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「…………」

「家康様!」

「っ…ん?どうした?」

「い、いえ、何処かお疲れのようでしたので…お休みになっては如何ですか?」

「んー、そうだな。だが少し散歩をしてくるよ、なに、遠くへは行かないさ」



見上げた先に黒々とそびえ立つ城。ここまで来てしまったのか…近づく最期、この手で決着を付ける



「…相変わらず気味の悪い城ですな」

「そうか?ワシはなかなか気に入っているぞ」

「は?」




闇に包まれたような城を見ていると、かつての友と焦がれた人を思い出すからな








「…おお、今夜は月が綺麗じゃないか」



陣から少しだけ外れた林の中を歩く。枝を踏むたびペキリと音がした

ここは大阪…三成の刀先が届く場所。そこを独りで歩くとは些か警戒が足りないかもしれない。しかしここならば会える気がした。今夜なら会える気がしたんだ


幼い頃、暗闇の夢で泣くワシに…声を掛けてくれたあの人と




『…家康くん―…?』

「っ―……雪子、…?」

『あ…やっぱり家康くんだっ』

「っ!!!!」



不意に聞こえた声に歩みを止める。望んだ声だ、いやまさか

試しに呼んだ名にも返事が返る。ハッと振り向けば月の光も届かない木々の奥、枝や葉を鳴らしながら近づいてくる気配

それは段々と人の姿となり…光が雪子を照らした



「雪子っ!!!」

『久しぶり…』

「本当に雪子なのかっ!?ははっ、久しいな!会いたかった!」



隠すことなく本音を告げて彼女に駆け寄る、が。その表情を見て再び立ち止まる

真っ赤な目、泣いた痕の残る頬…まるで夢の中に居る彼女そのままの表情だった



「雪子…お前は…」

『家康くん…三成を、討ちに行くの…?』

「っ―……!」

『元親は、元就さんを討ちに行っちゃった…私は、あの人じゃなくて、他の皆を選んじゃった…!』



そう言い切った瞬間、雪子はボロボロと泣き出してしまう

その様子に固まっていた足は動き出し、彼女のすぐ側まで駆けつける…だが触れられずにいた



「…孫市に会ったのか?」

『うん…全部、聞いた…元親が何をしようとしてるのか、どうしてなのかも分かってるつもり』

「…ああ、」

『なのに仕方ないって思えない…!でも私には二人の邪魔をする権利なんてないっ』



震える声で今の思いを告げる雪子、ワシはただそれを聞いていた

悩んでいるんだ。自分の気持ちと行動の矛盾に、ワシには分かる。だって…同じだから




『私じゃ戦なんか、歴史なんか動かせないって分かってた…でも、誰にも死んでほしくないって思った!』

「ああ…雪子は優しいからな、知ってる」

『でも、いろんな人を巻き込んだだけで、私は何もできてない!』




今も、貴方に気持ちを吐き出しているだけ―…




『綺麗事だけじゃ皆を守れない…分かってるのに…!』

「…雪子は、その綺麗事を貫いてくれ」

『え―……』

「誰も死なせたくない、戦なんかしてはいけない、それは確かに綺麗事だ。だが雪子がそれを否定しないでくれ」



ハッと顔を上げた雪子、しばらくするとまたグニャリと表情が歪んでいく

ああ、なんだ…ワシが思っていたよりお前は泣き虫なんだな




「いいか?何があっても、これから何が起こっても、雪子がその手を赤く染めてはいけない」

『っ―……家康くん?』

「どんな綺麗な言葉を並べても…矛盾があってはただの嘘だ」



全てが終わった後、戦のない平和な世になったとしても…ワシがしたことが正当化されるとは思っていない

同じなんだ。東も西も、結局していることに変わりはない



「争いのない世界、それを綺麗な手の雪子が言うから意味がある。皆が信じるんだ、そうあり続けると思える」

『でも…私、ただの女子大生で…秀吉さんの妹じゃないよ』

「ははっ、じょしだいせーが何かは知らないが。雪子は日の本の多くの将と友だ!もしかしてワシより多くの絆を持っているかもなっ」

『…………』

「…全てが終わった時、雪子の綺麗事はきっと真となるよ。ワシが真にしてみせる」

『家康くん…』

「だから…必ず生き残ってくれ。ワシはそれだけを望むから」



