや、無理矢理に晴らした片目が我に向けられた

愚かだと散々言い捨てた男が今、我に碇を振り降ろす。再び響き始めた刃の擦れる音が幾重に重なった



「っ―……」

「チィッ―…!」





何度も読んだのだ、この戦の結末を。繰り返される戦と徳川の築く新しい世…そこに我は居らぬと

ならば変えてみせよう。我の知った未来とやらをこの手で。そう思い練った策にて運んだはずだった


それなのに―…




「雪子にアンタの本性を知らせるつもりはねぇっ!!!」

「…………」

「知って悲しませるくらいなら…!俺は喜んでアンタを殺した悪役になってやるよっ!!」

「……喧しい口よ」




我と同じく関ヶ原の場へと立つはずのない男

我の策を狂わせるはコレだけと、そう、気づいていたはずなのだ




キンッ―……



「っ―……!」

「毛利っ!!!!」






“私は貴方を信じます―…”




そうか…貴様は初めから、





「我が…どのような男かなど、知っていたな…」




それでも信じたのだな


高く振り上げられたそれは光を受け眩く、我目掛け落ちてくる様さえ確認できない




「あんたのことは―…!」





忘れさせなどするものか、







20131001.
あの子はまだ泣き虫だから、やはり再会はできないらしい





mae tugi

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