な?と再度笑い掛けてみれば、雪子は難しく考えるような素振りを見せた

そんなに考え込むようなことじゃないぞ。そう思っていると彼女はパッと顔を上げる


そこには…忘れられない笑顔



『…うん、私もう少しだけ、願ってみる』

「ああ!ワシも願うさ、そのために待ち続けた!」

『待つだけじゃなく、叶えてみせますホトトギス!』

「ははっ!言葉の意味はよく分からないが、雪子らしいことは分かった!」

『あははっ』

「っ―……」



涙も止まった雪子…彼女は最期の夢で言った。自分は豊臣の縁者かもしれないと

ならば、ここに居る理由は―…




『…家康くん?どうかした?』

「雪子は…三成の所へ行くのか?」

『っ―……うん。私は大阪を選んだ、三成に会いに行く』

「そうか…ワシも三成に会いに行く。全てをこの手で終わらせにな」

『…………』

「…厳しい戦になるだろう。多くの人が死んでしまう…ワシは負けるつもりはない、だから雪子!」

『え……』




そっと彼女に手を差し出した。これをするのは二度目だな

前は夢の中で共に来て欲しいと懇願した。結局は拒まれ…その手は毛利に取られてしまったが



「…ワシと共に来て欲しい」

『家康くんと、て東軍に?』

「ああ、必ず守る。雪子を傷つけたくないんだ…!こちらへ来てくれ!」




いや…違う、

傷つけたくないなんて、それこそ単なる綺麗事だ




「三成の所へ行かないでくれ…」

『っ―……!』

「ワシの手を取ってくれ雪子!」

『…家康くん、』



そして彼女の返事も分かっている




『…東軍には行けない。皆を守れる可能性が残ってない』

「っ―……そう、か…」

『家康くんも知ってるでしょ?三成には大谷さんが居るけど、いつも寂しがってるの』



だから、行ってあげなきゃ。そう言って困ったように笑う雪子はもう決めているらしい

また…この手は取ってもらえなかったのか。分かっていたのに痛いものだな



「ははっ、またフラれてしまったな」

『フラれ―…え、ちょ、そんな意味じゃないよ!』

「三成はもてるなぁ!あんなに恐ろしいのに、雪子にまで」

『いや、だから―…!』

「本当に…うらやましい限りだ」

『……家康くんっ』

「っ!!!」




浮かせたままだった手が雪子の両手に包まれた

感じる人肌にハッと彼女を見ると、こちらを見上げてふんわりと笑っている


初めて…触れたんだ



「雪子…」

『家康くんの…綺麗事も、素敵だと思う』

「っ―……」

『家康くんの綺麗事と矛盾がね、長い安泰の時代を創るんだよ。自信を持って!』

「……ああ、」

『家康くんもまた会おうね…これをお別れにはしたくない』

「っ、ああ…もちろんワシもだっ」



肩に腕を回してみても拒まれることは無かった

何度も繰り返した夢の邂逅…それは全て、こうやって会うためのものだった。ワシだって雪子の行く先を照らしたかった



「…ワシは諦めが悪いから、皆に雪子を見つけた場合は保護するように頼むと思う」

『あは…それ、必死に逃げなきゃだね』

「ああ。中には太閤の残したお前を疎ましく思う者も居るだろう…注意してくれ」

『うん、分かった。小太郎くんにもお願いしとく』

「……小太郎?」



腕から雪子がするりと抜けた瞬間、彼女を強い風が拐っていった

キシリと揺れた木を見上げれば…そこには雪子を抱えた忍の姿が



「風魔っ!!?」

「…………(怒)」

『ま、待たせちゃってごめんね!もう終わったよ…行こうか』

「…………」

「うわっ!!?」



再び強い風が吹いたかと思えば、黒い影は雪子と共に消えてしまっていた

行ったのか…ああ、行ってしまったか




「…また、ワシの前から消えたのか…ふふっ」



彼女に触れていた手のひらを見つめる。確かに雪子はここに居た

さぁ、交えた約束を果たしに行こうか






20130813.
やっと権現ターン
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着々とルートが狭まっています





mae tugi

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